投資家インタビュー#2【前編】初のディープテック投資で、創業時よりハンズオンで支援してきた理由ーD4V太田明日美さん
SUN METALONは今秋、シリーズAラウンド 1stクローズにて総額31億円を日米の投資家・金融機関より調達しました。今期はシード期から投資していただいているVCのD4Vに、ハンズオンで広報支援にも入っていただき、10月の3本のプレスリリース公表などにつながりました。
SUN METALONはD4V唯一のディープテック企業の投資先であり、D4Vには創業初期より、社名決定、ロゴや装置のデザインなど多方面からSUN METALON の成長を支えていただいています。
前編の本記事では、当社への追加投資を決めたD4Vパートナーの太田明日美さんのお話をまとめます。
後編では、今春から半年間広報支援のために当社に出向していただいた同社シニアマーケティングマネージャーの牧瑤子さんとのインタビューを公開します。
■フォローオンに迷いはなかった
――シード期から先日のシリーズAに至るまで、連続で投資をいただきありがとうございます。2023年春、我々は注力事業を金属3Dプリントから金属リサイクルにシフトしました。プレシリーズAからのフォローオン(追加投資)に迷いはなかったですか。
太田さん(以降略)
ありませんでした。SUN METALONには長く支えてくれている顧客の大企業があり、金属リサイクルに向けた装置開発などの進捗も見えていました。事業が順調に進んでいる様子を把握できていたこともあり、あまり心配しませんでした。
そこにビジネスチャンスがある限り、事業領域の転換は積極的に検討するべきだと私は考えています。
今回は、180度事業内容をピボットするわけではなく、もともと力を入れていた事業の一部を応用されました。それも、CO2削減など環境問題により直接的にアプローチすることが可能で、よりインパクトが大きそうだと判断してリサイクルに舵を切られたので、投資家から見ても納得のいく転換だったと思います。
その時々のフェーズに応じて必要なスキルセットを持った人たちが入ってきていて、順調にチーム作りができていたことも安心感につながりました。
■大きな挑戦に賭けたいと思った
――3年前の2021年、最初の投資に至った経緯を改めてお聞かせください。
エンジェル投資家の知人に、SUN METALONを創立した西岡和彦CEOを紹介してもらったのが最初の出会いです。彼が日本製鉄を退職し、起業する直前の話です。
西岡さんは当時「金属3Dプリンタで地産地消、宇宙でのものづくりを目指す」と話していました。そこまで大きなマイルストーンを最初から描いている起業家はあまりいないので、パッションに圧倒されました。
専門家など多くの方に話を聞くうちに、「確かに西岡さんが思い描くビジョンが実現できたら、劇的に世界が変わる」と思うようになりました。
宇宙を最終ゴールに置きつつ、そこまでのステップをきちんと示してくれたことが投資につながりました。ハードウェアの領域で大きなジャンプに挑戦する話はあまり日本から出ないので、そういう意味でも面白い。賭けてみたいと思いました。
――西岡さんにはどんな印象を持たれましたか。
情熱のある技術者で、かつ、ビジネスマインドも持ち合わせた人だなと思いました。
研究畑出身で、テクノロジーに強みがある起業家は多いけれど、ビジネスマインドも併せ持つ起業家はあまり多くありません。
SUN METALONは、テクノロジーがあり、ビジネスとして伸びそうで、CO2削減にも寄与する可能性がある。テクノロジー面、ビジネス面、サステナビリティ面、といった複数の要素が全て揃っている事業計画は珍しく、可能性を感じられる会社でした。
■投資先調査はこれまでになく綿密に
――D4Vとしてディープテックへの投資は初めてであり、現時点でも唯一だとうかがっています。社内の議論はかなり大変で、チャレンジングだったのではないでしょうか。
チャレンジングだったし、他の会社よりもりだいぶデューデリジェンス(投資先調査、DD)に時間をかけました。ディープテック投資の先例がなかった分、慎重に調べて議論を重ねる必要がありました。
初回投資の段階ではまだ装置ができておらず、実物は何もない状態。技術自体が新しいので、市場成長性を判断するための類似企業を見つけるのも難しい。
このため文献を調べたり、D4Vとパートナーシップを組む世界的なデザインファームであるIDEOのデザイナーに一緒に話を聞いてもらったり、特許に詳しい弁護士や、技術面の専門家に話を聞いたりしました。
