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世代を超えて残るモノってなんだろう〜祖母の農具を眺めながら考えた事〜

先日、自宅の引っ越しをしました。
普段動かさないような家具も綺麗に拭き上げて、トラックに乗せていく。

10年程前に買った某大手メーカーの家具は、新婚時代に揃えた物。
若くお金も無い中、妻と色々と話し合って決めた家具達ですが、さすがに随所に痛みや劣化が見られました。
最近ではキズの他に、娘が描いた可愛い落書きも増え、時間の流れを感じます。


モノを作る際に、大切にしている事

今、僕はサニーサイドスタジオというオーダーメイドのアイアン工房を営んでいます。
お客様とお話しをして、出来る限り希望に添えるモノを製作しますが、その中で特に大切にしている事があります。

それは、とても単純なのですが「長く使う事ができる」という事です。

手入れをする事で、素晴らしい経年変化を見せる素材。

長く使う事の出来る、飽きのこないデザイン。

頑丈かつ利便性の高い仕様。

挙げるとキリがありませんが、製作した家具が2代、3代先の世代にも「これを使いたい」と思って貰えるのが理想です。

流行や、生活様式は時代と共に大きく変わりますが、きちんとデザインされ、素材を選別し、作り手のこだわりが反映された製品は、時代が変わっても、受け継がれていくものだと思います。

逆に流行のデザインを取り入れすぎた量産品や、安価で大量に作られた製品は、時代が遷ると共に廃れてしまいます。やはり作り手の色や熱がこもったモノには時代を越える魅力があります。

高価でこだわり尽くした製品が良い訳では無く、耐久性や利便性に優れていて、なおかつ普遍的なデザインである事。手入れや修理が効く素材であること。それが長く使って貰える道具としての魅力であり、条件なのだと思います。


大切にする対象

流行りやその時の売れ筋という「他人の視点」で物を選んで欲しくないから出来るだけお客様の「自分の視点」に寄り添える、オーダーメイドという形を取っています。

流行りのデザインだから買い、古くなればまた別の流行りの物に買い換える。それではいつまで経っても満足する事はできないと感じています。

作り手としてはモノでは無く「大切にする対象」を家に迎えて欲しいのです。

物を大切にするということは、過ごしてきた時間をも大切にする事だと思います。だからこそ長く使って頂けるものを作りたいのです。


祖母の農具達

サニーサイドスタジオの工房には、農鍛治だった祖父が祖母の為に作った鍬や鎌をたくさん保管しています。
祖母が何度も研いだため、形はいびつになっていますが無骨で頑丈に、そして丁寧作られている農具は数十年経った今でも、朽ちる事なく今に残っています。

街の出身だった祖母は、結婚するまでは農業には縁が無かったそうです。でも僕が覚えている祖母は山道を軽快に登り、無骨な鎌で手早く草を刈っていました。山間部で平地が少なく、急斜面を削り作った畑が山のあちこちにに点在していており、移動するだけでも大変な場所でした。

使い慣れた道具が祖母を助けたのだと思いますが、研いで短くなった刃から祖母の苦労や山での生活の厳しさが伝わってきます。

草を刈り、農作物を育て、鉄を打って農具を作る。
そうして祖父母は3人の子を育て、今の僕に繋がっています。

他人にとってはただの古道具ですが、僕からすると祖父の仕事を垣間見る事のできる大切な物ですし、祖母の人生も感じることもできます。


引っ越し先は僕の実家。

細く子供の背丈程しかなかった生垣の木々は、窓を覆い隠し涼しい木陰を作る程に育っています。
白く無機質なコンクリートの塀はすっかり黒ずみ、ところどころ苔が生え、割れ目からは草木が生えています。

父が20年前に建てた家は祖母の鍬のように少しづつ身を減らしながら、家族の生活を守ってくれていると感じます。

僕の作った製品が祖母の鍬のように誰かの生活を守り、先の世代に受け継がれていく。

世代を超えて残っていくモノって、誰かが大切な人の事を想って作ったモノなのかもしれません。


いつもお読み頂きありがとうございます!