膝が痛いだけで孤独死寸前→入院→今日生還したITコンサルの怖い話(第6章:ゴッドハンド現る)
5月11日(火曜日)、個室から四人部屋の病室へ移動した俺は、「荷物取りに帰らなくても、Amazonで必要なもの注文しちゃえばいいじゃん」ということに気付き、さっそくiPhone用のイヤホンと、iPhoneでKindle本を読む用のルーペメガネを注文した。翌日には病室に届くはずだ。
これでiPhoneでいつものiPad同様の暇つぶし環境が整う。あとは膝の痛みを何とか解消して仕事復帰の目処をつけなければならない。
点滴は、俺の指摘もあってかソリューゲンF注は不要となり、抗炎症抗生物質のセファゾリンNaのみとなった。
膝の痛みはほとんど変わっていない(ロキソニン服用後5時間ほどは和らぐが、早朝には以前同様の痛みが襲ってきていた)。
が、看護師が言うには、「先生によると、明日血液検査と尿検査をして、問題なければ退院できるらしい」そうだ。
いやいや別に俺は検査の数値を改善しにきたんじゃなくて、膝の痛みの原因をはっきりさせて、明確な対処によってそれを解消したいんだ。膝が痛いまま帰ってまた朝起きられなくなったらどうするんだ?
何かゴールを勝手にすり替えられてないか?
と疑問が頭をもたげてきた。
しかしここでそれを言っても始まらない。明日、痛みが改善しなければそれを伝えてみよう。
5月12日(水曜日)。
朝起きて、テレビを適当にモーニングショーに合わせる。「コロナ下で深刻化する男性の更年期障害」とかでチェックリストが表示されていて、ふーんと眺めていると、最後の方に「早朝勃起がなくなった」という項目があった。
いや、俺若い頃からそういうのないなあ。気付いてないだけか?
この日ですでにオナキン・スカイウォーカーの誓いを9日ほど継続していたが、そのようなヤンチャな事象は今のところ発生しておらず、当然ながら、それを目撃した看護師さんに「あら、元気なのねぇ」などとマジマジと見つめられ云々といった方向に話が発展することも一切なかったのである。
しかし俺の場合、あのウンコ座りして店頭にたむろす若者にしか聞こえないと噂の「追い払い用モスキート音」、アレ未だにガンガンに聞こえちゃうし、実は身体年齢20歳かもしれない、などと妄想を繰り広げているところに、検温、血圧測定の看護師がやってきた。
体温はこの日、36度台の平熱に落ちていた。血圧も特に変わりない。でも膝はやっぱり痛い。とはいえ、何となくではあるが、「痛みの発生している場所」が細かく判別できるようになってきたというか、ピンポイントにここが痛い、という場所が膝まわりとふくらはぎ付け根に数カ所、触ってわかるようになってきた。
昨日もらった「本日の予定」という紙片は今日は渡されないようだ。ひょっとして気分次第なのか?
朝食を食べていると、小栗38%先生がやってきた。
小栗38%の背後に吉高23%先生も「こそこそ」って感じに控えている。
小栗38%「どう。膝は良くなってる?」
俺 「まだ動かし方によってはズキィィンとはするんですが、痛いところがはっきりしてきた感じはします。」
小栗38%「ちょっと見せて」
小栗38%「ほら、ここ赤い筋出てるでしょ、これ細菌性だと出るやつ。」
確かにスネのあたりがうっすら赤みを帯びているような。でも足の甲や足首はもっとむくんだように腫れて赤くなっている。これもなのだろうか。
小栗38%「今日MRI撮ります。明日血液検査して結果よければ退院ね。昨日の採血の数値良くなってたから。ひょっとしたら最初の検査の時は水分不足で全部高めに出てたかもね。」
ん?血液検査ってガブガブ水飲んで薄めると数値下がるようなもんなのか?
それはさすがに不変の血中物質との相対比較とかで判定して欲しいぞ。
そしてMRIの時間となり、今度は勝手に歩いてMRIの部屋に行って、ということでエレベータ乗って3階へ。部屋ではまた例のおっさん若手コンビが待っていた。CTの時と違いおっさんがなんか丁寧口調だ。ちゃんと髭剃ってシャワー浴びたからか?
CTの時とは異なり、足をガッチリと添木的なものとタオルで固定して、MRIの騒音対策用のヘッドホン(何かミドルテンポのイージーリスニング的な音楽が流れていた)を装着され、ちょっとずつズラしては「ギィィィィン」みたいな感じを繰り返すこと10数回。足を動かさないように意識を集中していると逆にピクッとなりそうなので必死で別のことを考えて耐える。
無事終了してマシンから排出された時、しっかり固定されているままの足を確認して、若手技師が無言でガッツポーズした。CTの時もこういう感じで固定したかったってことか?そういやCTの結果って何も聞いてないな。
MRIが終わり、病室に戻ると、セファゾリンNaの点滴を繋ぎに看護師がやってきた。今日のリハビリの時間は11:20らしい。あと1時間くらいだな、と思っていると、隣のベッドについに別の患者がチェックインのようだ。階段から落ちたか何かで足首を骨折したおじいさんのようだ。明日手術らしい。しかし話を聞いていると、どうも個室経由ではなくいきなり四人部屋に来たっぽい。あれ?言ってること違うやん、と思ったが、ツッコむ気など元々無かった。こちらはまな板の上の鯉、俺に出来ることは「事後的に」何が起こっていたかを書き起こすことだけだ。
リハビリの時間がやってきた。
足を引きづりながら3階へ移動し、笑顔が破裂しそうな長身のフィジカルトレーナーYさんに身を任せる。痛みの解像度が上がってきた気がすること、筋が張るような動きをすると激しく痛むこと、等を伝えると、
トレーナー「それじゃあ、うつ伏せになってください」
俺 「はい」
腿裏の張っている筋の部分と、ふくらはぎの硬くなっている部分を中心に丹念に、5ミリずつくらいずらしながら揉みほぐしてゆく。
痛いと気持ちいいの中間から少し痛い寄りくらいの、ギリギリ耐えられる程度の絶妙の圧迫だ。太ももから臀部と揉み終わったところで、脚を股関節から外側に開く動きのストレッチを何度も行った。これも痛いギリギリのところだ。
トレーナー 「じゃ、立って歩いてみてください」
俺 「はい」
あれ、なんか痛みを感じる怖さが薄れてスムーズに立ち上がれた。
歩いても、引き付けるときの瞬間的な痛みはあるが、発症前と変わらないテンポで歩行できるようになっていた!
