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「右サイドの新たな試み」20-21 PL 第4節 アーセナル×シェフィールド・ユナイテッド レビュー

プレミアリーグ前節でリヴァプール相手に完敗したアーセナルだったが、そのあと中二日でリヴァプールとカラバオカップで再戦。結果は、PK戦の末に見事勝利。敗戦を引きずらずにプレミアリーグに挑めるのは好材料だ。とはいえ、日程が厳しくカラバオカップからまた中二日で今節を迎える。相変わらずイングリッシュフットボールはスケジュールがハードだ。

そんなアーセナルが今節ホームに迎える相手は、シェフィールド・ユナイテッド。クリス・ワイルダー監督の元、攻撃参加する3バック戦術で注目を集め、3部からあれよあれよという間にプレミアリーグへ昇格。プレミアリーグ初年度となった昨シーズンも9位でフィニッシュし大躍進を遂げたチーム。だが、今シーズンは開幕から躓きここまで3連敗。しかも無得点ということで、かなり厳しい出だしとなっている。

アーセナルとしては、上位陣に喰らいつくためにもここは勝ち点3が必須だが、シェフィールド・ユナイテッドもこれ以上の失速は出来ないことを考えると、死にものぐるいで挑んでくるだろう。

■ チーム概要

【HOME】
・アーセナル(監督:ミケル・アルテタ)
フォーメーション:4-3-3
【AWAY】
・シェフィールド・ユナイテッド(監督:クリス・ワイルダー)
フォーメーション:3-5-2

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スターティングメンバー発表時は4-3-3とも3-4-2-1とも見えるメンバー選考をしてきたアーセナル。試合開始の時点では4-3-3がベースだったが、撤退守備時はいつもと同じ5-4-1で守るかたちのようだ。これは直前のカラバオカップで採用した形。メンバーは、ラカゼットとジャカを休ませてエンケティアとエルネニーを起用した。

対するシェフィールド・ユナイテッドは、お馴染みの3-5-2。中央を固めた守備と、攻撃時にウイングバックが上がり、更にその外を両ハーフバックがオーバーラップしていく形が主な戦い方だ。

■ 前半:ローリスク・ローリターン

この試合4-3-3をベースにスタートしたアーセナルは、ビルドアップ時にエルネニーを右ハーフバックの位置へ落とし、アンカーポジションにセバージョスを配置、2センターバックが左にずれることで4人の菱形を形成。低い位置からビルドアップしシェフィールド・ユナイテッドを引き出して疑似カウンターを狙う形だ。

対するシェフィールド・ユナイテッドは、2トップがスピードを活かして積極的にフォアチェックを仕掛ける。3バック化したアーセナルに対して、2トップ+インサイドハーフの3枚でプレッシングするが、これはあまりハマることがなかった。逆にアーセナルはプレッシングを利用して2トップ脇からボールを前進させる。

だが、雨の影響もあったのか、アーセナルのパススピードが全体的に遅かったこともあり、シェフィールド・ユナイテッドのスライド守備が間に合い、アーセナルはあまり相手を揺さぶれない。

左右に振られることのないシェフィールド・ユナイテッドは3センターが中央をしっかりと締めることで中へボールを入れさせない守備。アーセナルはバイタルエリアへなかなか侵入できず、ブロックの外からクロスを狙うことで打開を図るがシュートまでいけず。ボールを保持するものの崩しきれない時間が続く。

ブロックを崩すためには、ボールホルダーを追い越すようなランニングを増やしたり、単純に前線への人数を増やす必要があるが、アーセナルはそこまでリスクは冒さず。

アーセナルがボールを保持する時間が長かったものの、シェフィールド・ユナイテッドがボール保持になった際には、2トップの一角を担うバークのスピードやフィジカルの強さを活かして前線でボール保持。ウイングバックやハーフバックの上がりを待つ。

それに対してアーセナルは、守備時にインサイドハーフのサカをウイングバックに下げて5バック化。5レーンを埋めつつウイングの2人も下がって相手ハーフバックのオーバーラップにも対応。この守備はうまくいっており、前半に危ない場面は殆どなかった。

結局お互いにあまりチャンスを作り出すことが出来ず、スコアレスのまま前半が終了。アーセナルは、ボールを保持するものの縦に抜けるランニングが少なく、ミドルサードからファイナルサードまでの崩しの一歩手前に課題の残る前半だった。ローリスクでゲームをコントロールしていたものの、その分リターンも少ない前半だった。

■ 後半:リスクを冒してリターンを得る

お互いに選手交代はなし。後半も前半と同じような展開でゲームが進んでゆく中、シェフィールド・ユナイテッドが全体的に少し前に人数をかけるようになってきた印象だ。その分スペースもできるため、アーセナルが徐々にファイナルサードまでボールを運べるようになってくる。

シェフィールド・ユナイテッドのスライド守備も間に合わなくなり始め、52分にはアーセナルが決定機を迎える。相手を押し込んだ状態から左右にボールを動かし、最後はサカ、セバージョス、オーバメヤンの連携で崩し、最後にオーバメヤンがボールに触れられていればゴールという惜しいシーンを作る。サカのレーンを跨ぐ横のドリブル、オーバメヤンの弧を描くラインブレイク、セバージョスのワンタッチパスと、きれいな連携でディフェンスラインを崩していた。

