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さんさーらとヤギの物語⑫いよいよ、出産~陣痛開始編~
ユリルが立ち上がり、再び草を食べ始めた。その夜、獣医さんから電話が。
夕方のユリルがたくさんイモの葉っぱを食べた出来事を報告する。獣医さんも、よかった!!と声を上げて喜んでくれた。
獣医さんは、万全の態勢でサポートしてくれるつもりで私に電話をくれていた。そして万が一の時の私の意思確認。
難産が予想されるが、お産がはじまれば、夜中でもすぐいくので呼んでいいということだった。あと、ユリルが万が一のときはどうしますか?と。
私ももう、何が起きても、という覚悟を決めていた。
助産師という仕事柄、お産のリスクは嫌になるほど思い浮かぶ。
病気がなかったとしても、生後まもなくして妊娠してしまった未熟なユリルが無事に産めるのかどうかとても心配していた。
ましてや、衰弱し、体力もない。余力のない状態で難産に挑むことになる。
小さな体のユリル、おそらく産道も狭いだろう。
果たして生きて出産を終えることができるのか。。
ユリルがお産で死んでしまう可能性も考えていた。
”ユリルがダメなときは、手術で赤ちゃんを取り出してください。”
予定日が分からない以上、未熟児で助からない可能性が高いので、と、当初は難色を示していた、赤ちゃんだけでも出す(手術)という選択肢。これも、私の気持ちにも沿ってもらえることになった。
すべて何かあれば24時間体制で対応してくれる。
最後まで2匹の命をあきらめない(お産が始まれば何とかして赤ちゃんをひっぱりだす)こと。
万が一の時は、助かる可能性のある命があるなら、そちらを優先する、最善をつくすこと。
この意思を互いに確認して電話を切った。
次の日の朝、ユリルが小屋の中で、小さな鳴き声を上げた。
衰弱してから声を出せなくなっていたので、久しぶりに聞いたユリルの鳴き声。
おなかの赤ちゃんが、とてもよく動いている。
何かいつもと違う雰囲気、もしやいよいよお産近いのかな、と思った。
その日は午後から海に行く予定が入っていたので、先生には夕方にきてもらうようお願いしていた。
夕方、家に戻ると、ユリルはいつも通り座って落ち着いている様子。
獣医さんに連絡を取り、17時ごろ獣医さん到着。
内診の結果、子宮口が開き始め、お産が始まっているとのこと!
やった!!ついに始まる!!
獣医さんは、この後、別の仕事が1件入っていて、急いでそちらを終わらせてすぐにまた戻ります、と言って、点滴をつなぎ、私に内診の仕方を教えてくれた。
初めてやるヤギの内診!ドキドキ、ワクワク。。。
ヤギの解剖生理勉強しとけばよかった、、なんて思いながらドキドキしながら牛の内診用?の腕まですっぽり入る長い手袋をもらって、ユリルの膣に指を入れる。
獣医さんにアドバイスもらいながら、子宮口を探す、、、あ、これか!
指一本分くらいあいてる。
獣:そこに、二つに割れ目がある固いもの触れるでしょ?それが、足だと思う。
私:あー、ほんとだ!わかるわかる、今、赤ちゃんと握手してます(笑)
内診するときは、頭の中で、イメージを研ぎ澄ます。
今、何がおきているのか、これからどういう風に進んでくるのか、いろんなパターンを想定しながら、正常にお産が進んでいるか診断する。
安産で、勝手に産むヤギで、こんなに手厚く見ることはまれなんだろうな。
つくづく貴重な場面に立ち会っているなと思う。
ヤギの生まれてくるときの正常胎位は、人間とは全然違うらしい。
人間 → 頭が下。頭から出てくる。
ヤギ → 足が先に出てくる。前足、後ろ足どちらでも可。
一番多いのは、前足二本そろえて、その上に顔をのっけてでてくるそうです。これが、一番スムーズとか。後ろからの場合は少し介助が必要な時もある。
出てくる姿を想像してかわいいな、とにやけてしまう。。
獣医さんは、自分がいない間に変化があればまた内診してみて、と、余分の手袋を置いて、急いで出て行った。
さあ、ここからしばらく一人で見なければならない。ドキドキするけど、こういう時こそ落ち着け、と自分に言い聞かす。
家のことをやりながら、常にユリルの見えるところで様子をうかがう。
あまりずっと近くにいると、ヤギといえども緊張するだろうから、普段どおりのことをしながら、でも、急に変化することもあるから、頭は常にユリルを気にする。
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約30分後、ユリルの膣から粘液のようなものが垂れている。
これは何かしら変化が?と思い、内診。
先進部(手?このときはよくわからなかった)が、だいぶ下りてきてる!
子宮口は開きこそいまいちだけど、もうペラペラ、ちょっと圧がかかったらすぐ全開しそう。
この時点で獣医さんに電話で報告。
獣:今事務所にもどって、念のため手術の準備をしてからすぐ向かいます!
手術、そう聞いて再び心に緊張感。そうだ、今のところ順調に見えるが、何が起こるかわからない。今日がユリルと最後の瞬間になるかもしれない。
神様、どうか無事で、、と祈り、獣医さんの到着を待つ。短くて、とても長い時間が始まった。
18:30頃 ユリルがいきみ始める。
一気に胎胞(赤ちゃんを包む膜が水風船みたいに膣から露出してくる様子)が出現し、いきみにあわせてどんどん、進む。
獣医さんにもう一回電話。
私:先生!ユリルがいきみ始めた!!
獣医さんは、電話口で、もし胎児がでてきたときの介助の仕方について教えてくれた。ちゃんとできるだろうか、ドキドキがとまらない。
18:40分頃 胎胞が引っ込まなくなってきたとおもったら、その瞬間、バシャッ!!破水した!
そこに見えたのは、ヤギの鼻と口!!
うわーーー(;_:) お顔からきちゃったあ、、、
ヤギは足から来るのが正解、顔から来たら難産確定!!
そのままではでれないので、つらいけど、胎児を中に押し戻して手が先にでるように、胎児の体勢を変えなければならない。
とりあえず、赤ちゃん中に戻さなきゃ!!
頭では流れを予習してたけど、実際には全く未知の世界。
手前のほうに足らしきものは触れない。顔だけ前に出てしまっている。
かなり奥まで手を入れて足を探さないといけないようだ。
顔を戻して奥に手をいれようとするけど、手が全然入らない、狭い、子ヤギの足までどころかこれではとても子宮内に手が届きそうにない。
獣医さんはまだ来ない。
近くに付き添って手伝ってくれていた友人に、私の携帯で獣医さんに電話してもらう。
電話してもらったあとすぐ、二人の獣医さんが到着した。
よかった!!
状況を説明して、介助を変わってもらう。
次に続く。。。。