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Mリーグはどのくらい運ゲーなのか定量的に検証してみる(長文)

Mリーグが今日4年目の開幕を迎えるに際して、色々と思うことをメモっておく。ちなみに私は麻雀業界と何の関係もないヘタクソな麻雀愛好者である。理系っぽい話が延々続くので、そういうの興味ない方は斜め読みを推奨

そもそもMリーグは、「興行」なのか「競技」なのか

ここで「興行」とは見せ物、「競技」とは収益性よりも公正性を重視するゲーム、といった意味で書いている。別に背反する概念ではないが、見る側はともかく、やってる側の意識はどうなのか、推測してみる。

まず、Mリーグが麻雀業界で最も華やかで注目を集める舞台であることは間違いない。

麻雀業界は、そもそも薄利多売かつ小規模でビジネスとして上方ブレイク困難な雀荘経営に下支えされているため業界内部からの大規模投資による大々的なイベント、国民的な注目を集める機会が生まれにくいという構造があった。もちろんそこには競技性に由来する博打イメージが付き纏うため、子供世代まで目に触れる大型コンテンツとして打ち出しにくい、という理由もあっただろう。

そこを藤田社長がほぼ個人的な熱意によりeスポーツ文脈で賞金スポンサーをゲットし、サイバーエージェント的に「金食い虫だが最重要ビジネス」であるABEMAをプラットフォームとすることで運営自体を参加企業とWIN-WINのまま内製化できた、という奇跡的なブレイクスルーがあって、念願の「舞台」が生まれたと理解している。

選手もプロと称しながらほぼ全員対局料払って打つ実質アマチュアだったのが、「年俸」を貰える層がトップに出来て本当の「プロ」が生まれた。

要するに、プロ野球でいうと創成期の正力松太郎時代みたいな感じか?
いや、Mはもっと興行寄りか、だってリーグのチェアマンが参加チームの監督を兼ね、自社の媒体で運営して、他チームの選手がその媒体の宣伝までしてるんだから。アベマプレミアム、登録してね!ってさ。

野球で言えば、阪神の選手が読売新聞のCM出てるようなもんだw

つまり、そもそもが業界的に救世主的な「興行」なので、とにかく拡大・定着の流れを作りたい、本音言えば関係者の誰もそこに厳密な競技性なんか求めてないし、とにかく欲しいのは話題とドラマとスター。
なんとかして乗りたい、このビッグウェーブに、ってとこだろう。

いや私は全然それでいいと思うわけで。それで経済的に回って麻雀が健全に普及することで全員幸せになるんだから。

でも、じゃあMリーグはプロレスなんですか?っていうと、そういうわけでもない。麻雀卓の中では公正にルール守ってやってるわけだから、そこは完全に「競技」として成立している。

運要素があるのは麻雀が不完全情報ゲームだからで、それは「競技性」や「フォーマット」の話。公正性には関係ない。
オリンピックやプロスポーツだって運要素は程度に差はあれ存在するからね。

ところが、Mリーグを
「日本で最も麻雀が強い人たちの最強を決める頂上決戦(と称している)」
と捉えてしまう一部の視聴者は、その価値観とのギャップにもやもやすることになりがち
で。

「俺より下手なやつが運ゲーで脚光を浴びてるのムカつく」みたいなw

で、結局どのくらい運ゲーなのさ、って話がいつまでたってもふわっとしてる。なのでちょっと数学やシミュレーションでその運ゲー具合を定量的に説明してみようか、というのがこの記事のテーマである。

運ゲー度を数値化してみる(数学編)

Mリーグのレギュラーシーズンは各チーム90半荘を闘う。コレってどのくらい運ゲーなのか。まず麻雀とは切り離した数学の世界で見てみよう。

各選手が全員1位から4位を同じ確率で取ると仮定した場合に、8チームが結果的に取りうるポイントの分布は以下のように求められる。

最初に、シミュレーションではなく、解析的に求める。
「解析的」というのは、簡単に言うと数式で答えが出せるってことだ。

①半荘毎順位の母集団分布は、1位から4位まで同確率で一様なので、以下となる。
平均 2.5
分散 {(1−2.5)^2+(2−2.5)^2+(3-2.5)^2+(4−2.5)^2}/4 = 1.25
標準偏差 √1.25 = 1.118

