最後の花火は今年も見れなかった
深夜2時。煙草を買いにコンビニに行った。Tシャツとパンツ1枚だったから、韓国旅行で500円で買った、ただただとびきり派手な薄皮1枚のようなスパッツを穿いて、鍵を閉めずに家を出た。
別に吸わなくてもいい、普段吸わない煙草を買いに行く必要なんて全くないけれど、なんとなく気分転換の理由に、おれは街に煙草を買いに行くんだと、エモめにキモめに心の尻を叩いた。
今週号のジャンプとヤンマガを少しだけ立ち読みして、おいおい、もうバチバチにタトゥー入ってるギャルが表紙のグラビアやってんじゃん、令和〜。と昭和のラストサムライは鼻の下シルクロード。すいません、その分めっちゃ買わせてもらんで、と
いつもの夜勤の店員さんに心から会釈し、本来買うはずの無い、お菓子やらなにやらカゴに詰め込んだ。
帰り道、外には誰もいなかったから。なんだかふと、あの頃のようにビニール袋をぐるぐる回した。水が入ったバケツをチキンレースのように皆でぐるぐるっと回しあって、10回を超えたあたりで、友達の誰かが思いきり廊下に水をぶちまかして、信じられないぐらい笑った掃除時間。大嫌いな体育教師が大声で向こうから僕たちを怒るためだけに走ってくる。スラムダンクの海南の監督にそっくりだったな。
懐かしく思い出したと同時に、さっき買ったカップヌードルとめんたい味のポリンキーがスポンと袋から飛び出した。取っ手の薄いビニールはより薄く、白くなってちぎれて、透明になった。その瞬間に夜は朝になって、夏は秋になって、最後の花火は今年も見れなかった。
家までの最後のコーナーを左に曲がる時、腕をぐるぐる回した。運動会で野球部のあいつはいつも回してた。速くはなれないけど、強くはなれた気がした。よくよく考えるとこの年になっての腕ぐるぐるは、肩甲骨はがしの何ものでもなく。人けの無い帰り道、思い出にふけながらゆっくりと日々を剥がした。
アパートの階段を上がり、ドアノブに手をやった時、かぎを閉めなかったのはじぶんなのに、帰ってきてドアが開いてると、誰かが待ってくれてる気がした。もちろん誰もいないその部屋じゃ、さっきまでの芋ソーダの飲みかけとあたりめとまだ乾き切ってない洗濯物の混じった匂いを、9月に買ったばかりのサーキュレーターが首を振って、部屋中に行き届けていた。
頷いてくれ、僕の生活を、ウンウンと、肯定してくれ。来年でもいいところを、今年の今に間に合わせんたんだ。少しぐらいいじゃないか。本当は買うつもりはなかったんだぜ。
昨日はスパイク松浦さんの17歳の誕生日をバビロン千葉とうるブギTAKAHIROとお祝いして。最高だ最高だと夜中まではしゃぎ、帰りはお祝いした中野から2時間かけて歩いて帰った。昼過ぎまで寝て、夕方には昨日の分を取り返すぞと念入りに準備運動して。脂肪燃焼に良いと、空腹の状態でブラックコーヒーを流し込み、痩せる準備は万端だ。ジョギング用に買ったフル装備のウェアとキャップを纏い、意気揚々と走り出した。ザッ、ザッと靴の鳴る音がイヤホンのダイアンさんのラジオに交じる。軽快なリズムで、街をゆく。気づけば僕は町中華のカウンターにいた。
カンカンと、大将の中華鍋を振るう音だけが鼓膜を振るわす。家を出てまだ10分も経ってないはずだ。脂肪が燃焼しだすのは有酸素運動を20分経過してから。出された冷たい水があの日の三井のポカリより染み渡る。ねえ大将、中華の火力で燃やしてよ。
キンキンの瓶ビール。僕は普段サッポロの赤星だけど、汗かいてたらアサヒなんだよな。知らねえよな、そうなんだよ。18時には店はお客さんでパンパンで、そうか今日は土曜か。子ども連れの家族の声が、この街の暮らしが、お店の匂いに溶けて、少しばかりの騒々しさがなんとも心地よかった。餃子とニラレバ炒めを頼んで、あまりの美味しさに、美味しいと大声では言えないから、ウンウンと、何度も強く頷いた。でもさすがにラーメンか炒飯いったらもう終わりだよお前と自制しながら、いやもう既にビールいってるのに何を節制してんだよともう完全にグレーゾーンの天使と悪魔の戦いをよそに、折衷案で半ライスを頼んだ。
