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接骨院に来る患者さんの足の浮腫みを適当に流していませんか?

池袋で接骨院を経営しています。

丸山です。

今日は患者さんから

「先生、足が浮腫むんですけど…」と相談された時に、どんな対応をすればいいのか?について書いてみようと思います。

この記事を読んだあと

・足の浮腫みから推察される病態に気をつけるようになります。

・足の浮腫みの対処法がわかります。

・red flagsに気がつくようになります。

・足の浮腫みをしっかり鑑別の手掛かりにしようとします。

接骨院での対応をみていくと

筋力不足ですねー

リンパの流れが滞ってますねー

運動不足じゃないですかー

という声がよく聞こえてきます。

そして

なんとなーくふくらはぎをもみもみ…したり

ストレッチしてみたり…

結局、よくわからないで介入していることが多いように思います。

そんな先生に足の浮腫みの診たてのポイントを書いてみようと思います。

足の浮腫みの基礎知識

早速ですが足の浮腫みの正体は一体何でしょうか?

水分という人は多いと思います。

人間の体重の60%が水分です。体重60kgの人だと36Lの体液量。

そのうち2/3が細胞内液、1/3が細胞外液です。

細胞外液の1/4が血管内に、残りの3/4が血管外で細胞周囲を巡っています。

体全体の水分(体重60kg)の9~12Lをサッカー場一面分に蓄えています。

サッカー場一面に9~12Lというと少ないと感じますが、サッカー場一面分が体の中に折り重なって収まっているので、水分も凝縮しています。

この細胞間質を循環する水分が浮腫みの正体です。

しかもこの水分には必ずナトリウムが含まれているため、塩水なんです。

細胞間質にはプロテオグリカンという糖たんぱく質が存在し、間質の水分を取り込みゲル化します。このプロテオグリカンが水分をしっかり取り込んでくれれば、間質には自由に移動できる水分がなくなり、押してへこむような浮腫はみられません。しかし、プロテオグリカンが水分をゲル化できる限界がだいたい3Lと言われていますので、これを超える体液貯留では圧痕性の浮腫が見られるようになります。(本当に使える症候学の話をしよう 高橋良著 P.132~133)

足の浮腫みには塩水3L分が足に滞留しているということになります。

浮腫みの管理には塩分のコントロールが必須

塩分はナトリウムイオンと塩素イオンが結合した食塩で摂取しています。

日本人の成人が一日に摂取する必要量を600mgとすると食塩相当量は1.5gになります。

しかし、一日の食事で1.5gという数字は現実的ではないため、男性で8g、女性で7gという基準があります。

ちなみにカップ麺一杯で6.4g(食塩相当量)です。

足の浮腫みを見かけた場合は食生活の中でどのくらいの塩分を摂取しているか?

味の好みなどを聞いて上手にコントロールしてみましょう。

足の浮腫みと病

足の浮腫みは不快であり、日常生活にも支障を来す症状のひとつでもあります。

これには様々な病気が隠されているかもしれません。

浮腫みは甲状腺や心臓、腎臓、肝臓などの病気

糖尿病

パーキンソン病

自律神経障害

血管の病気

薬の副作用

捻挫などによる毛細血管損傷

妊娠、出産

生理周期などによるホルモンバランスの変化

手術後

ここに挙げたものだけでもたくさんありますね。

浮腫みは体を診ていくための指標になりますので、知識として持っておくといいと思います。

また、

肥満

高齢

運動不足

といった影響で浮腫むこともあります。

浮腫みの鑑別疾患

*毛細血管圧の上昇

全身性 slow edema 

心不全・腎不全・静脈閉塞・薬剤性浮腫(NSAIDs,Ca拮抗薬,βブロッカー,インスリン抵抗性改善薬,炭酸リチウム,甘草,グリチルリチン酸)・飢餓後栄養開始時・妊娠、月経前浮腫・特発性浮腫

局所性 slow edema

静脈閉塞

*低アルブミン血症

全身性 fast edema

肝硬変・低栄養・ネフローゼ症候群・蛋白漏出性胃腸症・感染症

*血管透過性の亢進

局所性or全身性 slow edema

血管炎・炎症・アレルギー・血管性浮腫・熱傷

*間質の浸透圧上昇とリンパ管閉塞

全身性 初期はpitting edema

甲状腺機能低下症

局所性 初期はpitting edema

悪性リンパ腫・悪性腫瘍リンパ節転移・リンパ節郭清手術後・フィラリア症

浮腫みを診る

これらの疾患は浮腫みを伴います。

では何を診て、どう鑑別すればいいのでしょうか?

