2.3 たくさんの夜とジャック・ター
夜中にふとジャック・ターなんて飲みたくなったのは、数日前に横浜中華街を延平門から入り善隣門へ向かう途中にある、ウィンドジャマーの前を通ったから。正確にはウィンドジャマーだったところで、最後に行ったのは閉める年の前年の秋から冬。たしか、三和楼で大閘蟹──上海蟹を食べたあとだったと思う。そういえば、ことに、大閘蟹のあとに行くのが多かった。
水夫を意味するジャック・ターはウィンドジャマー発祥のカクテルで、横浜を代表するカクテルと呼ばれることもある。ライムが爽やかに香るカクテルだが、ラムをベースとしているので意外と度数の高いカクテルでもある。
ウィンドジャマーではジャズの演奏もあった。中華街の片隅、30分のステージだったので、ほぼどこかで必ず耳にしたことがあるようなスタンダードナンバーばかりだったが、いつか聴いた「Day My Prince Will Come」がやたらと耳に残っていて、ビルエヴァンスの演奏なんかを聴くと、決まってその夜を思い出す。ジャズとジャック・ターには一曲一曲、一杯一杯にそれぞれ短編小説のような思い出がある。
ふと、ジャック・ターを飲みたくなったものの、当分あの店以外でジャック・ターを飲むことはないだろうとも思う。ウィンドジャマーの名の通り、どこかの港でまた会えるまで。
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書くことは、落語を演るのと同じように好きです。
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