コレは1位、2位、3位、4位が100万回ずつ有っても不変だ。この独立かつ同一な分布(母集団の分布が何かに依存して変動したり、データ同士が相関関係にあったりしない:半荘単位の結果ならそう言えるだろう)から無作為に90個の標本を取った時に得られる半荘順位の平均がどのような分布を取るかというと、
中心極限定理(ググってね)により、平均2.5、標準偏差1.118/√90 = 0.118 の正規分布に収束する。

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正規分布なので、その確率密度関数から、例えば10%の確率で平均順位2.349以下になるとわかる。これが1シーズン闘った結果得られるチームの平均順位のバラツキだ。
要するに、ある平均的な実力を持つチームが10回レギュラーシーズンを戦ったら大体1回は平均2.349位以上の好成績になるってことだ。(統計では5%を「ありうる」か「ありえない」かの分水嶺にすることが多いが、実はあんまり意味無いのでここでは確率でそのまま表現してゆくことにする。)

②コレをすごく簡単にポイント換算してみる。
例えば着順が1位から27-24-20-19(平均2.344位なので、ほぼ10%点だ)、順位ごとに取れる平均ポイントを1位から60、10、-20、-50と仮定する。Mリーグのウマとオカ考えたらそんなに外してないだろう。

この時、上記の場合のポイントは+510ポイントになる。

つまり、単純化すると、平均的な実力のチームでも10年応援してれば1回は+500オーバーの年が期待でき、同じく1回は-500オーバーの大惨敗を喫しても普通のこと、と言える

チームの期待順位はもちろん1位から8位まで12.5%ずつだ。
じゃあシーズン1位のチームは平均何ポイントなの?っていう話が出てくる。コレは少しだけ数学的にややこしい話になって、「順序統計量の取りうる値の分布」という概念になる。これもベータ分布っていう正規分布がちょっと歪んだような形に落ち着くことが知られているのだが、まあ大体分布関数で1/(N+1)刻みのとこに順位毎の山が来る。

だから全チーム真の実力が同じとした時、シーズン1位チームが取る平均ポイントは大雑把に上から11.1パーセンタイルのとこになる。つまり上で計算した10%点よりちょい下くらい。平均順位換算で2.356位の480ポイントくらいだ。

90回打つチーム戦でこのくらいのブレ(誰も知らない真の実力からの誤差)が出るなら、打数がより少ない個人だとどうなっちゃうのか。

同様のやり方で1シーズン23回(10回の人、30回の人もいるけど、平均的なとこで)、全員が全順位を同確率で取る実力だとして計算してみると、
この場合、23回打っての平均順位は、平均2.5、標準偏差0.233の正規分布に収束する。

上と同様の計算で、実力は平均だけどたまたま個人成績1位のプレイヤーは、平均2.063位の成績(9-7-4-3だと+380、9-6-5-3だと+350、11-4-4-4だと+420ポイント)で400ポイント弱のプラスが運だけで出ちゃうことになる。運だけじゃないよと言いたければ+500は欲しいかw
5位で2.26、10位で2.38くらいなので、それぞれ期待ポイント+209、+104ってとこ。要するに、毎年出る個人成績の結果は、このくらいのブレが全員に無作為に振り分けられた結果のものだってことだ。正直50ポイント、100ポイントの差は「無視してよいゴミ」なのだ。

シミュレーションしてみよう

さて数学的にちょっと計算しただけでもこのくらいのバラツキが出る、とわかったところで、説得力を増すために今度はシミュレーションで色々遊んでみよう。ちょこっとプログラム書いて回してみる。ソノケンさんならこのくらい自力で出来そうっていうかやってそう。

強い人と弱い人がいるとして、どのくらいの差があれば運をぶっ飛ばせるのか?

まず、以下のような8チームがいたとき、90戦でどのくらい順位に影響するか試してみよう。

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AチームはMリーガーの中で2.3てことで「人智を超えた神のチーム」、Bチームでも超強豪。Cは攻撃型強豪、Dは守備型強豪、E、F、Gは華のないその他大勢、Hはなぜか紛れ込んでしまった初心者選抜チーム。

この8チームがレギュラーシーズン90戦を10000回(実際にやったら10000年かかるところ、シミュレーションだと1分)戦ったらどうなるのか?

