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映画『コンカッション』から学ぶ脳のスポーツセーフティについて

皆さんは『コンカッション』(米2015年、ピーター・ランデズマン監督)という映画を観たことはありますか? コンカッションは日本語で「脳震盪」のこと。スポーツ関連の映画は結構ありますが、これは実話に基づく話で、スポーツセーフティの観点からお薦めです。

あらすじ

ウィル・スミス演じるナイジェリア出身の病理医ベネット・オマル博士が、亡くなった元アメリカンフットボール選手のマイク・ウェブスターを検死。50歳なのにアルツハイマー型認知症のような症状がみられたことから、アメフトとの因果関係を調べます。

他にも同じような症例が見つかり、死因は長年にわたる脳への激しい衝撃、つまりアメフトが原因のCTE(慢性外傷性脳症=進行性の神経変性疾患)だという論文を2005年に発表します。しかし、事実を隠蔽したい巨大組織のNFL(全米フットボールリーグ)がオマル博士の前に立ちはだかる、という内容です。

ウィル・スミス主演 映画『コンカッション』予告編

キツツキが教えてくれたこと

興味深かったのは、オマル博士が人間の脳との比較として取り上げた例がキツツキだったことです。平均的なキツツキは1日12,000回、生涯でおよそ8,000万回も嘴(くちばし)で木をつつきます。それでも脳振盪を起こさないのはなぜでしょう?

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ひとつは、キツツキの長い舌(実際には舌骨)が嘴から頭蓋骨までをぐるりと囲み、脳を保護するクッションの役割を果たしているから。もうひとつは脳と頭蓋骨の隙間に、人間にあるような液体がないため、揺れ動く遊び部分がなく安定しているため。また、頭蓋骨はスポンジ状に小さな穴が空いているため衝撃をより吸収しやすいそうです。

人間の脳はキツツキのようにはデザインされていません。もし長期間に渡って軽い衝撃を受け続けた場合の影響は? 考えただけでも怖いですよね。

脳を守る取り組み

この映画で衝撃的だったのは、CTEかどうかは、死後に脳を解剖しないと分からないという点。アメフト選手のCTE発見から今年でまだ16年しか経っていませんが、医科学の研究がさらに進み、存命中に早期診断が可能になって欲しいものです。

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さらに言えば、スポーツをしつつもCTEにならないのがベスト。そのためには、脳を守るための器具の改良、ルールやプロトコルの改善、関係者全員の認識向上と医科学的な調査研究などが重要です。

実際、NFLは試合中の脳震盪を防ぐための新ルールを適用しました。ヘルメットの改良なども進められています。また、Q30イノベーション(米国コネチカット州)という企業が、脳を衝撃から保護する外付けのデバイス「Q-Collar」を販売(2021年2月にFDA認可取得)するなど、各方面で脳振盪予防に向けた研究開発が行われています。

安全にスポーツをするには?

特にアメフトに限らず、アイスホッケーやラグビー、サッカーなどのコンタクトスポーツを子供がプレーする場合には、指導者や保護者など周りの大人が細心の注意を払ってあげる必要があるでしょう。

相手と接触したり衝撃を受けた場合のプロトコルは整っていますか? 万が一事故が発生した場合はどう対処しますか? まずは大人がリスクに対する知識を身に付けておく必要があります。

"There is no safe blow to the head, especially for a child. " - Bennet Omal
「頭部への衝撃は危険です。特に子供にとっては。」- ベネット・オマル

一人の真面目な医師の発見により、多くの人がスポーツに伴う脳振盪について認識するようになったことは、非常に大きな意味を持ちます。プレーする者、観戦者、主催者の全員がリスクを知り、安全な環境でスポーツを楽しみたいものです。

皆さんも『コンカッション』、ぜひ観て下さい!

追伸:
すでに報道されている通り、元選手など数千人が、健康被害が生じたとしてNFLに対し損害賠償を求める集団訴訟を起こし、2015年に総額10億ドル(約1200億円)で和解が成立しました。ただし、異議申立人による係属中の控訴の解決や、和解基金の設立などの問題はまだ解決していないようです。

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