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第10話「赤いワンピースの人」

もしかしたら、まだ旅をしていのかも知れないなと、窓に薄っすら入る朝陽をぼんやり見ながら考えてた。

このあまりにも白い壁や、ベッドのシーツ。

病院や喫茶店。まるでひとつの街が用意されてある豪華客船に乗っているのかなとか。

とにかくグルグルと、色んな可能性を頭の中で何度も予想してたんだ。

ふと、足を見ると、かなり足が細くなっている事に気づいたんだ。このままでは、どこにも行けないし、何かあっても逃げられないと思って焦ってね。

思い切って、立ってみる事にしたんだ。

足には力が全然入らなくて、床に何度も転んだんだ。何回かチャレンジしたけど、そのうち力尽きてしまった。

ベッドにもたれて座り込んでいると、ノックの音が鳴って、喫茶店に連れて行ってくれた看護師の女性が、部屋に入って来た。

僕の姿を見るなり、慌てて僕の身体を抱えてくれて、車椅子に乗せてからベッドの上に戻してくれたんだ。見事な手際の良さだった。

看護師の女性は、すぐにベッドの上に簡易テーブルを用意して、その上にパンと牛乳パックとゼリーを並べたんだ。

パンにはバターを塗って、牛乳パックにはストローを挿してくれた。


歩きたかったの?

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