後半も10分を過ぎた頃、両チームともに動く。シェフィールド・ユナイテッドはバークを下げてマクバーニーを投入。もう少し前線でタメを作りたいという狙いか?ただ、アーセナルとしては、バークのスピードとフィジカルの強さに少し手を焼いていた印象だったので、この交代策は悪手に見えた。

対するアーセナルは、エンケティアを下げてペペを投入。ここでフォーメーションを4-2-3-1変更。右にペペ、左にサカ、真ん中にウィリアン、フォワードにオーバメヤンという布陣に。真ん中にウィリアンが入ったことでミドルサードからファイナルサードまでのリンクがスムーズになった。

この采配により61分、遂にアーセナルが先制点をもぎ取る。ディフェンスラインから真ん中のウィリアンを経由して右サイドへ。右サイドではエルネニーが右落ちしていることでベジェリンがハーフレーンの高い位置へ押し上げ、ペペが幅をとる。ウィリアン、ペペでパス交換しながら相手ディフェンダーを外へ釣り出す。空いたハーフスペースに飛び込んできたのはエルネニー。シェフィールド・ユナイテッドのディフェンスラインをズバッと切り裂き、最後はベジェリンのクロスをサカが頭で押し込みゴールゲット。エルネニーのリスクを恐れずにスペースへ飛び込んだプレーがゴールという最高のリターンを得た瞬間だった。

アーセナルは先制点からわずか3分後、追加点を奪うことに成功。ここでも真ん中のウィリアンを経由して右サイドへ。幅をとるペペ、ハーフレーンのベジェリン、この2人のきれいなワンツーパスから右サイドを突破。そのままペペがドリブルで持ち込み、わずかな隙間を縫って放ったシュートがゴールに吸い込まれる。ベジェリンのパスも素晴らしかったが、何よりペペのポテンシャルの高さを感じさせてくれたゴールだった。

2点のリードを得たアーセナルは、その後もゲームをコントロール。アーセナルペースで試合が進む。得点の欲しいシェフィールド・ユナイテッドは、ディフェンダーのバシャムを下げてシャープを投入。フォーメーションを4バックに変更して前線の枚数を増やす。

危なげなく守っているように見えたアーセナルだったが、84分にクリアボールを拾われた形からマクゴールドリックに素晴らしいミドルシュートを決められて1点差に。

1点差となって勢いづくシェフィールド・ユナイテッドだったが、アーセナルはサカを下げてメイトランド=ナイルズを投入し守備固め。アーセナルが集中を切らさずそのまま守りきって勝利。勝ち点3を獲得した。

■ 試合結果

Arsenal 2 × 1 Sheffield United

■ 得点
61分:サカ(アシスト:ベジェリン)
64分:ペペ(アシスト:ベジェリン)
84分:マクゴールドリック(アシスト:バルドック)
■ 交代
56分:バーク → マクバーニー
58分:エンケティア → ペペ
63分:オズボーン → フレック
76分:バシャム → シャープ
81分:セバージョス → ジャカ
87分:サカ → ナイルズ

■ 試合ハイライト

■ エルネニー起用による右サイドの活性化

この試合、今までと異なっていたのが右サイドの仕組み。
4-3-3の基本フォーメーションからエルネニーが右ハーフバックの位置へ落ちることで右サイドバックのベジェリンを高い位置へ押し上げる。オフェンスの枚数を増やしつつ、カウンター対策でエルネニーが残る狙いだろう。

エルネニーの代わりにジャカだと左利きなので右落ちしにくい。セバージョスは真ん中で機動力を活かしたいので右落ちさせたくない。ということで、エルネニーを起用したように思う。

この采配により、ベジェリンは普段よりも高い位置へ上がることが可能となり、ウィングのウィリアン(後半途中からはペペ)と共に、ワイドレーン、ハーフレーンで段差を作り相手を崩すことに成功していた。

この試合の2得点がベジェリンからのアシストだったことは偶然ではなく、エルネニーの右落ちから形作られた右サイドの活性化が生み出した結果だったように思う。

今までの試合では、ティアニーロールを用いた3バックから4バックへの可変で左サイドを中心に前進していたが、今回のテストで右サイドからの前進も可能性を感じさせる結果となった。

新たなオプションを手に入れたアーセナル。今後の4バックへの取り組みが非常に楽しみだ。

■ あとがき

下位チーム相手にホームできっちり勝ち点3を獲得したアーセナル。
前半は静かなゲーム展開だったものの、試合自体はコントロールできていたし、後半のフォーメーション変更から生まれた2得点はとても見ごたえがあった。

まだまだ課題はあるものの、右サイドの新たな試みもあり、引き続きアルテタがアーセナルをどのように導いていくのか楽しみだ。

次節は、インターナショナルマッチウィークを挟んでマンチェスター・シティ戦。エティハド・スタジアムでのアウェイ戦。そしてペップ対アルテタの師弟対決となる。

見出し画像 引用元:アーセナル公式HP
ハイライト動画:アーセナル公式 You Tube
フォーメーション画像作成:TACTICALista