『ラストマイル』
・『ラストマイル』を観た。
舟渡がぐっすり眠れるようになるまでの物語。舟渡が勤勉さという呪いから解放されるまでの話でもあり、梨本が呪われ始める話でもあった。この物語のビターなところは、根本的な解決がまったくできていないところだ。
ラストマイルは呪いの引き継ぎを描いている。連続爆破事件を解決して、働く人の待遇を改善しても、呪われ続ける。
受け継ぐことに注目すると、運送業の親子の会話が印象的になる。70の父が40の息子へ「これしか教えるものがなくてすまねぇな」みたいなことを言う。
そして、息子が爆発に巻き込まれた時、「貴様! 運転手の命をなんだと思ってる!」と声を荒らげ配送センターの管理職へ掴みかかる。
あの親子はラストマイルを象徴している。命をなんだと思っている。というのは、利益を最優先事項として動く社会への純粋なカウンターだ。
命を何だと思っているシーンといえば、レーンが再始動する場面だ。追い詰められ過ぎた人は最期に、自分の命を使って訴えを起こすことの嫌なリアルさ。それでも何も変わらない(変えられない)社会というシステムの怖さ。
最適化されたシステムの中で人間は最適な動きをすることしかできないが、すぐに限界がきて、眠れなくなって、壊れて、次の人が送り込まれる。命を大切にすることが組み込まれたシステムは機能しないが、命を大切にしないシステムは、それ自体が致命的な事件を引き起こす欠陥がある。
・事件はすでに始まっていて、すでに終わってもいる。被害を食い止めたようでいて、見方を変えると甚大な被害がある。
1つの事件で多面的なものの見方ができるので、その焦点にいる舟渡が間違いなく主人公になっている。キャラクターを置く位置がきれい。運命の配置も綺麗。
舟渡目線だと、連続爆破事件は、間に合わなかった事件であり、間に合った事件でもある。ここの味がかなりMIU404と似ている。