結婚相談所で無料カウンセリングを受けてきました。

近代以降社会の規模が加速度的に膨張している。
インターネット黎明期に多用された文句に「地球の裏側にいる人とも友達になれる」というものがあった。
確かにその通りではあるのだが、それは同時に社会の密度を急激に小さくさせたのではないだろうか。
その結果起きたことが晩婚化を主な要因とする少子高齢化であると私は考える。
結婚相談所はそんな現代だからこそ生まれたビジネスモデルだ。
大層儲かるのだろう。
少し調べただけで10を超える結婚相談所が近所にあることがわかった。
供給過多ではないのかと考えたが私には関係の無いことだった。
相談所の多くは無料カウンセリングなるものを行っているらしい。こちらの設定する条件に合致する人物がどの程度いるのか、それらの人物はどのような条件を設定しているのかを教えてもらえるものであるらしい。
とにかく私はその無料カウンセリングとやらに行ってみることにした。
インターネットで調べてみると結婚相談所のスタッフが利用者に厳しい言葉をかける動画が沢山ヒットした。
私もそんな目に遭うのだろうかと恐ろしくなったが、私の生活に出会いと呼べるものは殆ど存在しない。しかも離婚歴があると来た。ここで踏みとどまっていてはきっと、いや十中八九生涯独身のままであろう。
なんとしてもそれは避けなければならない。
なぜ避けなければならないのかは自分でもよくわからないがとにかく避けなければならないのだ。
当日、私は扉の前で武者震いをして中へ歩みを進めた。
スタッフに無料カウンセリングを受けに来たことを伝えると、小さな会議室のような部屋に案内された。
5分ほどして40歳程の男性スタッフがやってきた。
ふと余計なことを考えたがすぐさま思考から払いのける。
私はそのスタッフに考えている条件を伝えた。
するとそれらの条件をパソコンに打ち込み、合致する人物を私に見せた。
私の出した条件は他の同年代の利用者が出す条件よりも緩いものであったらしく、かなり多くの人物がそこには並んでいた。
私はその中の一人を指さし、「この人のプロフィールを詳しく見せてください」と言った。
その人物は30代後半で、私の住む町から電車で1時間ほど離れた港町で絵描きをしている女性だった。
私はその女性のプロフィールを吟味するふりをして考え事を始めた。

あれからちょうど20年だ。
私は45歳になった。27歳までに死のうと思っていたが生き延びてしまった。
歳月の流れとともに過去の決意が遠く感じられる。
どうにかうまくいったけれど、なぜだか心が寒い。
私はずっとある人物のことを忘れられずにいる。
彼は生きていれば今年で41歳になるはずだ。
生きているのか死んでいるのかもわからない。
20年前、突然連絡がつかなくなってそれきりだ。
彼にとってこの世界というものは大変に過ごしにくいものであったようで、日頃から厭世的な発言を繰り返していた。
私は彼を愛していた。
願わくば私はこの人生を彼のために使いたかった。
だがそれは叶わぬ願いであった。

私は祈る。
どうか、どうか彼の20年前の自殺が成功していてください。と。

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