20220215_次の日の楽しみ
「あ、サニちゃんなのにな~!」
プリマジのステージを終えたある夕方。
会場から出たところで、聞き慣れた甘い声が私の名前を呼んだ。
「あ、にな。久しぶりー」
「久しぶり~はいこれ、あげるのにな~」
「なにこれ?」
「チョコなのにな~
本当は昨日あげたかったのサニちゃんいなかったのにな~」
渡されたのはかわいくラッピングされた小さな箱。
今日は2月15日。一日遅れだけど、まぁそういうことだ。
「バレンタインはステージ倍率高いって聞いたから避けたんだよね」
「そうなのにな~になもステージ自体はできなかったのにな~」
「そうなんだ」
「で~で~、になは何か貰えないのかなと待ってるのにな~」
「あ、ごめん。何も持ってきてないや」
分かりやすくガーンとした表情になるにな。
レアな表情だ。
「よよよ、わざわざサニちゃんのためだけに今日持ってきたのになぁ」
「ごめんごめん。今から買ってこようか?」
「んー、そこまでさせるのも。
あ、でもサニちゃんとショッピングも楽しそうなのにな~」
「すぐそこの売店行くだけだよ」
「それでもいいのにな~」
という訳で、表情がいつもの感じに戻ったになを連れてプリズムストーンに併設された販売店のエリアへ。
「チョコの専門店何てあったのにな?」
「私も初めてだけどね。このフォンダンショコラでいいかな?」
「んー、こっちのお芋のやつがいいのにな~」
「じゃあそれにしよっか」
二つ買ってコーヒーももらって、外に並んだテーブルに座る。
まだギリギリ陽が出てる時間とはいえちょっと寒いかな……
「どうせだしもらったのも二人で食べよっか」
「あ、それはお家で温めて食べるといいのにな~」
「あれ、これもしかしてフォンダンなショコラだった?」
「えへへへ~」
ちょっと苦笑いが混じってるように感じる笑顔を浮かべるにな。
かろうじてネタ被りは避けられた、といったところか。
気を取り直して、コーヒーをちょろっと飲んでから、買ったお芋のショコラを食べ始める。
「ん、お芋とショコラも合うのにな~」
それからしばらく談笑しながら、私たちは小さな甘味をつついていく。
「サニちゃんっていつもどうやってここまで来てるのにな?」
「私はバスだよ」
「おぉ、お金持ちなのにな~」
「違う違う、定期内だからそれでね」
「なるほどなのにな~じゃあお家結構遠いのにな?」
「ここからは遠いね。になはこの辺り?」
「ううん、になも定期のバスでここまで来てるのにな~」
「同じかい」
「えへへ~お家は真士野町の辺りなのにな~」
「……あれ、になって中学生だよね?」
「うん、中一なのにな」
「どこ中?」
「ノチュー、あぁ真士野中なのにな」
「私もね、真士野中」
「にな~?」
鏡合わせよろしく首を傾ける私たち。
「ちなみに一年三組ね」
「になは二組、お隣なのにな~あはは~」
なんかお互い笑い方が乾いてないかな。
「えぇ、サニちゃん学校で見かけた記憶ないのにな~」
「まぁ集会とか今ないからねぇ。あんま目立つ方じゃないし」
「その身長と髪で目立たないは無理があるのにな」
「それはそうなんだけどさ……
になこそ、学校でこんなになにな笑う人見たことないよ」
「が、学校ではまぁ、大人しくしてるのにな」
「ふーん、そうなんだー」
になにな笑ってないになの顔、すごく見てみたいのになー。
「明日の朝二組覗きに行くね」
「になは呼ばれても答えないのになー」
目を合わせないぞこいつ。
「そんなに学校で会いたくないの?」
「んん、そういう訳では、ないけどなのになぁ」
「キャラめっちゃ違うとか?」
「そんな器用じゃないのにな~」
「じゃあなんで?」
「うぅ、なんか今更恥ずかしいというか……
プリマジやってること、周りはあんま知らないというか……」
「私もそうだし、別にそれでバレたりしないでしょ」
知ってる子にはとっくにこの髪でバレてるし。
になは結構有名だからプリマジ知ってる子は知ってるだろう。
「んー、それもそうなのにな……?」
「はい決定。それじゃ寒くなってきたし、今日は帰ろっか」
「ん、そうするのにな~」
そうしてゴミは片付けて、バス停に向かって。
案の定方向は同じだから途中まで一緒にいることになりそうだ。
「そういえば、ぽぽふくんは一緒じゃないのにな?」
「あぁ、ぽぽふはここ」
そう言いながら上着のフードを指さす。
になが覗こうとするがやや身の丈が足りなさそうだ。
「さ、サニちゃん、ちょっとかがんでほしいのにな~」
「ちょっとジャンプすればいいと思うのになー」
「もう、いじわるなのにな~」
ややふくれっつら。今日は珍しいになの顔がよく見られる日だ。
と、そうこうしている内にバスが来た。
人は、全然乗ってなさそう。中途半端な時間だしね。
「になこそ、ぷにゃは一緒じゃないの?」
「ぷにゃはドローンで先に帰ってると思うのにな」
「あのドローンって持ち出していいの……?」
「ぷにゃのは自前だから大丈夫なのにな~」
「そうなんだ」
その後も他愛もない話をしながらバスに揺られて。
先に降りるになを見送った。
ふふふ、明日が楽しみなのになー。