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月に向かって歩く

昨日は中秋の名月でとても月が綺麗だったので、月を堪能しようということで夜、散歩に出た。

教育実習後から体調を崩し、丸4日間、家に引きこもっていたため、外気に慣れるのに少し時間がかかった。

もう9月も中旬、夜は涼しくなってきたね、なんて会話をここ最近した記憶があるが、そうでもない。なんとか汗をかかずに済む位で暑いと涼しいの間位の何とも言えない気温だ。

今回の散歩の目的は月を嗜むこと。月の方へと歩みを進めることにした。

今回の旅のお供は「山口一郎のオートナイトニッポン」。

ANNは先週MUSIC  WEEKですべての放送をアーティストが担当するという企画を行っていた。特にサカナクションが好きでも山口さんのファンという訳でもないのだが、なんとなく聞かないといけない気がした。

月に向かって歩く。

大通りに出ると、まだ車の往来が多く、ラジオの音が聞こえづらい。
静かな道に入りたいなぁ。

ん?

あんな所に鳥居がある。

これまで何度もこの道を通ったことはあるけれど、初めて見た気がするないもしかしてこれは本当に初めて見る鳥居なのかもしれない。
歴史を感じさせる外観だけど、これはゲームとかによくある、夜にだけ出現する鳥居で、無礼を働くと二度と出られなくなると噂のイベントスポットなのでは?

外に出るとこんなくだらない妄想が膨らみ、ゲーム三昧の自宅警備員の日々を忘れられる。

月に向かって歩く。

大きな建物に隠れると君の姿を見たくて早足になる。

静かな道に入った。

車の音を気にせずにラジオを楽しむ環境が整った。

どうやら彼は2年間うつ病を患っていたらしい。

人と話さない、発話しない日々が続いていたため、リハビリするべくYouTube配信を始めたとか。

そういえば自分もさっきスーパーで店員さんに
「ありがとうございます。」と伝えようと思ったら、想像以上に声が出なかったなあ。誰とも会話しないと自分の声が出るのかどうかも分からなくなってしまうのかもなぁ。


月に向かって歩く。

大学に入ってみる。

在籍している大学だから臆せず、ズカズカ入る。

ワイヤレスイヤホンを外して、その場の音に耳を傾ける。

体育館ではバドミントン部が練習している。

コントラバスのぎこちない音が聞こえる。

ダンスの練習をしているイケてる人たちが見える。

みんな自分の時間を楽しんでいるんだなと思えて、なぜかほっとした。


月に向かって歩く。

大学を抜け、堤防へと向かう。

街から離れたこの辺りは周囲に高い建物がないせいか、月が少し小さく見えた。

月を支えるように真下に位置する雲は薄い橙色に染まっている。

月の発光しているあの色は何色に分類されるのだろう。

白? 黄色? グレー? 月色…?

誰にも邪魔されずに月を楽しむことのできるこの道。

しまった、予定より遠くまで来てしまった。

久しぶりの散歩に心が躍り、つい、頑張りすぎてしまった。

これは帰るのが大変だ。

ここらで家路につかなければ。

元の場所へ戻ろうとルートを選択すると
次は月が左手に映る。

そうか、月に向かって歩き続けると家には帰れないのか。

そう思うと、なんだか惜しくて、
歩みを止め、目を合わせるように向かい合い、月を眺めてみた。

耳からは「アイデンティティ/サカナクション」

取りこぼした十代の 思い出とかを掘り起こして気づいた
これが純粋な自分らしさと気づいた
どうして時が経って時が経って
そう僕は気が付いたんだろう?
どうして
見えなかった自分らしさってやつが 解りはじめた


月を左手に添えながら、家路に辿ろうとなんとなく、歩く。

この道、この場所、あの子と歩いて、写真を撮ったな。

ここで四葉探してたら、「クローバーの研究しているの?」と深読みされたことあるなぁ。

久しぶりに歩くこの道の残り香が記憶を喚起する。

月に背を向けて歩く。

なんか、大丈夫な気がしてきた。

うん、たぶん 大丈夫。

月から得体のしれない活力を受け取ることが出来た気がする。


月は全ての人を無条件で照らす。

今日のように、強く綺麗に光る日もあれば、寝込んでいた私のように姿を露わにしない日もある。

それでも必ず毎月、彼女は美しく夜空に輝く。

日々の生活も似たようなものだと思う。

上手くいかない日は満月になるための準備期間だと思えば、心は幾ばくか軽くはならないだろうか。

時々訪れる楽しみを胸に、今日も一日。

また会える日まで、さようなら、満月。





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