【旧版】いっと いず えんかうんと

それは、とある日のプリマジの帰り道。

「あ、あの、サニさんですよね!?」

まっすぐ届いた声に振り向くと、そこには小柄な少女がいた。

「うん、そうだけど」
「わぁ、本物! おっきい! かわいい! かっこいい!」

ショートな金髪をさらさら揺らしながら、少女は私の周りをぐるぐるする。
ファンにしたって遠慮ってものがないぞこの子。

「ちょ、ちょっと、近い近い」
「あぁ、ごめんなさい! その、つい興奮してしまいまして」

夕焼けと日焼けでは説明できないくらい赤くなった頬や耳は、確かにそういうことなんだろうけど。

「改めて初めまして、いっとと申します! サニさんにあこがれてプリマジ始めました、よろしくお願いします!」
「あ、新人さんなんだ。よろしくね」

握手を求めて右手を差し出すと、少しためらう素振りをした後に両手で食いつかれた。
背はちっこいが力がある。なんかスポーツでもやってるんだろうか。

「へぇ~、プリマジ始めましたね~?」

もう聞きなれた、いつにも増して冷めた声がどこからか聞こえてきた。

「うぇっ、むむむらさきちゃん!?」

怯えるように、それでも素早いバックステップで離れるいっとと名乗った少女。
少し離れた柱の陰から現れたのは、想像通りの声の持ち主、むらさきである。

「むらさきとも知り合いなの?」
「知り合いと言いますか、クラスメイトと言いますか」
「親友よ!」

クラスメイトってことはいっとちゃんは小五か。こっちは年相応って感じがある。

「一方的に親友って思い込むのは、お姉さんよくないと思うなー」
「実際親友ですー一緒にご飯も食べたしお家にも遊びに行きましたー!」

親友のハードルちょっと低いような。
でもそれ言い出すと私も親友とかいない気がするから、うん。突っ込まないでおこう。

「いっと~? 私が誘ったときは断ったのにいい度胸ね。そこにいるのが私のライバルってことも知ってるでしょうに」
「それはそれ、これはこれ、ということで一つ」

私の後ろに隠れるいっとは、なんというか、そこまで悪びれてないような雰囲気。
というか私を物理的にはさんで言い合いしないで欲しい。

「まぁ、いっとがプリマジ始めてくれたのは単純に嬉しいけど」

ちょろい。

「そのきっかけがサニってのは納得いかない!」

面倒くさい。

「仕方ないじゃん、むらさきちゃんはなんか高嶺の花って感じだけど、サニさんは親しみやすそうだし、スレンダーでかっこいいし!」
「ん、あぁ、確かにいっとはサニの体系好きそうね」

ん、どういうこと?

「ですです。なのでサニさん、私を弟子にしてください!」
「弟子!? あたしはそんなの取るほどプリマジ詳しくないけど……」

あとむらさきの視線が痛い。

「プリマジのことなら私が散々教えてあげたじゃない」
「そ、それもそれってことで」
「元々見るのは好きだったんでしょ、サニなんかよりいっとの方が詳しいと思うわよ」
「そうなんだ、じゃあむしろ教えて欲しいかも」
「えっ、そんな恐れ多い……でもそれはそれで、ありかも……?」

「はぁ。サニ、その子と付き合うなら気をつけなさいな、真面目そうでちゃっかり者だから」
「い、いやですねー友達なのにそんなこと言うなんてーそんなことないのにーははははー」
「こんな感じで分かりやすいからいいんだけどね」
「とりあえず君らが仲いいのはよく分かったよ、うん」
「それが伝わったなら何よりよ」

友達になるのはいいけど、面倒事には関わりたくないというか。
痴話喧嘩は犬も食わないのにな~。心の中のにながそう鳴いた。

「それよりサニ! 私はね、宣戦布告に来たのよ!」
「あー、もしかしてフラッシュエレメンツの?」
「おぉ、今度あるってフェスですね! サニさんも出るんですか!?」
「もちろん。前の時からの約束だしね」
「覚えていたならいいわ、サニ。次は負けないから、覚悟してなさい」
「望むところだよ!」

アクアエレメンツの時は、私は本気だった。むらさきは、初めてのフェスで少し調子が合っていなかったようだった。
今度はどっちも本気での勝負。
これに関しては純粋に楽しみだ。

「二人が出るなら、私も出てみます!」
「あら、いい度胸ねいっと。ま、せいぜい頑張るといいわ」
「頑張りますよー!」

………………
…………
……

「で、フラッシュエレメンツフェスの優勝はいっとちゃんがかっさらっていったのにな~」
「「くーやーしーいー!!」」

場所はフェスの会場。私とむらさきは既に檀上から降り下から見上げている。
檀上にいるいっとは、背中でなんかよく分からないものが動いてるエレメンツコーデを着て笑顔を振りまいていた。

「ありがとうございましたー楽しかったですし、すっごく嬉しいでーす!」

息巻いて参加したむらさきもそうだろうけど、
あの後なんだかんだ先輩風吹かせながらちょっと指導とかしてた私も、こう、いたたまれない気持ちがやばい。

「いっとはああいう子なのよ、私以上に天才肌。あんま自覚ないのが怖いわ」
「うんうん、純粋さがにじむいい笑顔なのにな~」

いっと、また恐ろしい子がデビューしてしまった。
あのコーデ、ぽぽふ感があったから欲しかったのになぁ。
でも私が着てもあんま似合わなかったかもなぁ、といっとを見ているとちょっと思う。
こう言うとあれかもだけど、ちんちくりん感が、ね。
何はともあれ。

「また手ごわいライバルが増えた」

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