はい、結果出ましたよー
まず順位の分布!

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さすがにトッププロの中でも2.3の平均順位を叩き出すメンバーを4人揃えた神のチームAは盤石。しかーし、それでも半分しか首位取れていない。0.5%予選落ちで阿鼻叫喚。
本来なら超強豪(現実に強そうな人上から4人集めたらこのくらい?)のBチーム、それでも4%くらいは予選落ち。5位以下が20%くらい。
C(攻撃型)とD(守備型)だと半荘単位の平均順位が同じでもトップが美味しい分Cの方が明らかに上に来てる。FとGはトップ率の差が順位に影響。
紛れ込んだHはそれでも1割近い予選突破率に。

ポイントはこんな感じ。meanが平均ポイント、25%は10000回中下から2500番目のポイント。

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ポイントの分布。地味なチームは省略!

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というわけで、Mリーグは圧倒的な力を持っていても現実的な範囲だと「必ず優勝する」なんて絶対無理。当たり前の結論w

なお、90戦あってもこれなので、個人戦だと神のAさんでも20パーくらいはマイナスポイント食らう。Bさんで34パーくらい。神Aさんと超強豪Bさんが23戦した場合の期待ポイント分布がこちら。

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神のAさんでも去年の萩原さん状態になる可能性がない訳ではないっていうね。超強豪Bさんでも結構マイナス域でかい。「実力派の〇〇さんは必ずプラスになる」とか幻想っす。どなたか俺は真の実力が対Mリーガーで2.2位だって主張される方いらっしゃますかー?

Mリーグは運ゲーなのか

で、このくらい運ゲーだよとわかったところで、他の「競技」と呼ばれてるモノと比較してみよう。競技力が同じくらい結果に反映するのに必要な時間という尺度で並べてみるのだ。時間当たり技術依存度と言い換えても良い。

なんで「時間」が出てくるかというと、「コンテンツ」として成立するかどうかの尺度がそこにあるからだ。ある単位時間でどのくらい「強さや弱さ」を見られるかって話。いや別に顔芸や噛み芸に価値を見出してもいいんだけど、この記事ではそれはテーマ外だ。

サッカー
最近の川崎Fとか海外ビッグクラブだと、9割くらいの試合に勝ったりする。麻雀ですげー強いBさんが9割くらい勝つ(=プラス)ためには250半荘程度が必要なため、サッカー1試合90分、Mリーグ半荘1回90分として時間当たり技術依存度はサッカーの250分の1。バスケはもっと極端かも。

野球
すんごい強いプロチームは7割くらい勝つ。
麻雀ですげー強いBさんが7割くらい勝つ(=プラス)ためには30半荘程度が必要なため、野球1試合180分、Mリーグ半荘1回90分として時間当たり技術依存度は野球の15分の1

ゴルフ
比較が非常に難しいが、試合で予選突破が勝ちであるとすると、最強のプロは9割以上突破する。2日のラウンド=10時間とすると、250半荘つまり375時間との比較で時間当たり技術依存度は37.5分の1。1ホールの結果と半荘1回の結果が同等くらいの価値か。

囲碁・将棋
一番強い人は、強い人たちとばかり当たる中で8割勝ったりする。もちろんん素人相手には100%勝つ。
1試合5時間として、麻雀でこの状態(BさんがCさんやDさんに8割勝つ、Hさんに99%勝つ)が実現する半荘数は500戦以上。時間当たり技術依存度は囲碁将棋の250分の1

はい、もちろん麻雀はものすごく技術が結果に反映するまで時間がかかるゲームなのだ。だから現実的には「技術を結果で表現」するより、「過程や思考を別に説明してあげることで強さをわかってもらう」方が手っ取り早いってことになったりして。いろんな人がMリーガー強さランキングみたいの出してるけど、試合結果関係なくバラバラだもんね。「俺のすごい評価」しちゃう人たちも、結果なんか関係ないよねってわかってやってる。
そんなの麻雀くらいだね。首位打者取れば上手いバッターだって誰もが思うし、得点王取ればNO.1ストライカーとだいたい思われる。だからこのすごい選手を入れたらチームが強いとか、意味のある分析が成立する訳だ。
そういう意味で、実力が圧倒的だとか、そういう文脈でスターを生み出すのが無理なMリーグというフォーマットで、どうしたら競技力をテーマにできるのか?
次はそこを考えてみる。

麻雀の運ゲー要素を薄めるとすると?

