恋子の性春〜青遠藤家の恋愛と殺人より〜
【まえがき】
これは、2018年6月に上演した「青遠藤家の恋愛と殺人」から派生したスピンオフ小説(?)です。
過激な性描写・性表現などがあるため、苦手な方はお戻りください。
では以下、本編『恋子の性春』です。どうぞ!
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じっとりと暑い夏の朝。目が覚めると、両親が死んでいました。大手ゼネコンの社長だった父は、母と一緒にリビングで首を吊っていたのです。足下にはしわくちゃの紙に震える字で、「まちがえた」と書いてありました。
私は思いました。父と母は人生を間違えてしまったんだ、可哀想に、、と。
でも違いました。分かったんです。
みんなで一緒に心中するつもりだったけど順番を間違えて先に死んだのだと。
父の書斎からは「これで簡単!無理心中マスター!」という指南書が、母のPCからは「無理心中 痛くない やり方」という検索履歴が見つかりました。弟たち二人はなぜかへらへらと笑っていましたが、わたしは全然笑えませんでした。
あんな両親でも一応、尊敬はしていました。
祖父が一代で築いた国内最大手の会社を、これまた一代で潰したボンボンの父。それでもにたりと笑って死を選ぶところが、父らしかった。
母は美人なだけが取り柄のお嬢様で、あまり話した記憶はありませんでしたが、底抜けに呑気なところが好きでした。自殺だって、父に「死後の世界はとっても素敵なところなんだ」とかなんとか唆されたに違いありません。
私は都内にある全国有数のお嬢様学校に通っていたため、中退も考えたのですが、二学期が始まってから考えよう、と思い直しました。
家はすでに抵当に出されていたため引き払い、二人の幼い弟を連れて、杉並区西永福の六畳一間を父の保険金で借り、姉弟三人、庭に生えた草を焼いて厳しい夏を乗り切ったのです。
二人の弟は私にとって重荷でしかなかったのですが、そうも言ってられません。わたしは幼い弟を置いてひとり、朝はスーパー、夜は下高井戸の安セクキャバで働きはじめました。そのおかげか、学費も自分で賄えるようになり、二学期からも学校に通えることになりました。
あの症状が始まったのは、暑さも和らいだ九月の終わり、鈴虫も寝静まったある秋の夜長のことでした。その日、二人の幼い弟を寝かしつけ、家計簿と睨み合いながらなんとなくテレビを見ておりました。時刻は二時を回り、家計簿もつけ終わってさあ寝るか、とリモコンに手を伸ばしたまま、いつの間にかブラウン管に映るそのイタリア人の艶めかしい肢体を、食い入るように見つめていたのです。
「郵便配達員は二度ベルを鳴らす。」
そんなタイトルの、とんでもなく破廉恥なイタリア映画でした。私ね、そういうのいつもは見ないんですよ。すぐ消しちゃうんです。でもその時は、、なんていうんだろう。魔がさしたと言いますか、、もうエンドロールが流れる頃には、床一面にニスをぶちまけたんじゃなかろうかと言うぐらいに、ぬっちゃぬちゃになっていて。ごめんなさい、思い出すだけでも恥ずかしくて。
我に返った私は、もうそれこそ涙を流しながら、床にまき散らした自分のニスを拭きました。泣きながら、、何度も何度も。
なんてことをしてしまったんだ、私は最低の女だ。お父さんごめんなさい、お母さんごめんなさい、こんな娘に生まれてごめんなさいと。なにに謝っていたのでしょうか、、とにかく全てにたいして申し訳なくて仕方ありませんでした。
その日から私は「ごめんなさい、ごめんなさい」そう言いながら、弟たちやクラスメイトの目を盗んではトイレに駆け込み、右手を下腹部にうずめては、その言いようのない快楽に溺れていきました。
最初はまだ、自分でもコントロールできていたというか、授業なんかも普通に受けれていたんです。我慢出来ていたんです。だけど今はもう、ダメなんです。授業受けてても、そういう気分になるともう、ほとほとダメで…何かしら、理由をつけてはトイレに行って、「ごめんなさい、ごめんなさい」って、どうにかこうにか鎮めるしかなくて…。そんな調子でしょう?だからもう、それまでの友人達とだって口も聞かなくなっちゃって。
…回数は。…えっと、そうですね。少ないときでも、うん、一日に100回じゃきかないんじゃないでしょうか。多いときはもうなんか、あんまり数えてないです。
なぜ、こちらに来たか、ですか?それがですね、あの、、一番下の弟が、幼稚園の年長なんですけども、、その弟に見られた時、もうさすがに、こんなのやめようって、目が醒めた、と思ったんですけど…結局それでもやめられず…。
あの、先生、私…。寝ても醒めてもあの時の、あのイタリア人の女性が、快楽に歪むあの眉間のシワが、忘れらんなくて…もうダメだって頭では分かってるのに、こんな記憶ばっかり押し寄せてきて、もう私、普通の人には戻れないんじゃないかって…先生、あの、はっきりと仰ってください。私はその、世間一般で言われる、「変態」というものなのでしょうか?
