erase #1

見たもの全てを詳細に記憶し、過去の些細なことまで細かく覚えているという超人的な記憶力を持ってしまう病気いわゆる超記憶症候群を知っているだろうか。
ドラマの探偵がこれであれば、たちまち事件は解決し名探偵ともてはやされるだろう。
これは本当に病気かと思う方も多いだろう。見たものを全て鮮明に記憶できれば勉強も楽だし、テストなんて自分の記憶の中にある答えを書き写す作業となるではないかと。
かくいう私も、超記憶症候群である。残念なことに、私のこの病気は勉強には全く役に立ってはくれなかった。自分の理解をこえるものは覚えていられないらしい。さらに悪いことに私は警察官でも名探偵でもない。この病気を活かすことのできることは私の生活においてほとんど何もない。せいぜい無くしたものを見つけるのが容易なくらいである。
それに忘れられないと言うのは多くの人が考えるより苦痛の多いものである。私の少年時代は今思い出してもつらいものだった。1ヶ月前の喧嘩を思い出し、喧嘩相手を殴ってしまう。数年前の友達の大怪我の現場を思い出し、震えてしまう。誰にも理解されない忘れられないことの弊害、そのせいで私は常にいじめられていた。大人になって現実と記憶の区別がはっきりつくようになり、理性で自分の感情を抑えられるようになっても、週に2回は感情が爆発してしまう。先月言われた上司からの嫌味、2年前の家族の死、それらをまるで昨日のことのように思い出せる私はいつでも当時の最悪な気分になれる。

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