①局所性or全身性

局所の病変によって浮腫がおこるものが局所性浮腫

蜂窩織炎などの炎症性浮腫は炎症局所

リンパ管閉塞や静脈閉塞などは閉塞部より末梢

局所性は片側性であることが多い

心不全などでは全身性浮腫

体位によって浮腫が移動する

②圧痕性or非圧痕性

圧痕を確かめるには3つの箇所を確認します。

脛骨前面、足外側面(小趾側)、大腿屈側です。

筋や腱が多い場所は運動性が高いので浮腫は確認しにくいですが、この3か所はあまり運動性が高くないので圧痕が出やすい部位になります。

非圧痕性浮腫は甲状腺機能亢進症やリンパ性浮腫(初期は除く)に代表され、蜂窩織炎や血腫なども非圧痕性浮腫を呈します。

毛細血管圧の上昇、低アルブミン血症、血管透過性亢進、リンパ性浮腫の初期症状などほとんどの浮腫で圧痕性浮腫を呈します。

圧痕性浮腫はその回復時間で分類されます。

圧迫して回復するまで40秒未満をfast edema 40秒以上をslow edemaと言います。

一般的にfast edemaが認められるのは低アルブミン血症が代表的です。

ここまでで接骨院に来院される患者さんで注意が必要なのは

①塩分管理

②既往歴や薬の服用

③局所性であるということ

④slow edemaであるということ

を確認してカルテに記載しておきたいところです。

また

*塩分管理しても改善しない場合は、病的な浮腫を疑う

*病気や薬の影響を視野に入れておく

*全身性の場合、心腎肝の可能性を頭に入れておく

*fast edemaの場合、低アルブミン血症の可能性を入れておく

ここを注意点としておくと良いですね。

高齢者の浮腫みについて考えよう

接骨院で避けては通れないのは高齢者の浮腫みです。

前述した基本的な知識とは別に考えないといけないことがあります。

それは高齢者ならではの問題を頭に入れておく必要です。

高齢者に限らずですが、浮腫みの原因のひとつに静水圧という静止した水にも圧力があります。

血管では細動脈から毛細血管に流れ込む血流の圧力。

細動脈から毛細血管への入り口付近は圧力が高くなり、間質に滲みだすため浮腫みやすくなります。

また毛細血管の出口付近は細静脈との境界になり、圧力は低くなることとアルブミンが濃縮されるため血管内の水分の保持力が高まります。

この細動脈から毛細血管への流入をコントロールしているのが、前毛細血管括約筋です。

血圧が高く、急な勢いで血液が毛細血管内に流れてしまうと血管は破れてしまいます。

交感神経によってこの前毛細血管括約筋が収縮することで、急激な血流をコントロールしてくれます。

高齢者など自律神経の働きが弱い患者さんはこのような血圧のコントロールができずに浮腫みが生じているかもしれません。

静脈側の血流

静脈は動脈と違い、括約筋が存在しません。そのため動脈のように拍動することで血流を促すことができません。

静脈やリンパ液の流れはほとんどが筋収縮に依存しています。しかし血流を一定方向にしなければならないので静脈には弁があります。

そのため筋肉の少ない方、運動が足りない方は血流を促す力が弱いのでうっ滞しやすく、浮腫みやすくなります。

よって高齢者の浮腫みは日頃の運動量や生活習慣を確認することです。

もうひとつ、静脈弁の機能不全が関係しています。

静脈の流れを一定にするはたらきを持つ静脈弁が機能しにくくなると血流は安定しなくなるため、流れにくくなります。

これも浮腫みの一因になります。

内果の部分に表在静脈(大伏在静脈)の拡張を確認した場合は慢性的な静脈血流にうっ滞がみられることを意味しています。

下肢静脈瘤は79歳以上で75%の人が認められます。

経産婦の半数は下肢静脈瘤が認められます。

重篤な病気ではありませんが、下肢のだるさや脚が攣りやすいなど不快な症状の原因になります。

高齢者の浮腫みは治療というよりも対処が有効

以上のことから高齢者では

・筋力低下

・運動の減少

・静脈弁の機能障害

・血圧

・排水機能の低下

などが関係するとなると、治療するという考えは捨てた方がいいです。

むしろ対処する。

弾性ソックスなどは有効的な対処法にもなります。(使用の注意については後述します)

負荷と浮腫みの関係

筋力不足が招く浮腫みがあるといって、闇雲に運動する事を勧めてもいいものでしょうか?

浮腫みの改善に最適な運動とはどんな運動でしょうか?

