裏庭の死んだ人 4



 浮浪者(?)が僕の前で奇妙な動きをする。それを真似て僕も奇妙な動きをした。体のどこも伸びている感じがしない、とても気分の悪い体操だ。しばらくそうしているうちに浮浪者(?)がその奇妙な動きをやめた。
「終わりですか?」
そう聞くと
「終わりじゃない。」
と怒りっぽく浮浪者(?)は答えた。
「私は毎日この体操を少しずつ進めている。今日のも私の続けている長い体操の一部にすぎない。」
そう浮浪者(?)が言った。
「この体操はいつ終わるんですか?」
恐る恐る僕は聞いてみた。
すると浮浪者(?)は
「終わりなどない。裏庭の可哀想な男が、可哀想でなくなるまでこの体操は続けなければならない。」
と答えた。終わりあるじゃん、と思ったけど何となく浮浪者(?)の機嫌が悪そうなので声に出さないでおいた。
「そろそろ私は講義に出かけなければならない。それじゃ。」
こう言うと浮浪者(?)はおもむろに立ち上がり歩き出した。
「待って。」
そんな彼を僕が呼び止めた。そして
「明日も僕はここに来た方がいいですか?」
と聞くと
「その方が良い。」
と彼は答えた。そして小走りでその場を立ち去る。
「変わった人よね。」
 彼がいなくなると僕と同じように体操に来ていた女の子が僕にこう言った。なんと彼が昨日言っていたことは嘘ではなかったのだ。今日時間通りに浮浪者(?)のいる所に行くと本当に女の子がいたのだ。
「いつもはいないよね?」
女の子に聞くと、彼女は
「うん。昨日教授に研修に参加するように頼まれたの。それで行ってみたらこんなことに。」
と答えた。あの浮浪者(?)が本当に教授だったことに少し驚いた。でもそのおかげで同じ大学の友達が新たに出来たことに少し感謝もした。結局僕はその日一晩中そのコと過ごし、夜が明ける頃にはそのコのことがすっかり好きになってしまっていた。A子の顔が脳裏によぎったがすぐにぼやけた。たまたまA子だけが相手してくれたから僕は彼女が大好きだっただけで、結局のところ誰でもよかったんだなと少し笑った。笑う僕の口をそのコがふさいだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?