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朱黒の鬼模様 役小角のユダ 序章:海底での会談

太平洋の底、緑石を組んで作られた宮殿にオレンジ色の光球が下りてきた。その中から降りてきたのは、歯車型の赤い後光を背負った女性。日本の神の王、天道アマテラス。アマテラスを出迎えたのはこの宮殿の主、タコの触手のようなひげを伸ばした禿げ頭の老人。宇宙の果てから来た海の神、九頭竜(クトゥルー)ワダツミ。
「お前がここに来るとは珍しいのう」
いぶかしむワダツミにアマテラスは簡潔に答えた。
「地上で起きている事件について話があってね」
そう受け答えする二人の後ろで、セラミックの鎧を着たアマテラスの従者が半魚人のワダツミの従者に贈り物を受け渡していた。
赤や紫の珊瑚で飾られた庭を眺めた後、二人が席に着くとワダツミの侍女が器に盛られた黒い粒を差し出す。
「アマテラス様より、黒蓮玉の進物にございます」
強い妖力のこもった丸薬をピーナッツのようにかみ砕くと、ワダツミは嬉しそうに言った。
「ほっほう!なかなか高純度じゃあ。儂はこいつが大好物でのう」
「喜んでいただけて何よりだわ。それは地上で作られたものなの」
その瞬間、空気が緊張する。
「この甘さと酔い心地、唐国の製法か。わしが伝えた製法を道士たちが改良したものじゃな」
「その製法が入ってきたのは韓国広足の一件だけ。それ以降は見つかっていないわ」
しばらく黙り込む二人。ワダツミが立ち上がった。
「……わしのまいた種じゃ、深海で寝ておるわけにもいかんくなったか。このことは他に誰がかかわっておる?」
「人間たちが作った組織、『スケープゴート財団』が対処しているわ。そことのパイプ役は山幸彦よ」
アマテラスにとってはひ孫、ワダツミにとっては娘婿に当たる名前が出てワダツミは微笑む。
「ほっほ!婿殿も頑張っておるようじゃ」

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