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【YouTube】#12【弁松総本店並六】それでは池袋演芸場の初日にしましょう。と、入船亭扇蔵は言った。
楽屋弁当はひとつのステータスだ。
普段の楽屋で弁当が出ることは、あまりない。
現場仕事だと、よく楽屋弁当やケータリングをご用意いただくことがある。とても、ありがたい。
ありがたいにはちがいないのだが、そんな楽屋弁当にも、楽屋雀はぴーちくぱーちくと囀るのだ。囀るなんて、生やさしいものではない。
例外だと、円蔵師匠。
橘家は、よく前座に弁当を買ってくれた。
ー 腹へってるか?
ー ハイっ!
ー よぉし、一番安い弁当買ってこい!
腹がへってなくとも、橘家にそう訊かれると、みんな間髪入れずにそう返事をする。要は、橘家と話がしたいのだ。橘家はいろいろと仕掛けてくるから、楽屋で会うのが、たのしくもあり、こわくもあった。そうだ、いつか、橘家指定の一番安い弁当も紹介したい。
寄席で弁当が出るとすれば、初日や千秋楽に真打が楽屋内に出すか、真打披露、襲名披露。
披露目だと、昼席なら昼席のみならず、夜席、ほかの所属協会が興行を打っている寄席の楽屋にも出す。複数人の色物さん、太神楽や漫才、前座、お囃子、時間帯を分けて弁当が搬入される。
食べ物の恨みは恐ろしく。弁当が行き渡らないと、末代まで祟られる。噺家の執念はおぞましい。なので、当日の楽屋には、弁当配りに心血を注ぐ前座が、かならず指名される。遊んでようが、寝ていようが、なんでも構わないが、なにがなんでも、漏れがないように、と。
そんな楽屋内の弁当で、弁松総本店の弁当は、10代の子どもごころに、甘さのむこうに、自分たちの知らない江戸の風景があった。
経木の香り、甘い、辛い、味のめりはり。
どこをとっても、江戸好みだ。
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