香依の手記【ケダモノ202より】
現在上演中の #ケダモノ202 より、ルポライター日崎香依の手記です。観劇された方、これから観劇する予定の方は是非、読んでもらえたら嬉しいです。
************
ひどくむし暑く、夏のような夜だった。
見渡せどクーラーのリモコンはなく、おそらく書類の山に呑み込まれている。
連日続く曇天はこの国の生気を奪い、文字通り暗い影を落としている。この国から晴天が消えてもう2年も経つというのに、このむし暑さはなんなんだろう。
あの人は、どんな思いでこの世から消えたのか。
男は大食漢で、食器棚に常備していた大盛りのペヤング二つとシーフードヌードル、今朝サミットで買ったフルーツカップを一瞬でたいらげた。しかも、あれだけ食べたのにまだ冷凍庫を物色して冷食のチャーハンに手を伸ばしている。
かたや私は迫りくる〆切に追われて、かわいた喉を潤すこともできず、ただひたすらに、文字を打ち込む。
男が時折、雄弁に語るのは彼女の笑顔の素晴らしさだ。とりわけ、困ったような笑顔が好きらしい。部屋の一角には彼女の笑顔の写真がガムテープで無造作に貼られている。その中には婚約者が映っているものもあって、その顔は爛れている。おそらく、明確な殺意を持って包丁などで切り刻んだのだろう。
彼女にはよく、自分を主語にして語りたがるところがあって、男はそこも含めて好きだと言った。
そういえば、わたしが入居したての頃、ゴミ出しのことで彼女に烈火の如く怒られたことがあった。
私が悪いのだけれど、ゴミの分別について滔々と捲し立てられた。ものすごい剣幕だったことは、男には言わないでおく。
最近は、あの人のことばかり考えてしまう。
私が殺したかもしれない、あの人のことを。
あの人がもし生きてさえいれば、わたしが歩むこの未来も少しは変わっていたのだろうか。
この世はオセロだ。つくづく思う。
昨日まで白だったものが、ある日突然黒になる。
何が白で、何が黒か、、今のわたしには分からないし、正直そんなことどうだっていい。
とにかく水が、水が飲みたい。
ーケダモノ202
【公演最新情報】
三栄町LIVE×fukui劇 vol.14
『ケダモノ202』
◯公演日時
2023年4月5日(水)~22日(土)
全23ステージ
◯場所
三栄町LIVESTAGE
◯ 作・演出
福井しゅんや
ー壊したいほど、愛シテル♡
【出演】
《Aキャスト》
佐藤澪/太田朋佳/白石惇也/梶谷愛咲美/入月杏樹/小原澤遼典/江崎佳祐/餅原燁花
《Bキャスト》
八尾明穂/小関美穂/片山健人/永井澄玲/勝又夕賀/山口良太/福井しゅんや/花村咲歩
《Cキャスト》
中塚智香子/加美佑梨/北村真一郎/中川夏海/東雲あずさ/明知広樹/石橋テツヤ/芝崎春奈