人生はコント
今日はとことん呑もうと決めたのに、全然酔ってない。今日はもう、本当に。今年一年の全てを労って、頑張ったね。頑張ったじゃないか。君はとても頑張ったぜ、胸張れよ。最高だったよ。そう言って慰めて褒めてあげたかったのに、全然酔ってない。寿司にステーキに酒に全部やって、抱きしめてあげたかったのに、1ミリも酔えていない。
新宿での最後のライブが終わり、居酒屋でも焼肉で寿司屋でも駆け込めたけど、地元のスーパーで寿司とステーキと酒をたらふく買った方が我が家でこの世の全ての至福を味わえるぞと思い、最寄りの駅に帰ったのに気づいたらラーメン屋に入ってて。気づけば、つけ麺を特盛で頼んでいた。呑んで呑んで、呑みまくって朝方に食べるラーメンは最高で、胃がバグってるから食べれるけど、全く酔ってない状態でこの量はもう食べれない。苦しいよ、うう、苦しい、と言いながら食べて、本当に美味しすぎたけど、苦しいがぶっちぎっちゃうぐらい腹パンで1ミリもアルコールが入る隙間は無くなった。こんなはずじゃなかった。もっと、この一年を労って、ヨシヨシとしてあげるはずが、苦しい苦しいと背中を丸めてこの一年を反省してる。
「本当に計画性ないよね」
別れ際に昔の彼女に言われた言葉がぐわんぐわんと酔ってもないのにリフレインする。計画はしてたよ。ずっと綿密に立ててた。寿司はいつもの閉店間際2割引きになるちょっと豪華なセットのやつ買って、ステーキはアメリカ産のとにかくデッカいやつ、お酒は純米生原酒の日本酒といつもの安い白ワインも買って、準々決勝はこのネタをやって、準決勝は初日にこのネタをして、2日目はキャラが浸透してるからこのネタをしよう、もしくはパワーで初日の勢いそのままで押し切るネタをしよう。決勝はこの順番だよな。俺たちが優勝するならこのネタとこのネタで、これしかないよな。めちゃくちゃ計画してたよ。2人でずっと話してたよ。してたに決まってんじゃん。でも、上手くいかねえんだよ。思った通りなんてなりゃしねえよ。じゃあ上手くいかなかった時のことも考えなきゃ。わかってるよ。そんなのわかってんだよ。でも上手くいかない時のことなんて考えるやつが勝てるわけないじゃん。そんなやつに勝ってほしくねえよ俺は。計画立てても、途中でワクワクするような、心が反応しちゃうことがあったら、そっちでいいよ。1番良くないのはなんにもワクワクしなくなった時だ。
キングオブコント優勝する為に、1年に365本ネタ作りますつって去年張り詰めてやってダメだったから、逆に今年とにかく力を抜いて、リラックスしてお笑いを楽しもう、とにかく楽しもうと臨んだ。候補の勝負ネタがあったけど、元々あったネタが土壇場で途端に良くなったからこのネタで行くことに決めた。去年のただウケるネタじゃなく、自分たちの色が存分に出てるネタだから、これは大丈夫だろとのぶきよと自信もってやったんだけれども。
出たことない初めての会場だったし、準々決勝はピンマイクも使えないというとことで、危惧してることは声がどれだけ客席に届くのかということ。音を使うネタだったから、声が届くかどうかは重大問題。どうにか確認したいけども本番はリハなし一発勝負。不安すぎて下見出来ないか会場に直接確認したら、公演が当日まで隙間なく埋まっていてそんな時間は無いとのこと。人生かけたこの一大イベントに、運任せは出来ない。なんとか出来ないか、調べるとその会場で一般で入れるイベントがあった。
キッズバレエの発表会。
最高だ。ありがとう神様。都内のキッズバレエ教室の発表会があって、スタッフの方にお願いしたらどうぞどうぞと快く入場させてもらえた。会場パンパンの子ども達の親御さんと一緒に、観戦するハイパーシングルフリー独身男。
幕が上がる。音楽が鳴る。キッズバレリーナが飛びだす。
アン・ドゥ・トロワ。
初めて観る白鳥の湖に、心躍った。あまりの可愛さと健気さと美しさに、感動した。そして父性が爆発。ハイパーシングルフリーは甥っ子姪っ子を観にきたハイパー叔父さんと化した。
ダメだ、ダメだ、何してるんだ。感動してる場合じゃない。今日の計画は、声がどれだけ客席に聴こえるか確認に来たんだ。しっかりしろ。
30分、1時間。バレリーナたちは様々な曲で世界を彩る。物語が沢山の踊り手で紡がれていく。
90分、2時間。物語は加速し、ゲストであるプロのバレリーナの方達も登場。迫力と美しさに圧倒される。これがバレエ。初めて味わう感動に胸が溢れる。素晴らしい。ありがとう、バレエ。またひとつ新しい表現の世界を知ることが出来た。
めちゃくちゃサイレントコントだった。
声の確認したかったのに、舞台上のバレリーナ誰1人一言も発さなかった。全てが終わり、バレエ教室の先生が中央に出てきた。
頼む!せめて挨拶を、大きな声で!いや大きくなくていい、小声でいい、とにかく声がどれだけ届くのかを教えてくれ。頼む先生!!!