負荷のある状態(立位と歩行)、負荷のない状態(静止した自転車と座位)

動的な活動(静止した自転車とトレッドミル歩行)、静的な活動(座位と立位)

これらで足の容積の変化を比較する実験で

結果は、無負荷のポジショニングが負荷のあるポジショニングよりも足の体積の増加が少ないことを示唆しています。さらに、動的な活動では、静的な活動よりも足のボリュームの増加が少なくなりました。テストした4つのポジションのうち、自転車に乗ることでボリュームの増加が最小になりました。したがって、足のボリュームの増加が懸念される場合は、これが最も適切なアクティビティである可能性があります。(Physical Therapy in Sport
Volume 7, Issue 2, May 2006, Pages 81-86)

この研究によると座位よりも立位や歩行時、動的よりも静的な状態で足の容積は増大します。このことから足の浮腫みは下肢の大きな運動と低負荷によって末梢の血流が促進されることが必要です。

立位や歩行程度の運動では下肢全体の血流量を上げることができず、足の容積の増大を防ぐことができません。また、座位の方が立位よりも足の容積の増大が少ないことから、心臓の高さも関係するかもしれません。

鼠径部の血行不良は妊婦でも指摘されています。胎児による腹部や鼠径部の血管の圧迫が下肢の浮腫みに関係します。


Volume84, Issue12,December 2005,Pages 1150-1153

によると9人と少ない数の調査ではありましたが、45分間のアクアフィットの結果妊娠中の下肢の浮腫みに大幅な減少が見られたそうです。

水中運動は負荷が少なく、動的な状態にもなり前述の研究とも合致します。

また、尿意を促すことにもなり、水分の排出も活発になります。

外傷後の浮腫み

最後に一番必要なことを書かなければなりません。

外傷後の浮腫みについてです。

腫れ(腫脹)は炎症性です。

皮膚の発赤、発熱、疼痛、機能障害

腫れがある場合はこれらを伴います。

また、腫れは圧迫しても圧痕が残りません。

一方、浮腫は非炎症性です。

前述したように血管から間質に水分が滲みだした状態です。

外傷で来院された患者さんが来た場合は腫れているのかを確認することで炎症を伴う状態かを確認できます。

外傷によって浮腫むというのは稀で、ほとんどが腫れです。

よって炎症の終息と共に治まります。

しかし、毛細血管の微細な損傷が浮腫みを起こしたり、固定による圧迫で血流が滞ると浮腫みになることがあります。

固定具を外して歩行するようになっても、浮腫みが改善しない場合は表在血管の拡張などを確認したり、皮膚の色などで内出血の有無を確認しましょう。

まとめ

接骨院で患者さんを診る時に「浮腫み」にも注目してみると少し視点が変わるかもしれません。

*年齢や性差

高齢者は筋力低下、活動低下、静脈弁の機能障害、既往症などから浮腫みは生じやすく、治療よりも対処や不快さの軽減策を講じることがポイント。

女性は男性よりも浮腫みやすい。月経前症候群や妊産婦などの婦人科系のホルモンの影響も考慮。

*圧痕から内臓疾患を疑う

slow edemaかfast edemaかで病態が違う。

腫れの場合は炎症があり、浮腫みは炎症ではない。外傷後の経過で浮腫みを確認したら固定具によるものか、それとも血管の問題かを見極める。

*塩分のコントロール

下肢の浮腫みは塩分コントロールが不可欠ですが、現実的に塩分を減らそうと思うと糖質制限以上に難しいことがわかります。

日頃使用する食塩を食卓塩以外にしたり、食べる量自体を見直したり、間食やおやつに気をつけたりすることで塩分コントロールする方が現実的かと思います。

*浮腫みの予防となる運動

闇雲に運動をしたり、歩いているから運動になっているという考えは浮腫みにおいては間違っています。

歩行は負荷が大きく、浮腫みやすい人だと浮腫みを助長します。負荷を減らす(水中、自転車、足を上に上げておこなう)、大きくたくさんの関節を運動させる(足首だけではなく膝や股関節の運動)、筋力の増強よりも筋収縮を多くするなどを頭に入れて運動指導すると良いです。

*弾性ソックスなども使い方次第

弾性ソックスは動脈の血流量を変化させることはなく、静脈の血流量、リンパ液の還流を助ける機能があるとされています。

また、運動中の着用で筋疲労の低下や下肢筋力の発揮に良い影響があるという研究もされています。

三浦 隆,岩嵜 徹治,山田 睦雄 (2012)スポーツ選手に対しての機能性ストッキング (特集 スポーツバイオメカニクスの最近の進歩),臨床スポー医学 29(7),715-721.
三浦 隆 他(2007) 段階的圧迫機能を持つスポーツ用弾性ソックスの運動時着用効果 体力科学56(6),879.

しかし、末梢血流量にはあまり影響なく、持続時間も着用後約2時間までは主観的浮腫み間は減少したが、それ以降は有意な変化は認められなかったという報告があります。

用手的リンパドレナージの効果に関する検討ー健康な成人男性にむくみに対する弾性ストッキングとの比較ー

弾性ソックスは2時間程の着用が理想的であり、運動時の着用で筋力のサポートや疲労の軽減に役立ちます。長時間の着用では締め付けによる内出血痕などの原因にもなりかねません。

*炎症性かどうか

浮腫みという表現を患者さんがしていても炎症を伴う腫れの場合はその炎症の管理が必要になります。

外傷後はギプスや固定具を外して数日が経過しても浮腫みが改善されない場合は毛細血管の損傷や血流が改善されない理由を考えていきましょう。



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