20220327_空高く
三月も終わりに近づいた、まだまだ寒空が広がる今日は。
アクアエレメンツフェスの開催日だ。
そして既に多くのステージが終わり、もうすぐ私の番という状況である。
になの出番は最初の方に済んでいたため、今は控え室でになになしていた。
「む~、今日のサニちゃんはいい感じなのにな~」
「じゃあふくれっ面にならないでよ」
「下手に褒めると調子に乗るところがあるのにな、これくらいの当たりでいいのにな~」
ほんと、いい意味でいい性格してる。
だが今はこういう態度で来られたほうが落ち着くというのもある。
なんとも頼もしい友人だ。
親しみを込めてふくれっ面をむにむにし笑顔にすると、にな~と鳴いた。
「じゃ、そろそろ出番だから行かなくちゃ」
「む~、頑張るのにな~」
「あとさ、ぷにゃにありがとっていっといて」
「にな~?」
ステージに上がるエレベーター、でいいのかな。
全ての準備を終え、あとはこれに乗ればステージに上げられる。
「サニ、緊張してる……?」
「ううん、大丈夫」
心臓はうるさい。
それでも、気分はとてもいい。
少しの恐怖と、それ以上の楽しみな気持ち。
早く、私たちの歌を、ダンスを、最高のステージを見てもらいたい。
「ふふ……すごく、いいワッチャを感じる……」
「それじゃ、イリュージョンはお願いねぽぽふ」
「もちろん」
ぽぽふはドローンに乗って先に行く。
私もエレベーターへと歩みを進める。
心の準備を感じ取ったように、少ししてからゆっくりと、徐々にスピードを上げながら、上へ上へ。
天井の光が大きくなっていく。
会場のざわめきが聞こえてくる。
カウントダウン。
さぁいよいよ。私たちのステージが始まる。
「わっちゃー!!」
(※作詞できてないので仮となります)
………………
…………
……
「ねぇぷにゃ」
「なんじゃ?」
「サニちゃんがぷにゃにありがとうって言ってたんだけど、これのこと?」
「まぁ、そうじゃろうな」
「なんで何も教えてくれなかったのにな~?」
「そりゃあ、こういうのはサプライズで来るのが一番効くじゃろ」
「む~、ずるいなぁ」
「になには前にやったじゃないか」
「曲はいくらあってもいいものなのにな~」
「ワシもこれが専門ではない故な、そうそうたくさんは作れぬよ」
「サニちゃんから頼まれたのにな?」
「いいや、ワシが自分から」
「……何か企んでるのにな?」
「企む、とは違うな。まぁ、そういう気分になっただけじゃよ」
サニに、というよりは。ぽぽふに、だろうか。
これで謝罪になるとは思わぬが。
趣味も兼ねたわけであるし。
「それより、感想は?」
「後でサニちゃんに言うのにな~」
「おいおい、作ったのはワシじゃぞ」
「でもこの気持ちはサニちゃんにもらったのにな~」
澄み渡る音。
水底から空高く、どこまでも届くような声。
しなやかでダイナミックなダンス。
一曲のパフォーマンス、というよりは、劇の一幕のような。
会場を飲み込むステージが、そこにあった。
………………
…………
……
「ね、ねぇむらさき、結果発表みていかないの??」
「見る必要ない」
足早に控え室から出てきた長いポニーテールが揺れている。
その後ろ、ポニーテールを追うようにひらひらと揺れて飛ぶ光がある。
「あんなの、優勝に決まってんじゃん」
油断した訳じゃない。
全力で歌った。踊った。気持ちのいいステージができた。
でも、あれはそれ以上。
くそっ、勝てると思ってたのに。
こんなところで、止まってらんないのに。
とにかく。
今日はもう閉店、称賛だっておくってやるもんか。
「ほらぱたひら、そろそろ外だからこっち」
「は~い」
むらさきが頭に指をやると、光はちょっとだけ輝きを増してからその場所へ消えた。
光が消えていくと、そこには小さな髪留めが残った。
「次は私が勝つ……!」
そのために、今日はとっとと帰っておいしいもの食べて寝る!
そして次のフェスに備える!
……の前に、まずはあさぎに労ってもらおう。
険しかった顔をはたいて活を入れ、きりっとした笑顔に戻してから
少女は会場を後にした。