第6話 「言葉を盗られた」
柵に右足をかけたんだ。
セーヌ川の向こう側も見てみたい一心だった。
こっちは、お洒落なカフェが並んで、人々は陽気に過ごしているんだけど、全然その景色に魅力を感じなかったんだ。
なんて言うか、知ってる世界って感じで。
でも、向こう側は、多分何も知らない世界が広がっていて、僕はそこに行くべきなんだと強く思った。
柵をもうすぐ乗り越えようとした時、向こう岸から、ひとりの老婆がこっちを見てた。
とにかく、お洒落な装いでね、その人の周りには猫が何匹もいて戯れあってた。
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