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access『Vertical Innocence』のイントロ2小節を深掘りしてみた


私、何十年も生きてきて音楽は何となく聞く専門だったんですけど、昔から音楽理論には興味ありまして。根が理数系なので、こういう理論的な話って結構好きです。

そんな何となくの興味だった中、2021年お正月に大ちゃんがテレビ出演した「マツコの知らない世界」の内容に感銘を受けて、それ以来本格的に音楽理論を調べ始めたら、とにかくもう面白いのなんの。
そして、長年やりたいと思っていた楽曲の解析に手を出したわけです。

他のnoteを書く過程でVertical Innocenceのイントロを調べてみたら、色々思うところがあったので語りたくなりました。

音楽を心得てる人には当たり前の話かもしれませんし、たった1ヶ月くらいの付け焼き刃な知識をドヤ顔で説明するのも結構恥ずかしいんですが、だって感動したんだもん!!
つ・た・え・た・い!伝えたい(古

わかる人には当たり前、よくわからない人には「???」という話かもしれませんが、色々変な方向にアツい語りをお送りいたします。


主キーの話


まずは、コード進行を語る上で大事な主キーの話。

主キーで#が何個、♭が何個付くかで曲の性質が決まるという話は知っていますか?昔、大ちゃんが行った作曲セミナーで触れていましたが、♭が多いほど暗く、#が多いほど明るくなる、という話。

これは「調性格論」というものです。

しかし現代のトランスポーズ(移調のこと。カラオケで全体のキーを上げたり下げたり出来るアレです)が出来るように調律された音においても、この調による特性はあるのか?という疑問はあるのですが。
とりあえずそれは置いておいて、作曲セミナーで軽く触れていることから大ちゃんが作曲家として主キーによるイメージを意識している事が伺えます。

で、何故こんな話を先にしたかと言うと、私はこのVertical Innocenceの主キーに凄く大ちゃんの意志を感じたのでちょっとお話してみました。

Vertical Innocenceの主キーは♭が3個つく「Cマイナー」(ハ短調)です。

このCマイナーが持つ調性格がどんなものか調べて『これは…!』と思ったのが、こちら。

c-moll ハ短調ー愛の表明、同時に報われない愛の嘆き・・・それぞれの喘ぎ、憧れ、愛に飢えた魂のため息がこの調にある。

……いやいやいや、これはエモすぎる(オタク、すぐエモい言いがち)
曲のテーマは「七夕」。もうまんまぴったりで、見つけた時はちょっと悶絶しました。

後、ここからは私自身の独自のCマイナーの解釈の話です。

調合記号の数と主キーの関係をわかりやすく図にした『五度圏(サークルオブフィフス)』というものがあります。
(図はリンク先より引用させていただきました)

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美しいですよねぇ。12で綺麗に一回りするんです。時計と同じ12。自然の不思議な秩序を感じます。

さて、この上図の1番上は調合の付かないナチュラルなキー、CとAマイナー。明るくも暗くもない真ん中です。左に回る程♭が増えて暗く、右に回る程#が増えて明るくなります。
では一番下は?物凄い明るいと暗いがぶつかります。明るすぎても、引き換えに影がはっきりしていく…という印象でしょうか。

となると、この円の一番左(E♭メジャーやCマイナー)は、一番明るさから遠い位置なのでは?と、思ったのです。
澄んだ混じり気のない暗さ……。なんだかこれ、『宇宙』感じません?

そんな主キー1つにすらアツい思いを感じてしまったのでした。

…ただ単に弾きやすいから、とかだったらどうしましょうか笑


イントロ2小節のループがもたらす『また聞きたい』と思わせるもの


さて、大事な主キーが「Cm(マイナー)」とわかった所で本格的にイントロのコードの話です。

イントロ、と言ってもキーーンという甲高い音の後から始まり、勢いが増す所まで繰り返されているたった2小節の音の話です。

このイントロの2小節、アウトロにも同じ音が鳴っているのですが、どことなくふわふわ漂っていて落ち着かない感じがしませんか?イントロの勢いが増す所の最初の1音を聞くと、ほっと安心するような地に着いた〜!という感覚になりませんか?

この感覚、実はコードつまり和音でコントロールされているのです。

ふわふわ何となく終わったような終わっていないようなアウトロ。全く同じ音の構成で始まるイントロ。そして、勢いよく始まる所で安定感のある音──。
「なんか終わった気がしない…」と、再び聞きたいと思わせるその感覚が、作曲者によって意図的に作られているものだとしたら?我々は知らず知らずのうちに神の手のひらでまんまと転がされているわけです。

では、何故この2小節が繰り返しを誘うのか。鳴っている音を細かく見ていくと謎が解けていきます。


まず、高音。笛のような音色でとても目立つ音です。

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この音は、「ドソレミ♭」の4音。

最初のドの音から一気にソの音に行くのは…、あのジョン・ウィリアムズの最初の音ですね!力強い堂々とした響きです。

全部の音を同時に鳴らすとCmコード「ドミ♭ソ」に9番目の「レ」(ドから数えると2番目ですが、和音的には9番目として扱います)を足した「Cmadd9(Cマイナーアドナインス)」という和音になります。
とても綺麗で透き通った響きをしていて、ポップスでもよく使われるコードです。

