20230513_はじめましてなのにな~_Yilenu

「んー、あの魔法は最高のパートナーを見つけて出会うものだから、相手がどこの誰か分かるものじゃないんだよね」
「言ったと思うけど、相手の場所へ飛ぶ予定だったからね。僕も誰もいない場所に飛ばされてずっと大変だったよほんと」
「え、ごはん? 優しい人にもらったり……ほら、マナマナでいろいろ、ね?」

ぴかり△様から得られた情報は、だいたいこんなところでしょうか。あまり詳しく聞くとまずい気がしますね。
そんな状況でしたし、シャラナ様もぴかり△様とのパートナー契約をされましたので、二人まとめて薗頭家で面倒を見ることになりました。
という話が二週間前。
あの日からシャラナ様はさらに熱心にプリマジの特訓に取り組んでおり、ぴかり△様もそれに付きっ切りでサポートされていました。
実際にプリマジへ赴いてステージをすることも増え、知名度も人気もメキメキと上昇中です。くれない様は嬉しそうなさみしいような顔をされていますが。

さて本日はといえば。
土曜日ということで、午後から皆でプリマジをしに向かっています。くれない様はうきうきが隠せないご様子ですが、シャラナ様は最近よく見る真面目そうな、どこか疲れていそうな表情でややリアクションが薄いご様子。
ぴかり△様にとってはこれが普段の、という認識になってしまっているのでしょうか。それはなんというか、もったいないと思います。
そんな感じにやや口数も少なくプリズムストーンまでたどり着きました。

「あ、やっと来たのにな~」
「きっと朝からくるのにな、などと言っていたのはどの口じゃったか?」
「え~覚えてないのにな~」

そんな我々を出迎えたのは、見覚えのある笑顔としかめ面でした。

「になちゃん、お久しぶり」
「ご無沙汰しております、にな様にぷにゃ様」
「お久しぶりなのにな~」
「うむ」
「シャラナちゃんははじめましてなのにな~」
「は、はい、初めまして。えっと……?」

おどおどとぺこりとしてからこちらを振り返るシャラナ様。
うむ、ここは私がご説明を

「シャラナ。こちらはプリマジスタのになさんと、そのパートナーのぷにゃさんです。去年のグランドフェスティバルの優勝者の一人。今はぷにゃさんと一緒に日本各所のプリズムストーンを巡って、スタジオのシステムを調整しながらステージで盛り上げてる。ですよね?」

……しようとしたのですが、ぴかり△様にすべて取られてしまいました。
説明を聞き終え、にな様は笑顔でうなずいて続けます。

「ご丁寧にありがとなのにな~その通り! なのにな~」
「ついでにそちらの自己紹介もしてくれるとありがたいのじゃが」
「おっとこれは失礼。僕はぴかり△、こちらにいるシャラナの最高のパートナーであり、シャラナを最高のプリマジスタにするため頑張っています」

元気いっぱいに自己紹介をされるぴかり△様。シャラナ様も改めてぺこりときれいに頭を下げてご挨拶。それを見てくれない様は小さく拍手。

「ご丁寧にありがとう。早速じゃが、二人のステージを見せてもらいたいのだがよいかな?」
「えぇ、そのつもりで参りました。今日も最高のステージに向けて頑張りますよ」
「もー、ぷにゃ! そんな態度じゃダメなのにな~」

促されるまま早々にステージに向かおうとしたぴかり△様でしたが、にな様は両手を広げて通せんぼです。

「……えっと、まだ何か用事が?」
「用事というか。ねぇシャラナちゃん、今日は一緒にステージに立ってみないのにな?」
「えっ、一緒にステージに?」

ぱっと晴れるような顔になるシャラナ様。確かシャラナ様が誰かと一緒にステージをしたのは、最初の頃のむらさき様くれない様とのだけでしたか。

「そう、私とシャラナちゃんと、ぷにゃも一緒におそろいのコーデで! ステージしてみたいのにな~」
「おい待てにな、わしも一緒というのは聞いてな」
「楽しそう、やってみたい!」

興味津々なシャラナ様の笑顔は、ここ最近では久しぶりのように感じました。
同じくらいあまり見ない複雑そうなくれない様のお顔は、きっと一緒にステージに立ちたい気持ちとそれを見たい気持ちとが混ざりあった結果でしょう。流れ的に後者になりそうですので、選択肢はないのですが。

「いいのかいシャラナ? 今日は、昨日の特訓のせいかを確認するつもりで……」
「今日を逃したら、になはまたどっかに行っちゃうかもしれないのにな~?」
「えー、やだ! 一緒にステージしてみたい!」
「じゃあ決まりなのにな~こっちこっち~」

にな様はシャラナ様の手を取って控室へと向かわれました。
腕組をして一瞬目をつむったぴかり△様は、すぐに笑顔でそのあとへ続きました。

「になちゃん達、お仕事終わって帰ってきたわけじゃないんだ?」
「そうじゃな、ちと用事があって来ただけじゃ。まだ回る場所がいくつか残っておる」
「そのご用事とは?」
「……ステージのあとに、時間があれば話そう。なにせわしも立つことになったようでな」

そう言ってぷにゃ様も後を追いました。残された私たちは客席へと向かうことに。
それにしても、あの褐色の幼子姿でご老人口調のぷにゃ様は何度見ても頭が不思議な気分になります。世間ではそういう、属性? もあるようですが、まだまだ勉強の及ばぬ分野にございます。

どっちがお気に入り
あれもこれも悩んじゃう
どっちがいいな あっちもいいな
こっちもいいよ あっちもいいよ
どっちを選ぶの どっちが欲しいの
ひとつ選んでコーデを決めたら
あなたはミラクル
プリマジスタ

アーケードゲーム「ワッチャプリマジ」より「どっちなどっちもどっちでミラクルNo.1」(ゲームで流れていたものからの書き起こし)

わしまでステージをするつもりはなかったのだが。
まぁ、おかげでシャラナのマジがよく伝わってくる。

先週ここのプリズムストーンで感じた異質なワッチャと異常な規模のマジ。
古の秘術とでも呼べそうな代物のようであったが、それで何がなされたのかがよく分からない。
影響の調査にと来てみても、マジの痕跡は跡形もなかった。
聞き込みで分かったことは、あの日のステージで生じたという強い光。それが発生したのが、このシャラナという最近現れたプリマジスタによるステージだったという。くれないが保護している迷子というのもすぐに分かった。

何を企んでいる、と思っていたが。この少女にそういうよどんだ気配は感じない。よほどいっととぺったのほうが黒い気配を感じる。あの二人もそういう悪役ムーブにハマっただけな気はするが。

こうなると、一刻も早く他の用事を終えてこちらに戻り、じっくり監視するしかないかのぅ。

………………
…………
……

「ぷにゃもそんなしかめっ面しないで笑うのにな~」

満面の笑みでステージに立つ少女になは、そう言ってパートナーぷにゃのほっぺをぷにゃっと伸ばした。よく伸びるほっぺ。もちもち。おなか空いた。
予定はずれてしまったけど、楽しそうにステージをしていたシャラナはいつもよりパフォーマンスも向上していた。実にいい笑顔。お揃いというのも良い。ぷにゃは半分くらい歌うのサボってた。
シャラナは順調にその実力を高めている。次のグランドフェスティバルがいつかはまだ分からないが。それまでに。必ず。夢のために。

いいなと思ったら応援しよう!