21時
サテン素材のキャミソールに履き慣れた淡いブルーのジーンズ、ミントグリーンの薄手のジャケットを羽織り、裸足で簡単に履けるミュールを選んだ。
"香水"と聴くと思い浮かぶような甘く香り高い、角張ったガラスのパフュームでは無く、爽やかな自然由来の香り。
Aesopのボディースプレーを数プッシュ。
これが今の自分に似合っている様な気がした
少し外を歩いたら、どうせ化粧を落としてシャワーを浴びる。クレンジングオイルに綺麗さっぱりと洗い流されてしまう。
誰に見られる訳でもない。それでも
くるんと上げた睫毛もスッと鼻を抜ける香りも簡単にオイルを付けただけのショートヘアも私には必要だった。
片耳が壊れて聴こえなくなったまま、放置しているAirPodsを耳に付ける。
tonun / 最後の恋のMagic
緩やかな刻みの中滑り落ちるように、丸い透明感に満ちた歌声がイヤホンを通して優しく響いてくる。
私は昔から一人行動が好きだ。そう言うと友達がいない寂しい奴みたいだが昔からこういう時間が嫌いではなかった。社会人になり、より一人の時間が増えた様に思う。
新たな趣味を見つけては、色々と試してはみるのだが、すぐに飽きてしまった。それでも未だに変わらず褪せることなく、私の中で生き続けるのは音楽であった。
私の幼い頃の夢は歌手になる事だった。人前で歌うことが好きだったし、暇さえあれば何かしら口ずさんでいた
それは流行りの音楽だったり、渋い歌謡曲だったりした。
今思うとただの目立ちたがり屋に過ぎなかったのかもしれない
私のAirPodsから流れてくる音に耳を傾けていると、
どんなシーンで、どんな相手を思い浮かべながらこの詩を書いたんだろうか、と思う。
寝る前の布団の中で書いたのだろうか、
窓辺で黄昏ている時に浮かんだのだろうか、
この世界にいる誰かのワンシーンを切り取った音楽を今日も大切に聴く。
Spotifyにはアーティスト側に、
「今自分の音楽は何人に聴かれています」
「何ヶ国の人が聴きました」
と表示される機能があるらしい。自分が真心込めて書き上げたものが誰かの一日を守っているってどんな感情なんだろう。
私にとって音楽とは生活の一部。涙を誘い、時に全力で肯定してくれ、スッと傍に寄り添い、自分ですらも知り得なかった眠っていた感情を湧き起こし、凝り固まった体や寂しくなった心を溶かしてくれる。
そんな音楽は誰かを想うと、より熱を帯び美しさを増すように思う。
体が冷えてきた。
そろそろ家に帰ろう。
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