18-19 PL 第14節 Arsenal × Tottenham Hotspur
プレミアリーグ第14節は、エメリが監督に就任して初となるノースロンドンダービー。
アーセナルはプレミアリーグで前節ボーンマス相手に勝利を挙げ、公式戦4連続の引き分けからようやく脱出。ミッドウィークでは、すでにグループリーグ突破を決めているELで大幅なローテーションを実行し、アウェイのボルスクラ戦にも無事に勝利を収めた。主力をしっかりと休ませた上に勝利を勝ち取り波に乗るアーセナルだったが、エジルが背中を痛めており、この試合はベンチにも入っていない。
対するスパースも公式戦6連勝と波に乗っている。特にプレミアリーグ前節では今シーズン負け無しだったチェルシーを相手に勝利をおさめる。内容でも圧倒しており調子の良さが伺える。ミッドウィークでは厳しい戦いの続いているCLでインテルをホームに迎えここでも勝利。ただ、主力を温存できずに戦っているということでスパースは少し消耗している部分があるかもしれない。
第13節終了時点で勝ち点差は3。得失点差で並んでいるため、ここでアーセナルが勝利を収めれば勝ち点で並び順位が入れ替わる。そういった意味でも非常に重要な今回のノースロンドンダービー。エメリは果たしてどういったフットボールを展開したのか。
試合結果:Arsenal 4 × 2 Tottenham Hotspur
得点
10分:オーバメヤン(PK)
30分:ダイアー(アシスト:エリクセン)
34分:ケイン(PK)
56分:オーバメヤン(アシスト:ラムジー)
74分:ラカゼット(アシスト:ラムジー)
77分:トレイラ(アシスト:オーバメヤン)
交代
45分:ムヒタリアン → ラムジー(3-4-1-2へ)
45分:イウォビ → ラカゼット
71分:ムスタフィ → ゲンドゥージ(4-3-1-2へ)
79分:デレ・アリ → ハリー・ウィンクス
79分:ソンフンミン → ルーカス・モウラ
82分:ベン・デイビス → ダニー・ローズ
■チーム概要
・アーセナル(監督:ウナイ・エメリ)
フォーメーション:3-4-2-1
・トッテナム(監督:マウリシオ・ポチェッティーノ)
フォーメーション:4-3-1-2
■試合の流れ(前半)
アーセナルは前線からの積極的なプレッシングでスタートからゲームの主導権を握る。ビルドアップでもCB3枚とCH2枚でショートパスをつなぎながらWBをビルドアップの出口として、うまくサイドチェンジを使いながら前進することに成功していた。
イウォビ、ムヒタリアンの2シャドーは、スパーズのDF-MFのライン間にポジショニングし、スパーズのSB、CHを牽制。オーバメヤンが裏抜けを狙う。
その効果もあり、オーリエがボールの処理にもたついたところからフリーキックを獲得。そのフリーキックをヴェルトンゲンがハンドしPKに。オーバメヤンが落ち着いて決めてアーセナルが先制する。
その後もアーセナルペースで試合が進む中、ビルドアップが上手くいかないスパーズは徐々にロングキックを使い始め、アーセナルDFを押し下げ始める。
裏へ蹴り、アーセナルCBを引っ張り出したところでボールをキープし、フリーキックを獲得するスパーズ。そのフリーキックを蹴るのはエリクセン。非常に精度の高いフリーキックをダイアーがヘディングで決めて同点に。
そのまた直後、ロングボールをケインが収め、裏へ抜けだしたソンフンミンへポストプレー。非常に上手い連携だった。裏抜けしたソンフンミンが疑惑のファール(ダイブ)でPKを獲得し、ケインがこれを決めてあっという間にスパーズが逆転する。
前半、アーセナルはプレッシングもビルドアップも素晴らしい内容だったものの、いくつかの決定機を決めきれなかったことと疑惑のジャッジで、内容と結果が裏腹になってしまった。
■試合の流れ(後半)
後半スタートからエメリは大胆な交代策に出る。
まさかの2枚替え。
前半、ライン間とハーフスペースで良い仕事をしていたイウォビ、ムヒタリアンの2シャドーを下げ、ラカゼットとラムジーを投入。
3-4-1-2の2トップにフォーメーションを変更する。
2トップの空けたスペースへラムジーが侵入する形から何度かチャンスを生み出すアーセナル。すると56分に待望の同点ゴールが生まれる。ベジェリンから裏抜けしたラムジーへ。ラムジーはワンタッチでオーバメヤンへのパスを選択。これをまたオーバメヤンもワンタッチでシュート。素晴らしい連携から縦に早い攻撃で同点に追いついた。
アーセナルの2トップにスペースを作られ苦戦するスパーズは、ダイアーをCBへ下げて3-4-2-1へ変更する。ビルドアップで数的優位を作り、前線では数的同数ではめていく考えに見えた。