菩薩のような微笑みで、無言でお辞儀をされた。
鳴り止まない大拍手。湧き上がる歓声。賞レースだったら完全優勝の拍手笑いの嵐。
なんて芸術性のある、美しい時間だったのだろう。でも今日だけは、今日だけは大きい声でありがとうて言ってくれ。まじなんの参考にもならなかった。しかしただただ素晴らしかったのには違いない。
もう帰ろうと思った瞬間、会場アナウンスの女性がみんなに呼びかけた。
「それでは今から会場のみんなで、となりのトトロの「さんぽ」でお別れしましょう!みんな舞台の上に上がってきて〜」
キターーーーーー\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/
1番聞きたかったのはこれだ!曲の中、どれだけ声が客席まで届くか!!これだ!これだよ待ち望んでたのは!!!!!ありがとう神様!!!!!!!!!
結果、5分間キッズ達がその場で無言で足踏みするだけだった。大音量で、既存の音源だけが流れた。
足踏みするキッズ達は本当に可愛かった。君たちの未来はおじさん達が全力で守る。のびのびと生きてほしい。君たちの悲しみは全て僕らが笑い飛ばしてあげるからね。歩こう歩こう、笑いながら。私は元気。
結果、準々決勝はなんの問題もなくネタをやり切ることが出来た。なんの言い訳もない、やりきった。結果として準決勝突破出来なかったのは、実力不足のなにものでもない。無念の極み。
発表があった時間は無限大ホールで。昨年ファイナリストのいぬさんもいて、準々決勝でもめちゃくちゃ手応えあってウケたと聞いていた。それでも発表の時間は一緒なのいるのはなと、僕は奥の楽屋に。有馬さんはトイレに。太田さんとのぶきよは2人で大楽屋にいた。
去年はショックすぎて発表から1週間ぐらい本当に記憶が無いけれど、今日ははっきりと覚えてる。そうか、としっかり現実を噛み締めた。去年ショックのあまり何もSNSでも呟けなくて、母ちゃんに死んだのかと心配されたから今回はすぐに呟いた。正直今キングオブコントをやってることもわかってないだろうけども、息子がなんか嫌なことあったとしてもまあ元気でやってんだろうなってことは伝わってるだろう。36で夜中につけ麺特盛食べるくらいには元気だから大丈夫。
そして去年も今年も、結果発表直後のワラムゲは僕らがMC。まいっちゃうよな。たまたまなんだけど、そうなっちゃうんだろうなこればっかりは。キングオブコントの結果に触れるか触れまいかギリギリまで迷ったけど、飛び出したら初めてライブ見に来たって大学生の男子4人組や、まさかのいぬ有馬さんの叔母さんが宮崎から来てて。盛り上がりすぎてそれどころじゃなかったよ。
無限大でのライブを終え、新宿にいぬさんと3人で向かう中、声をかけられた。元々やっていたラジオの時のリスナーの子で、4月から小学校の先生をやっていて。やっとのお盆休みに観に来てくれたらしい。そんな時に、キングオブコントの結果が悪くめちゃくちゃ気を遣わせてしまって申し訳なかった。それでも、ライブ楽しかった、力もらえましたと言ってくれて。それに僕は力を貰って。有馬さんも太田さんも優しくて最高の男だから、ありがとねと僕ら4人で笑って写真を撮った。頑張ろうぜ。病んでもいいけど病みすぎないようにしようぜ俺ら、頑張りすぎないでさ。笑って約束してバイバイした。
新宿駅、別れ際、いぬさんとまた来年だと握手して鼓舞した。最高の職場だ。大好きで面白い最高の先輩たちがいる。新宿のライブでは本田兄妹さんと久しぶりに会って、また頑張ろうねと話し、本田兄妹さんのネタが面白すぎて爆笑して、その本田兄妹さんがネタを褒めてくれて嬉しすぎた。まじでバカ爆走と言っても過言じゃない。最高だったなー。
8月4日、誕生日の日に決めたことがある。何やらどうやら、よく聞く1年でめちゃくちゃ運気のいい日で、大安、天赦日、一粒万倍日が重なる最強開運日で。最近聞くようになったけどなんだよ一粒万倍日て、と思うけど、もう本当にあやかってあやかってあやかってる。何かをはじめるにとても良い日なので、何をしようか色々考えたけど、シンプルに毎日お笑い反省日記を書くことに決めた。
それでもこの日は「今この瞬間をコントに捧げるライブ」という毎年この時期の恒例のライブがあって。配信なしで曲も好きなのかけまくってこのタイトルだから、僕らの主催ライブだと勘違いされるけど、そいつは大間違い。無限大の支配人の西尾さんの主催ライブ。劇場の1番偉い人がこのタイトルでライブやってくれるの嬉しすぎるよな。毎回MC僕らにしてくれるけど、出てるのは僕らより結果出してる無限大のハイパーコント師ばかりで。それはもう恐縮だけど、仲間たちと一夜限りのフルスロットルコントライブはそれはもう楽しくて嬉しくて。会場のお客さん楽しんでもらえて、素晴らしい盛り上がりだった。
この日から始めた反省日記には
「何も反省することはない。最高だった」
と書いた。なんだこの甘々糖尿日記は。だけども初日にたまたまそうだったから仕方ない。でも次の日からは
・コーナーでのシシガシラ脇田さんへのパスが甘かった。もっと分かりやすいワードでイジれ。
・コーナーの風船をおっぱいで割るゆにばーすはらへの例えはもっといけた。無限大名物、はらのパイ割祭りだ!なんでもいいからフレーズを出すべきだった。
など辛辣な反省で埋め尽くされた。にしても、無限大名物、はらのパイ割祭りだ!がいいわけがない。反省日記の反省日記が必要だ。
日々は反省で、もっともっとと欲は出るばかりだけど。今日はもう大甘に。
「何も反省することはない。今日は呑め」
と書こう。
あと、
「それでも、戦い続けるんだ」
あぁ、もう。なんで特盛にしちゃったんだろう。暗転ちょうだい。
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