主キーCmに対して一番安定する音「ドミ♭ソ」にちょっと不安定な「レ」の音が入っているので、凄く芯のある中に僅かな揺らめきを感じる、そんなメロディです。


次、真ん中の音。

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金属音の一定した「ド」の音の4つ打ちです。シンプルな安定の音。まるで鼓動のようだなと感じます。
ふわふわする全体を中心でしっかり支えている音です。


最後、低音。(楽譜の書き方とか音の高さが合ってるかとか、そういうことは突っ込んじゃいけない)

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ここまで安定の音で来ているのでおわかりでしょうか。そうです、浮遊感を一番感じさせているのがこの低音部になります。

ベースの音が「ラ♭」、その音の上に動きのある音で「ファーラ♭ーーー…」、更に上に「レーミ♭ード レーミ♭ード…」と鳴っています。
コードとしては「ファラ♭ド」のFm(Fマイナー)を意識させる音です。

ファの音は、主キーから数えて4番目から始まる音です。ここ!この4番目から始まる音の和音というのが大事!

この4番目の音から始まる和音を「サブドミナント」と言います。

5番目の音から始まる和音は「ドミナント」と言い、主キーから始まる和音であるトニック→ドミナント→トニックと繋げるのが、おなじみ「お辞儀」のコード進行。…絨毯ぶっ飛ぶあのコード進行です。
ドミナントは凄く不安定な音で、トニックに行きたがる性質を持ちます。

そのドミナントほどではありませんが、サブドミナントも安定する和音ではなく、他の音に移動したいと感じさせる性質がある和音なのです。

これがイントロ2小節の何となく浮遊感を感じさせるものの正体です。

このふわふわした音が繰り返された後、イントロの勢いがつく所で鳴る最初のコードが「Cm」。安定の主キーのコードに行く事で、ふわふわ漂っていた「魂が」「辿り着いた」となるわけです。

この曲のアルバムやライブでの終わり方を比べてみると違いがわかりやすくて面白いです。
Heart Miningアルバムバージョンのアウトロでは、Fmの低音部がフェードアウトして、金属的な主キーの音「ド」の音を強調して終結感を出しています。
また、ライブで演奏される際はドラムの「タカタカタンッ」の後、主キー「Cm」の音を加えて終結感を演出しています。気になる人は25th Anniversary TOUR 2017 double decades + half(中野公演)の映像をどうぞ。

ライブで大きくアレンジされることのなかったこの曲ですが、2018年Heart Miningツアーではオープニング用に長めのイントロが足されました。また、終結感のないアウトロ(Fm)を利用して「Share The Love」のイントロGmにサブドミナント→ドミナントの流れで繋げているのは面白いな、と思いました。


この2小節は「織姫」と「彦星」のモチーフである


ここからは私の解釈の話なので、こういう考え方もあるんだ、くらいのスタンスで聞いてください。

このイントロの2小節は間奏の前でも鳴っていて、2つに分離されています。間奏1パート目の前は高音部、2パート目の前は真ん中の音と低いベースの音に分かれています。
間奏の1パート目はピアノ中心のとても流麗な雰囲気のメロディ、2パート目はボーカルの声も入り力強いパートです。

七夕というテーマ、呼応するように2つに分離された音、雰囲気の違う間奏前に鳴る音…。これらの事からイントロの2小節の音が「織姫」と「彦星」のモチーフなのではないかと私は思うのです。

…しかし大ちゃんの思う織姫と彦星のイメージがこの和音に表れているのかと思うと、ちょっと面白い。
しっかりと芯のある中にちょっとした揺らぎのある高音の女性パート、鼓動は力強いけど低音は不安定な男性パート…。ここに何を思うかは皆様のご想像におまかせいたします笑

まぁもしかしたら深い意味はなく、単に目立つ高音には安定、目立たない低音に不安定を持ってきただけかもしれませんが…、こういう考察も面白いです。

となると…、最初にキーーンとなる音は「織姫」ベガと「彦星」アルタイルの間にあるもの…、夏の大三角形の最後の1つ、はくちょう座の「デネブ」なのかな〜?とか妄想が捗ります。

後、コードの際に話した「繰り返し」というのも、七夕の話は毎年繰り返されている物語であるという所にも繋がっているのかなと思います。


DAソングの永遠のテーマである『円環』


ここまで「繰り返しを誘ってるんだよ(ドヤッ」と語ってきましたけど、ちょっと浅倉大介の作品の事を知っている人なら「大ちゃんがよくやる手法では?」と思われるかもしれません。
…その通り。そう、大ちゃんは曲を終結させるのが大嫌いなのです。(はっきりとそう発言しています)

何度も繰り返し聞きたい、と思わせる事は曲の売れ行きにも影響する所ですが、どうやらそんな単純な思惑で繰り返しを誘う作りをするわけではないようです。

『曲で描かれるストーリーはそこで終わりではない』

大好きな音楽を終わらせたくないという強い意思、決して終わらないぐるぐると回り続ける円環の世界…。それはまるで最初の主キーの時に話した調の関係性─サークルオブフィフス─のようです。

そんな永遠とも言える音の円環の世界──、それがDAソングの魅力の一つであると私は思います。


たった2小節の音ですが、凄くドラマがあると思いませんか?
音楽って面白い。
そんな魅力が少しでも伝われば、嬉しいです。