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父の肺癌⑤

 何の因果か、仕事で呼吸器内科の担当をしていることは前述している。
 今年度に入って(まだ5月!)、2人、父と同じ歳で、肺の異常陰影有り、急に立てなくなったという患者が病院に来た。しかも、受付時間ギリギリに紹介状を持って。さらに加えて、異常陰影有りと紹介状に書いておきながら、画像を持ってきていない。どちらも似たような患者で、若い頃からの喫煙歴あり。仮にTさんとSさんとしよう。

プライバシーを考え、過小過大に書いてますが、全体像としては、こんな感じです。

 Tさんは、娘さんと来院。紹介状には肺野異常陰影有り、因果関係があるか不明だが、下肢脱力を何度か起こしているとのこと。画像が無いからとりあえずCT。放射線科の読影を待たずに、呼吸器内科の医師が『ああぁ、こりゃ癌だね』。その後の医師の説明、検査予定をどんどん詰め込む。Tさんも娘さんもあまりの展開に質問も思いつかないといった感じ。娘さんの顔が強張っていく。父Tさんも心配であるが、自分の仕事と家庭のやりくりをどうしたらよいかと思い悩む様子は、まるで半年前の私と妹を見ているようで切なかった。まだTさんは数ある検査のうちの半分しか済んでいない。さらに終了した検査は肺癌であるだけで無く、かなり悪い結果がすでに出ている。
 Sさんも歩けなくなったと外科に行き、その際に肺の異常陰影が見つかり、その日のうちに当院へ紹介となった。やはり画像が無いからとりあえずCT。またも、放射線科の読影結果を待たずに『癌だね』。しかもリンパ節転移が激しい。頭部CTと骨盤部CTも追加。脳転移こそ無かったが、下半身の骨転移が見つかり、歩行障害はこの影響と考えられた。Sさんはお子さんがご病気とのことで、奥さんは咄嗟にSさん亡き後のことが頭をよぎったらしい。Sさんの方がTさんよりも病状が重く、緩和ケアについて説明を始めた。医療麻薬の導入、骨転移に対しての放射線治療の可能性を調べるため、数日後に入院、未だ検査の途中である。

TさんもSさんも父と同じ歳で、医師の隣で診療補助をしながら、心が冷えていくのを感じた。まだうちの父は、手術も化学療法も出来る段階で見つかったが、この2人は、何かしらの治療が出来るかも分からない。今後、また診療補助に就く日がある。仕事とはいえ、父を重ねてしまい、憂鬱である。

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