【旧版】20211130_ぷわぷわな始まり
「……」
「……」
ぷわぷわ。
ぷわぷわ。
「……あのさ、なんで着いてくるの?」
「ひぇぇ……お、おかまいなく……」
少し離れて着いてきていた影は、より離れて電柱に隠れこちらをのぞいた。
おかまいなく、と言われても。
「君さ、毎日学校終わりに着いてきてるけど、なんの用?」
「ひぇぇ、き、気付かれてたんですか……」
頭だけ出している小さな、なんだろう、布団に包まってるみたいな生き物は
ぷるぷると震えながら縮こまって電柱にしがみついている。
「いいいいつから……?」
「えっと、一週間くらい?」
「あ、そんなものなんですね」
なんでちょっと安心したみたいな顔してるのさ。
「もしかして、もっと前から?」
「あっと、その……以前、お会いした時のことは覚えて、ますか……?」
以前。というのは、まぁ。
草原で私が寝転んでたら、この不思議な生き物が話しかけてきたときのことだ。
何があった訳でもないけど、私が倒れてるんじゃないかと心配してくれたんだっけ。
あれは確か……
「10月の頭くらい、だったよね」
「はい……その、その後から……ですね……」
マジか。
「マジ、です」
あぁ、声に出てたようだ。
「もう11月も終わるよ、2ヶ月も何してるの?」
「えっとですね、その……ぼ、僕、プリマジに出たいんです」
「それで?」
「それで、ですね……僕たちの存在って、その。パートナー以外の人に、バレちゃいけない訳でして……」
その話は以前声をかけられた時に言われた。
だから、この子と出会ったことは他の誰にも喋っていない。
「だからその、ですね……僕の、パートナーになって、欲しいなぁと……思っていまして……」
それをさ、今日までずっと考えながら着いてきてるだけだったって?
「そ。悪いけど、あたしプリマジに興味ないから他当たってよ」
「そそそそんなぁ!」
「え~、プリマジって楽しいのにな~?」
うっ、聞き覚えのある甘ったるい声。
「えっと、赤築(しゃづき)さんだったっけ」
「も~サニちゃんったら~になちゃんって呼んでって言ったのにな~」
毛先がくるんとした短めの髪を揺らしながら、になにな笑う同世代の少女。
「で、そのになちゃんがなんでここに?」
「ぷにゃに言われて来てみたのにな~楽しそうに追いかけっこしてるから見てたのにな~」
ん、この子まで着いてきてたことには気付かなかった。
ぷにゃっていう変な音の何かは誰かの名前だろうか。
「それで、何か用ですか?」
「ふふふ~サニちゃんもプリマジ、したらいいのにな~って~」
勧誘が増えた。
布団に包まった方も明らかに嬉しそうな顔になってる。
「プリマジってライブで競い合うんでしょ、ライバル増やさないほうがいいんじゃない?」
「えぇ~いろんな子のライブ見るのが楽しいのにな~皆でやった方がいいって~」
「そ、そうですそうです」
会話にまで入ってきた。くっ、押され気味か。
「そ、れ、に~サニちゃんがプリマジの申込書持ってたのになは知ってるのにな~」
「なっ、なんでそれを!」
「えっ、本当ですか?」
「申込書取りに来た時に気になって着けてたのにな~そしたらいろいろあったのにな~」
確かに、10月にになやこの生き物と出会ったのはその時だけど。
この子もあの時から気にかけられていたとは。ストーカーが多すぎないか。
「本当は興味あるはずなのにな~そんなツンツンしてるのにな~?」
「べ、別にいいでしょ、どうせ完成してないんだし」
「そうなんですか?」
なんでこんな追い込まれてるみたいになってるんだろ。
やる気が、意味がないんだから、とっととそれを言ってこの話は終わりにしよう。
「そ。ほらこれ、叶えたい夢とか、今はないから。だから、プリマジはやらない」
そんな欄があるなんて思ってなかったから。
ただ、歌って踊って、楽しい時間を過ごせたらとか、そんな風に思ってただけで。
そういう世界じゃないんだろう、プリマジというのは。
私がこんな気持ちで飛び込んでいい場所では
「なんだ~それだけなら別のいいのにな~」
「え?」
「夢なんて具体的に書かなくていいのにな~ほらこれ、私の夢見てみるといいのにな~」
と、になが見せてきたのは少しくたびれた申込書。
赤築弐勿ってそう書くんだというのを見てから、夢の欄に目を映す。
『世界にもっと楽しいことをたくさん増やしたいのにな』
「な、なんか、漠然としてるね」
私と、ほとんどおんなじじゃないかな。
いや、これはこの子のキャラとしては通ってる気がしないでもないけど。
「ね、これでも私はプリマジやらせてもらえてるのにな~」
そんなもんなんだ。なんていうか。
2ヶ月も悩んでためらってさ。
あの子のこと、バカにできないじゃん。
ううん、諦めなかったあの子の方がずっと。
「えっと……どうでしょう、サニさん……プリマジ、やりませんか……?」
「はぁ。分かった、分かりました」
ずっと見るのが好きだったプリマジを、やってみたらどうなるのか。
勝手な思い込みじゃ何も分からない。
やってみなくちゃ分からない。
その機会と改めて向き合えるなら。
「やってみるよ、プリマジ。ほら、これでいいんでしょ」
夢の欄に殴り書きして、いつの間にか近くまで着ていた小さくて強い生き物に渡す。
「あぁ! ありがとうございます……!」
「ふふふふ~ライバル誕生に立ち会ったのにな~」
何でもないはずの日の帰路がどうしてこうなったかは知らないが。
「……ところでさ、君の名前まだ知らないんだけど?」
「あ、すすすみません……えっと、ぽぽふと言います」
「ポトフみたいでおいしそうな名前なのにな~」
「に、煮込まないでくださいー」
まぁなんていうか。
賑やかでいいじゃん。
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しめい しんかいさに
氏名 信開サニ
誕生日 3月3日
血液型 O
魔法が使えるとしたらどうしますか
空を飛んでみたい
自己紹介をしてください
歌が大好きです。聴くのも歌うのも。
どんなプリマジスタになりたいですか
歌を活かせるような
好きな食べ物
からあげ
あなたの夢をお書きください
楽しい時間をたくさん作りたい