スパーズの変更はそこまでうまく機能していたように見えなかったが、アーセナルにアクシデントが発生する。ベジェリンのパスミスから決定的なピンチを迎え、なんとか凌いだもののムスタフィがクリアした瞬間に足を痛めてしまう。
エメリはやむを得ずムスタフィを諦め、ゲンドゥージを投入する。
3バックをやめて4バックにし、ジャカをアンカーにした4-3-1-2へフォーメーションを変更した。
奇しくもキックオフ時にお互いが選択したフォーメーションがひっくり返る形に。
その後も前線からのプレッシング強度を下げないアーセナル。
フォイスがボール処理をもたついているスキを見逃さずラムジーがボール奪取。すぐにスペースへ抜け出したラカゼットへパスを送る。少しパスが弱かったもののラカゼットが粘りシュート。ボールはダイアーをかすめてゴールへ吸い込まれアーセナルが逆転に成功する。
その後また数分でアーセナルは追加点を奪う。今まで相手を押し込んだときにはセカンドボールを回収する位置にポジショニングしていたトレイラがアンカーにジャカが入ったことで少し前目にポジショニング。上手く裏抜けし、オーバメヤンからのスルーパスを引き出して気持ちのこもったシュートを決めリードを広げた。
その後もインテンシティが下がることなく、スパーズのヴェルトンゲンが2枚目のイエローカードで退場したこともあり、終始ゲームを支配し続けたアーセナル。逆転されてからの再逆転という劇的な勝利を収めた。
■ビルドアップが機能していたアーセナル
この試合、アーセナルのビルドアップは非常に安定していたように見えた。
CB3枚とCH2枚でショートパスをつなぎつつ、相手のファーストプレッシャーラインを引っ張り出す。
前線では2シャドーがDF-MF間の中間ポジションに位置取りすることで、スパースのSBをピン留めし、WBへ迎撃できない状況を生み出す。これによりWBのスペースに余裕を与えていた。
さらにスパースが前線からサイドへ誘導してはめてくるディフェンスを利用し、片側へ寄せておいて逆サイドへ大きく展開し、前進することに成功していた。
相手フォーメーションとのかみ合わせもあるが、このWBのスペースを空けてビルドアップの出口にして前進するビルドアップは、非常に有効に見えた。今後のさらなる連携の向上に期待したい。
■後半2枚替えの意図
この試合の一番大きなポイントは、間違いなく後半スタート時の2枚替えだと思う。1点ビハインドで迎える後半。ホームで行うノースロンドンダービー。絶対に勝たなくてはいけないこの試合に、エメリは賭けとも言える交代策に打って出た。
ここまでライン間で良い動きをしていた2シャドーのイウォビとムヒタリアンに替えて、ラムジーとラカゼットを投入。
自分が感じたその意図は主に2つ。
1.スペースを作り、そのスペースを突くオフェンス
2.CBのビルドアップ阻止
【1.スペースを作り、そのスペースを突くオフェンス】
2トップの片方(主にラカゼット)、またはトップ下のラムジーがCB-SB間に走り込みCBを引っ張り出す。その空いたスペースにもう一人が抜け出し、ボールを引き出す。スペースを作り出し、そのスペースを突いていくことで相手を動かし、押し込むことにつなげていた。
前半の2シャドーでは、ハーフスペースを活用してサイドから崩すことをメインに攻撃していたが、相手のハイプレスもあり、リードしたスパーズはより中央を固めるだろう。それなら中盤飛ばして一気にゴール前で勝負させよう。ってのがエメリの狙いかなと。
結果的に同点ゴールは、この縦に早い展開からゴールが生まれているし、エメリの采配はズバリだったと思う。
【2.CBのビルドアップ阻止】
2トップのオーバメヤン、ラカゼットをメインにスパーズの2CBに、アンカーのダイアーにはラムジーをあてて前線からプレッシングを行い、ビルドアップを阻止していた。
特に狙いは、この試合調子の悪かったフォイス。ここにボールを持たせて刈り取るようなプレッシングが見られた。
アーセナルの逆転ゴールもこの守備から生まれており、ここでもエメリの采配は功を奏したんじゃないかと感じた。
■あとがき
試合展開も、エメリの采配も、スタジアムの雰囲気も、すべてが最高のノースロンドンダービーだった。
ダイアーの煽りも、ソンフンミンのダイブも、マイク・ディーンのジャッジも、全てこの盛り上がりを生み出すためのネタ振りみたいなものだった。
正義が勝ち、悪が負ける。まさにそんな試合だった。
次は中3日でミッドウィークにユナイテッド戦。
モウリーニョ率いる今のユナイテッドは不調続き。
ヴェンゲル時代になかなか勝てなかったモウリーニョ相手にエメリはどういったフットボールを見せるのか。とても楽しみだ。