トレーナー 「それじゃ試しにバイク漕いでみましょう」
負荷低めで、動きの方向が制限されて全く痛く無いため、ケイデンス70以上、往年のランス・アームストロングか、という勢いで5分のメニューを終えた。
トレーナー 「次は、この手すりにつかまりながら、足裏をつけたまま腰をぐーーーっと落として行きます」
とストレッチ、筋力トレを終えた頃にはじんわりと汗をかいていた。
戻って昼食を取り会社に「回復してきたので、再来週頭から普通に仕事できそうです」と連絡した。明確に痛みの改善と歩行スピードの回復が見られたため、心が軽くなっていた。実家等にはもともと「膝が痛いだけなので、痛くなくなってきたら退院するし、心配しないでいいよ」と伝えてあった。
部屋の通路挟んで反対側に、新しい患者さんが入ってきた。
職業病的な何やらで肘から肩が痺れて痛むので、明日それを改善する手術をするらしい。(ちなみに、勝手に聞こえてくるだけで、患者同士の会話はゼロである。カーテンで仕切られており、顔を合わせることも無い。)
こちらもコロナ検査して個室に隔離されていた様子はなく、うーむと思ったがめんどくさいので考えるのをやめた。
そうこうしている内にAmazonで注文していたiPhone用イヤホンと、拡大メガネが届いた。これでiPhoneでKindle本を読んだり、YoutubeやMリーグをくっきりしっかりと視聴可能な環境が構築できた。クォリティオブライフに陰りなし、だ。GW延長戦を満喫しよう。
5月13日(木曜日)。
朝の検温、血圧測定の時だったか、2日ぶりに、例の「本日の予定」メモを渡された。
俺 「あれ? レントゲン撮るんですか? あと今日もリハビリあるような?」
看護師「あ、これレントゲンじゃなくてリハビリか」
と赤ボールペンで訂正する
俺 「・・・」(大丈夫かなあこの病院)
そして朝食を済ませていると、また小栗38%先生がやってきた。吉高23%先生は相変わらず背後にこそこそっと控えている。今日はもう一人色々と黒光りしているとしか形容のしようがない先生もいた。
小栗38% 「どう? 良くなった?」
俺 「昨日リハビリ受けたら痛みがかなり減って結構普通に歩けるようになりました」
小栗38% 「良かったね。じゃ今日採血して結果悪くなかったらいつでも退院していいよ。」
俺 「はい」(マッサージで治っちゃったでいいのか。原因分析とかデータとかってこのまま説明なしなのかなあ)
小栗38% 「いつ退院するか考えといて」
俺 「はい、、、そう、話変わるんですけど、吉高23%先生、携帯の着信でベートーベンの交響曲7番鳴らしてたじゃないですか、あの曲お好きなんですか?」(クラオタの可能性があるならそこはブッこんでおかねばならない)
吉高23% 「えっ えっ? 私じゃないと思いますけど、、、」
黒光り 「吉高23%、のだめの携帯だろ」
単に「のだめカンタービレ」のテーマ曲としてしか認識されていなかったのであった(笑)
先生軍団が去り、11:20のリハビリまでの暇つぶしでKindle読書に勤しんでいると、
謎の女性 「シーツ交換しまーす。リハビリ行くんでしょ。」
俺 「いや、11:20なんでまだ1時間くらいありますけど」
謎の女性 「10:20だよ。リハビリの間に変えとくから」
俺 「え?」
確認してもらったら、リハビリ10:20からだった、、、
たまたまシーツ交換来てなかったらすっぽかしてたってこと?
この本日の予定って紙、信頼度ゼロだな、なんか前のと大きさ違う。コピーのコピーのコピーを切り取った感じで紙のサイズもバラバラだ。
正しい予定情報がどこかにあるなら、紙経由して超絶伝言ゲームしないでいいからこっちでアクセスして閲覧できるようにしといて欲しい。
どんだけ間違った情報でみんな振り回されて空回りしてるんだろう?
この病院だからこうなのか? それともどこでもこんなもん?
などと呆れている間もなく、3回目のリハビリに行かねばならない。
次回、多分最終回、更に出現するイケてない事象と入院料金に潜む罠。
ITコンサル的視点で改善ポイントをまとめてみよう。
乞うご期待!
(続く)
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