リンゴ (1分小説)
「こぞう、それをはなせ!」
ボクは、ビクッと立ち止まった。
上の方から、男の人の声が聞こえた。
「いいから、はやくはなせって。ぜったいに食べるなよ!」
男の人も周りの人たちも、みんなこっちを見ている。
近くにいた、ボクの母さんが言った。
「大丈夫。こういうことは、けっこうあるのよ。今日は、リンゴか」
「リンゴ?これって、リンゴなの?」
「ええ。でも食べたらダメ。返してあげなさい」
まさか、毒入りリンゴ?
ボクが、リンゴを足元に落としたら大きな歓声があがった。
「えらいぞ、こぞう!」
「かしこい!」
褒められたボクは、興奮して周囲を走り回り、結局、リンゴを踏んづけてしまった。
「あぁ!」
落胆する人たち。
なんかゴメン。
ボクは長い鼻を鳴らした。
パオ~ン。
リンゴは、ひび割れて真っ黒になり、二度と、何の映像も音も流さなくなった。