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【酒肴】水貝
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水貝という料理……ではなく、言葉を知ったのは、料理屋ではなく歳時記であったと思う。貝というものの、水貝の貝は鮑をさす。だから、鮑以外の貝でやるとするならば、水貝仕立ということになるであろう。
手元にある角川の歳時記をひらくと「新鮮な生の鮑あわびの肉を塩で磨いて薄切りや賽さいの目に切り、氷を入れた水に浮かべたもの。薬味を添え、そのままあるいは山葵わさび醬油で食べる。」としてある。こうして読むほうが、実際、見て、食べるよりはるかに興味がわくからおもしろい。
暑気払いの席の食材をもとめて、魚屋を覗いてみると、手頃なあわびがあった。氷を使うものなど、自分のためにする料理ではない。いかにも、夏の馳走だ。そうなると、器選びからしてたのしい。はぁ、なるほど、じつに涼やかだ。暑い中、わざわざ夏の挨拶へ来る客へ出すのに、実に相応しい。
そして、数ある季題の中でも「水貝」などよく覚えてたものだ。それだけ、印象深いものだったのだろう。わたしにとっては、一冊の本から抜け出た酒肴である。
水貝の氷案じて待つ長さ
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