イスタンブールHamam旅③公衆ハマムの入店法と必須アイテム
前回の記事では、トルコ風呂、あるいはトルコ版サウナと認識されがちな「ハマム」という入浴法が、厳密にはお風呂(温水浴)でもサウナ(蒸気浴)でもなく、むしろ岩盤浴に近いような、緩やかな熱気の中での発汗法だ…ということをご説明しました。
それでは、実際にハマムに通う人は、どのようにして一連の入浴時間を楽しんでいるのか…今回と次回の記事では2回に分けて、入店から入浴、休憩、退店までの手順や作法を詳しく紹介します。なお、プライベート型ハマムでも楽しみ方自体に基本的に大差はないのですが、今回は、実際に常連の方たちの楽しむようすを目の当たりにできた、公衆浴場型ハマムでの体験や情報をもとにレポートしますね。
まずは前編、入店方法と携帯アイテムの解説編です。
(撮影はすべて各所で許可をもらって、村瀬健一さんが撮っています。)
公衆ハマムの入浴料はどれくらい?持参物はある?
公衆ハマムは男女別が基本で、それぞれのプライベート空間を厳格に仕切るという伝統から、入口が完全に分かれています。同じ建物のまったく別方向に入口があるケースも。扉をくぐると、モザイクタイルの張り巡らされた趣ある通路を進んだ先に番台があります。
料金は、入浴料自体が300-400トルコリラ(=1500円前後)で、スタッフによるケセと呼ばれる洗体やアカスリサービス料が150-250トルコリラ(=800円前後)、マッサージは簡易な施術ならそこに含まれていたり、別料金で時間をかけたオイルマッサージなども頼むことが可能です。商売的には逆じゃないの?という気もしますが、洗体サービスのほうが入浴料よりずっと安いのですね。このことからも、ハマムに通う人は浴室を利用するだけ…という人はあまりおらず、ケセサービス込みで入浴しに来るのが常識だとわかりました。
だから、常連さんと行っても毎日来る人はほとんどいないようで、話を聞いていても、週一かもう少し気まぐれにか…というのが一般的のよう。プライベートハマムよりは断然安いですが、決して日常価格ではないですし、垢すりは一度やったら数日はどう擦ってもそれ以上出ないですからね…苦笑。
まして、わたしたちのように一日何軒もハシゴするというのは狂気の沙汰みたいで、「入浴だけでいいです!」と言っても、何を言ってるんだという顔でなかば無理やりケセサービスをつけられ、1日何度も肌をガンガンこすられるも垢も何も出なくてなぜかこちらが申し訳ない気持ちになるはめに…
ほとんどの浴場で、入浴中に必要となる腰巻き(店舗によってはサウナパンツ)、バスタオル、サンダルは一式無料で貸してもらえるので、持参すべきものは特にありません!ただし、プールがついているような大型施設の場合は、男女別であっても全裸で泳ぐことはしないので、水着持参になります。石鹸類は設置してあるわけではないですが、洗体を任せる限りは持っていく必要はありません。
飲み物や、浴場によっては軽食なども、すべて番台で買えるので、なにかを持参している人は見ませんでした。何箇所かの浴場では、受付時にミネラルウォーターボトルをくれたり、冷蔵庫を指差して「どれか取っていっていいよ」と言われ、とくに請求もなかったので、飲み物も含まれていたのかもしれません。
ちなみに、もろもろの入浴料は後払い(現金のみ)という店舗が多かったです。カードはまず使えないので現金のご用意を。
更衣室を兼ねたベッド付き個室を借りられる!