じゃ麻雀を運ゲーじゃなくするためにはどーしたらいいのって話なんだけど、基本はルールを変えるか、ポイント以外で評価する、のどっちかしか無いよね。

ルールを変えて技術アウトプット頻度を増加させる作戦
麻雀は14牌から選んで捨てる、風露、リーチ、くらいしか判断タイミングが無く、そのうち9割くらいは誰がやっても同じ。判断が分かれる時は結果の期待値も大差ない。要するに技術依存で結果に影響する行動の頻度が時間対比絶望的に少ないわけだ。だったらそれを増やすしかない。

・ブラックジャックのインシュランス的な、派生的な取引手段を増やす
→どんな状況でも悩むに値する選択肢が存在する状態にする訳だ。手牌が悪いからオリ、早くて高いからリーチ、とかではなく、リスクヘッジするのか、コスト払っても倍掛けするのか、悩めるようにする。こういうの用意されてないのって麻雀くらいでは。ポーカーは当然として、バックギャモンでも「ダブリング」があるしなあ。金融だとディーラーはマーケットがどうなったらこういうリスクの分布になりますっていう全方位予想をリアルタイムで確認しながらゲームしてるのよ。
あと役の翻数見直し。リーチとホンイツ、喰いタン使われすぎでしょ。役の発生率考えて狙う期待値揃えて欲しい。喰いチャンタ2翻にしたら?中国麻雀はその辺は日本のより良く出来てるよね。

・鷲巣麻雀みたいに不確定要素を減らして完全情報ゲームに近づける。
→今の麻雀、誰も一点読み無理な世界観で勝負してるわけじゃん。18筋のうち何筋通ったからもうヤメとか、微妙な確率しか出てこなくて見てる人共感しにくいっしょ。だから自己満オカルト解説でも許されちゃうわけでさ。もっと読みが普通にできる状態にしたら攻めぎあいの面白さがビビビっと伝わると思うのよ。マンピンソーの牌種別に背の柄変えるとか、良さそうじね?「場合の数」で読みが成立するレベルに落とすわけよ。

ただ、これらの妄想は、赤入りを採用するだけでも英断っていう現状を考慮すると現実にはまあ無理だね。

ポイント以外で勝負する
人智を超えて強い麻雀A Iに打牌単位で評価させて公表するわけよ。
将棋はもうそういうステージに行ってるね。
麻雀のポイントは半荘終わらないと確定しないから、途中経過としての行為が良かったか悪かったか、わかりにくい。いわゆる麻雀用語としての「デジタル」って単に「天鳳でこういうときにこうしたら結果的に有利でした」って統計データで、見てる人には「こういうとき」が具体的に示されないから観戦のお供にはなりにくい。だから、この局面での最善手ランキング的なのが見えて、一致率やら総合類似率やらを出せれば、1半荘に1000回くらいある打牌単位で巧拙を論じることができるし、「強さ」もバッチリ出そう。
ただ、自動的に牌姿認識するシステムは必須だろうな。画像認識だと100%は無理そうだから、牌にチップでも埋め込んでって話になるかな。そしたら選手別の打牌傾向なんかも分析できるようになって最高かも。状況別テンパイ崩し率とか、チートイ山読み成功率とか、リーチ時待ち牌残存数とかさ。見てみたいよね。あと、「人智を超えて強い麻雀AI」ってのが現実どうかって点もか。NAGAとSuPhxって現状まだ人智を超えるってレベルでは無いよね?強化学習進めばそのうち対プロ平均順位2.3とかになるのかな?そしたら評価値外出しできるようにしてAPI公開してくれないかなー

一旦終わり。


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