そこまで多くの人に話を聞きに行くことは、シード期の会社にはあまりしません。当ファンドが始まって以来の念入りな調査でした。
――投資を決めるにあたって、どのような面を重視されましたか。
SUN METALONは創業時からグローバル展開を見据えていたので、大きな成長ポテンシャルがあることに加え、脱炭素化を推進できる可能性があるのは大きかったです。
シード期の企業への投資では、創業者の人柄やチーム構成、業界の専門性を気にします。その意味では全てをカバーしているチームで、バランスが取れている印象でした。
さらに細かいところで言えば、西岡さんが英語で事業紹介できるのもよかったです。当社の投資審査は英語で行われます。特に日本の起業家は英語を難なく話せる人ばかりではないので、その点はやりやすかった。
■みんなで盛り上がった創業初期のプロジェクト
――創業初期には様々な側面でデザインチームの皆さんに参画していただきました。
D4Vでは投資先企業に、ブランディングからプロダクトデザインまで様々なデザイン面でのサポートを提供しています。SUN METALONとは初回投資の頃から会社名やロゴの決定、ウェブサイト作成、装置デザインなど多数のプロジェクトでご一緒し、ワークショップなどで議論を重ねました。
(創業後すぐのSUN METALONとのコラボレーション内容をまとめたIDEOの記事)
創業直後までは西岡さん発案の「3dMetal」という社名で進めていましたが、イギリスの他社と社名がかぶっていたので考え直しました。グローバル展開を最初から見据えていたので、変えようということになりました。
当時の社員と我々のデザインチームらで集まって議論し、みんなで社名案を出し合いました。西岡さんが絞り込んでいき、最終的に今のSUN METALONという社名が決まりました。
会社のロゴも当時参画していたデザイナーが作成し、創業初期のウェブサイト制作も手掛けました。
――ここまでハンズオンで支援していただいたのは、大きな期待をかけていただいたためでしょうか。
期待の大きさもあったし、西岡さんがデザインの重要性に理解があったのも大きかったです。起業当初から「我々にはテクノロジーはあるが、デザインはない。グローバルで戦っていくためには強いデザインが必要なのは分かっているから、ぜひ一緒にやりたい」と話してくれていました。
もともと私たちにもディープテックとデザインは相性がいいという仮説がありました。
技術力が企業の最大の売りだったとしても、投資家へのピッチにおいては、ビジネスプランの説明にも重きが置かれます。
つまりコアとなる技術が成熟してきた段階では、顧客企業や市場にどれだけ意識を向けているかが競争力に大きく関わってくる。その点に、デザイン、そしてデザイナーが得意とするユーザー視点のアプローチが貢献できると考えています。
D4Vのネットワークには、グローバルと日本の両方の知見を持っているデザイナーが多数います。SUN METALONに関わったメンバーの中には、装置や機械のデザインを得意とするインダストリアルデザイナーもいました。
西岡さんからニーズを伝えてくれたので、こちらとしても手助けできるところは全てしたいと、多くの人を巻き込むことができました。
大きなビジョンの実現をサポートしたい、成長するビジネスを支えたい、かっこいい装置をデザインしたい。SUN METALONへの支援は、そうしたステークホルダー全員が、いろんな方向性からエキサイトしたプロジェクトでした。みんながやりたいと思ってくれていたので、社内でも調整しやすかったです。多くの人たちが楽しみながら貢献できました。
――将来、我々に期待することをお聞かせください。
もちろんVCという立場からは会社に大きく成長してもらい、リターンを出したいという期待はあります。
ただ、お金を生むことだけでなく、業界や世の中に大きなインパクトを与える仕組みやテクノロジーが広く世界で使われて、CO2削減を含めて、多くの人の価値観や生活にインパクトを与える世界が本当に実現されるのを楽しみにしています。
西岡さんが思い描くビジョンが実現したときのインパクトはものすごく大きいと思います。それが今徐々に出来上がってきてるのを見られているのが、嬉しいし、わくわくします。SUN METALONがつくりあげていく世界をずっと横で見続けたいですね。
後編に続きます。