番台でタオルなどを受け取ったあとは、一人ひとり、なんと鍵付きの個室に通され、この個室を更衣や入浴後の休憩室として利用します。
ハマムの基本構造として、この更衣室兼休憩スペースはだいたい吹き抜けになっていて、1,2階の壁周りにずらりと個室が並んでいます。個室には簡易ベッドもあり、小さいながらもこのプライベート空間の存在は尊い!世界どこでも公衆浴場といえば、ずらりと並んだロッカールーム共有の光景が定番ですものね(メキシコのバニョスも似たような個室システムがあったけれど)。こういうところにも、ハマム建築とサービスの緻密さの伝統継承を見て取れて嬉しくなります。
吹き抜け1階部分には、昔ながらの大理石の噴水が設置されていて、その周りにいわゆる「ととのい椅子」が置かれ、お客さん同士がおしゃべりしながらくつろぐ公共スペースになっています。
ハマム浴室へは、基本的に体にタオル(腰巻き)を巻くか、特に男性はサウナパンツのような下着を履いて、恥部をきちんと隠し、サンダルを履いて入室します。夫の体験談を聞く限りでは、男性側では、浴室でも洗体時も含めて下半身をさらけ出すことはなかったよう。
一方女性側では、少なくとも私が訪れたところでは、移動中や休憩中はバスタオルとは別に渡されたペシュテマルと呼ばれる薄手タオルを体に巻きますが、入浴や洗体・垢すり時にはそれらは寝転ぶ場所のシーツ代わりに使い、施術師に全裸を見せるのが普通でした(施術師はもちろん全員女性です)。女性は男性ほど恥じらいはないのかな?とも思いましたが、この男女の習慣の違いは、あとで歴史的慣習を紐解くと納得。また次回の記事で触れたいと思います。
万能な薄手タオルと下駄風サンダルはトルコ土産にも最適
浴室編の前にトルコハマムで必ず目にする(そしてだんだん欲しくなる)定番アイテム2点をご紹介。まずは、先述したペシュテマル(Peshtemal)という、パイルのない薄手コットンタオル。腰巻きに使ったり、洗体時のシーツにしたり、休憩時に体を覆ったり…と多様な使い方のできる万能タオルで、ハマム入店時に必ず貸してもらえます。絶妙にソフトな肌触りで、吸水性や速乾性もあるし、折りたためばかなりコンパクトになるので、間違いなく入浴時に重宝する一枚になりますよ!
このペシュテマル、バザールなどに行けばいろいろ色柄もあるのですが、公衆ハマムで貸し出されるものや、スタッフが腰巻きで利用しているものは、高確率で赤のタータンチェック柄なのです!次点として、その青版もときどき見かけたかな。ハマムに関する古い歴史絵画では、似たような綿布を腰に巻く様子は描かれているもののチェック柄は見かけないので、このトレンドは何世紀も昔から…というわけではなさそう。
ともあれ、トルコ旅から帰ってきてからも、この決して珍しくない赤チェック柄を街なかで見かけるたび、無条件に「ハマム柄!」とときめくようになるくらい、今日のトルコハマム体験を象徴するパターンです(笑)
いっぽう、こちらはもう現代のハマムでは使われる機会が減ってきたものの、伝統的に浴室へ履いていくのは、なんと日本の下駄そっくりな木製のサンダル、タクンヤ(Takünya)。1施設だけで実際にお目にかかれたのですが、履き心地はまさに日本の下駄そのもので、大理石製の硬い床を(やや底の安定感が悪い)木靴で移動するのは正直ちょっと歩きづらい!
形も表面も装飾的なのは、歴史的に女性が堂々と外出し、オシャレを楽しんだりと女性らしさを開放できる場だったから。床ですべったり汚水を踏まないで良いように…というのが下駄を履く一番の理由らしいですが、歩くときのカラカラという軽妙な音で、客の存在を確かめたりもしていたのだそう。浴室特有のアコースティックの中で響き渡るこの音に、無償に懐かしさを感じたのは、きっと浴衣姿で石造りの境内を歩いた縁日の夜を彷彿とさせるからだったのでしょう。結局、歩きにくいなあとか散々文句を言っておきながらもこの音に惹かれ、ペシュテマルと合わせてバザールでセット購入してしまいました(笑)
次回予告。
次はいよいよハマム浴室の設備と入浴法の解説編。トルコハマム流の楽しみ方を伝授します!