「心配しないで。君は変態なんかじゃない」
本当ですか?でも私、おかしいですよねこんなの…。
「ぜーんぜん。何にもおかしくはない。なぜなら君は、れっきとした病気なのだから」
病気?
「ええ。だって君、一日百回じゃきかないってそれね、黙って聞いていたけど、すごいことだぞ?全部一人でやってるのか?それとも、恋人が?」
あの、恥ずかしいんですけど私、女子校で出会いもなくて…そういう相手もおりませんで…
「素晴らしい!バージンとは!…君はそれだけの過激な自慰行為を繰り返しながら、まだ切れっぱしのような純潔を守っている」
先生、ごめんなさい。その、あんまりそういう直接的な言葉は…
「素晴らしいことじゃないの!世の中、豚に餌をやるようにバージンを捨てていく女が跡を絶たない中、それだけの体質を持ってしてまだ、純潔を守っている…これは、誇るべきことだよ?今度、ドイツのケルンで学会があるんだ!君のカルテをまとめて症例として論文を提出したい!」
いや、先生…それはちょっと…
「なんでさ!全世界に発信したいんだよ!君の性なるジレンマを!だって君は性の国宝、、いいや、性界遺産だと!」
性界遺産?
「ああ、紛れもない。院長になる前に君のようなむっつり娘と出会えてよかったよ!君を性界遺産に認定できたのは青遠藤家の誇りだ!」
やめてください先生…本気で悩んでるんです…。
「本来、快楽の味を覚えた者は、更なる快楽を求めてさまよう。でも君はそうじゃない。つまり君は、精神的ではない部分では蝕まれているんだ!」
先生、あの、勿体ぶらないで教えてください…私は、なんの病気なんですか?
「恋子くん、君はね…「性の痛風」だ!」
性の痛風?なんですかそれ?
「はい、風が吹くだけで痛い。これが痛風の語源です。転じて、「性の痛風」とは、「風が吹くだけでイク」、そういう病気なんですね」
風が吹くだけで…あ!
「どうしました?ほら、言ってみなさい」
…私昨日、木枯らしで…。
「イキましたか、木枯らしで…恋子くん!!君は今、非常に危険な状態だ!」
どう危険なんですか?教えてください!
「このままいけば君は、いつか死にます、脱水症状で死にます。こまめに水を取ることです」
え、ちょっと、先生!じゃあ私はどうすれば…
「知らない!」
そんな…せめて弟たちが成人するまでには…
「分かりました。では、ここではその、ナースの目とかもあるので、、」
え、あの、、場所を変えるんですか?
「ちょっとね!私の診療みられるとちょっとまずいから…あ!そうだ。あそこ行こう。町の外れの、小高い丘にそびえる、紅いハイヒールの乗ったホテル「マンジュキッチ」分かる?」
まあ…分かりますけど…え、先生?ホテル行くんですか?
「そこへ行って、イキましょう」
いや、先生ごめんなさい…。やっぱり私、怖いです…。
「何を怖がってるの?」
だって私…初めてだから…そういうのは好きな人とちゃんと…
「なーにを勘違いしているの!私ホモよ!?筋金入りの、医・ホ・モ!女になんてね、全っっっったく興味ないの!ほら、ほらほらほらぁ!着いたわ!めくるめく冒険の、始まりよぉ!」
え、ちょっと、、うわあああああ!!ちょっと待ってください先生!!なんか!!なんか入ってきてます先生!!痛い…!
「大丈夫よ!まったく問題ないわ!!あなたは自由なの!!」
いや、自由じゃなくて先生!!先生痛いです…くっ…そこ違っ…!!早く!!早く抜いてください!!
「ほら、痛いなら叫びな!もう叫んじゃえ!!自分自身を解放するのよ!いい?あなたは今、世界に自分がたった一人だと思ってる。でも勘違いしないで、視野を広く持つの!人はいつでも、誰とだって繋がれる!こんな風に!だから…あなたは一人じゃないわ!」
私は一人じゃない!!
「あなたは一人じゃない!!」
私は一人じゃない!!!
「どう?あるでしょう!?生きてる実感があるでしょう!?」
あります!…生きてる実感、あります!
「じゃあ叫んじゃえよバカ野郎!このクソ娘殺すぞ!!生きている実感を感じながら、叫ぶのよ!」
はい!!
「もう、いつ誰がやってくるとも分からない恐怖に怯えながら、狭苦しい便所で一人、みすぼらしい自分をごめんなさい、ごめんなさいってなじってやる必要なんてないのよ!いい?あなたは一人じゃない!」
私は一人じゃない!私は一人じゃない!!
「オラ!いけ!!果てろこの娘!!」
ああああああああああああああああああ、、!!
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