大人の男が半ライスを頼む時の屈辱さは、もちろんみんなわかるよな?いや普通にライスいけよ、いやでもそんな食べちゃったら、、てか大人の男が半ライス?舐めてんの?わかるよ。てかそもそもダイエットで食べないってのもあるけど、もうそんな食えないんだよ量を。ほんと半ライス、なんなら米3口ぐらいが丁度いいんだよ。ごめんな光、信じられないよな。37なんだ。ごめんな、そうなっちゃったんだ。
嘘みたいな大盛りが来た。どこが半ライスだよ、どんぶりの並じゃねえか。ありがとう。忘れてた。ありがとう。美味しい、美味しすぎる。ありがとう。大将は黙々と鍋を振るう。肘にはサポーターが巻いてある。それでも黙々と鍋を振るう。ありがとう。一瞬。米は気づけば無くなっていた。大将が魔法をかけたんだと思う。誰も気づけなかった、みんなが瞬きした瞬間さ。
俺はね、こんなネタを作りたいんだよ。全てを超える、圧倒的なやつ。もう全部がどうでもよくなって、やっぱり、どうでもよくなくなるやつ。
ご馳走様でした、深々と店の外でも頭を下げた。
帰りに、もう今日は終わりですと多幸感のみで歩いてると、祭囃子が聞こえてきた。近所の神社でお祭りがやっていて。気づけば2本目のビールをそこで開けていた。
出店の半分がヨーヨー救いと射的で、子どもたちがひしめき駆け回り、テキ屋のたこ焼きが500円と正規価格の中、近所の自治体の店が10本千円と破格の値段で焼き鳥を売っていた。経済がヘンテコに回りすぎてる。この街に住んでるであろう中学生たちは浴衣を着て、引いたおみくじに一喜一憂してる。尖った後ろ髪の長い男の子がロング缶のコーラを退屈そうに飲んでいた。
お詣りしようと石段を上がったら、隣の受付で、バイトであろう巫女さんの大学生の女の子二人組が「後期の第二外国語でスペイン語とろうと思ってんだよね」「ええ、まじスパニッシュ!」と感覚だけで返してた。
どうかこの街の暮らしに、僕のお笑いが少しでも彩れますように。
神様にお願いして、帰りの石段を降りたら、刀を持った女の子が
「こうやって降りるんだよ、はっ!はっ!」
と忍者なのかなんなのか、一段ずつ気合い入れて降りてくれた。
なんで子どもに人見知りしてんだよと思いつつ、なんか恥ずかしくて、うぃっ!とちっちゃく返した。
神社を出ると雨が少し降り始めて。おいおい今夜だけは頼むよ、降らないでやってくれよ、神様にそう願えばよかったなと思って。
少し歩いたら前にいた4人組の家族が、1人ずつ傘をさしはじめて。お揃いじゃないバラバラの傘が、お父さんお母さんと2人の子どもが、この街に確かにいるということを教えてくれた。
だったら雨はこのままでいいかもな。そうエモめにキモめに微笑んだ時には、久しぶりにベランダに干した毛布はもう泣いていた。
今日から毎日、短くてもいいから日記をnoteに書こうと思う。いつもの長いのを、大傑作を書こうとなると中々筆が進まず、うーん、うーんと、時間ばかりが過ぎてしまって書けないことが多いから。何にも深く考えず、思ったことや想ったことを気楽に書いていきたい。出来るだけ毎日、書けない日があっても、まあそれはもう許しながら、素敵な町中華を見つけたんだなと思いながら。鼓舞しながら許しがながら、日々の隙間で日々を書こう。
にしても今月の給料が地獄すぎて心身共にちぎれそう。あんなにも心燃やして闘った8月なのに。誕生日なのに。いい加減にしてくれよ。ヒリヒリするぜ人生は。もう本当に素直に皆さんのサポートや購入や応援が血となり肉となり人生となっています。いつもありがとうございます。
ここからは日々の写真や、深く想ったこと、心臓めがけて。
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