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Ubieに学ぶスタートアップの組織/カルチャーづくり 虎の巻

毎回、注目の急成長スタートアップをお招きし、事業成長の鍵やチャレンジングな取り組みを掘り下げていくCxO night。

去る2022年4月5日には、「Ubieに学ぶスタートアップの組織/カルチャーづくり 虎の巻」と題したイベントを開催しました。

Ubieの事業開発組織であるUbie Discoveryでの挑戦的な組織づくりや採用戦略、カルチャーの浸透について、同社の共同代表取締役 エンジニアである久保 恒太さんにお聞きするとともに、スタートアップ当事者のSOUCO 代表取締役 中原 久根人さん、日本マイクロソフト 原 浩二さん、Sun Asteriskからは取締役 梅田 琢也が登壇。

ディスカッション形式でUbieの組織・カルチャーづくりについて深ぼっていきました。

登壇者
久保 恒太(Ubie株式会社 代表取締役 エンジニア)
中原 久根人(株式会社souco 代表取締役)
原 浩二(日本マイクロソフト株式会社 コーポレートソリューション統括本部 クラウド事業開発本部長)
梅田 琢也(株式会社Sun Asterisk 取締役)

モデレーター
野本 遼平(株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパル)

各登壇者の自己紹介

Ubieの代表取締役である久保さんは、ソフトウェアエンジニアとしてのバックグラウンドを持っており、エムスリー時代にはマーケティングエンジニアという珍しい職種を経験。

2017年には医師の阿部 吉倫さんとUbieを共同設立し、今に至ります。
創業当初から「組織づくりはこうしたい!」という思いを胸に、いろんな苦悩の連続を乗りきりながら、今の盤石な組織を築いてきたそうです。

soucoの代表取締役を務める中原さんは、不動産領域のテクノロジー企業で事業開発やDXに従事。
2016年にアナログな物流業界を変えるべく、soucoを創業したそうです。

組織の拡大フェーズに差し掛かり、これからの強い組織を作る上で、今まさに考えている最中だという中原さんは、物量領域で新しいビジネスモデルを確立するために日々チャレンジを続けています。

モデレーターの野本さんは、KDDIグループで事業開発やM&Aを経験後、2019年から現在のグロービス・キャピタル・パートナーズへ籍を置き、VC業務に携わっています。

「大企業という観点から、スタートアップの組織やカルチャーづくりについて議論を深めたい」と言う日本マイクロソフトの原さんは、2016年からスタートアップ領域のビジネス立ち上げを推進。

スタートアップ支援プログラム「Microsoft for startups」では、さまざまなスタートアップの支援を手がけています。

Sun Asterisk 取締役の梅田は、事業推進全般を見る役員として組織づくりに携わっています。

そのなかである種、ずっと人材採用やリテンションを続けていかなければならない「労働集約型の最たるビジネス」を行っていることからも、今回のセッションで「学びになるヒントを得られるようにしたい」と述べました。

営業的なマインドを持って採用に取り組むUbie

ここからトークセッションの本編に入ります。

まず冒頭では、モデレーターの野本さんが「Ubieは採用が上手という印象を持っていて、何か特殊な仕込みをしているのか」という問いを久保さんへ投げかけました。

対して久保さんは「営業的なマインドを持って採用に取り組んでいる」とし、次のように説明します。

「Ubieはヘルスケアスタートアップなので、テックに対する投資も積極的に行っているわけですが、やはり採用に関してはリード獲得から実際に内定へ至るまでの各過程でのナレッジを社内共有しています。候補者へアトラクトするためにカジュアル面談の仕方やアプローチの方法を考え、成功事例をシェアすることで、精度を高めていっています。また、うちの場合リファラル採用も結構多くて。採用に対しては徹底的にこだわり、要素を洗い出していくことを意識しています」

こうした一連の採用における仕組み化は、いつ頃から取り組まれていたのでしょうか。

「メンバーが10人〜15人頃のときから、リファラルのアクションは始めていた」と久保さんは答えます。

「最初は地道にSNSでのアプローチを繰り返したり、アトラクトを磨いたりしていましたね。自社のどういうストーリーを設計し、候補者の魅力付けをしていくのか。あるいは飲み会を設定するにしても、どんなクロージングをすれば決まりやすいかなど、いわば営業でやるような目標設計をやってきたのはあると思います。また、ブレイクスルーを感じたのは2020年末。

エンジニア界隈では恒例のアドベントカレンダーに取り組んだ際、普通は12月25日までブログを書くわけですが、Ubieはそこから3〜4ヶ月くらい誰かしら毎日ブログを書き続けたんです。何も考えないでとにかくアウトプットを出すことを継続した結果、その後の採用にうまくつながったので、今振り返ってみてもいいアクションだったと考えています」

現在は組織全体で200名規模まで成長したUbie。

初期の頃はエージェントを使ってもあまりワークしなかったことから、採用はリファラルが多くを占めていたそうです。

社員が増えてくるにつれ、会社のブランドや認知度が高まってくるため、直近ではエージェントやスカウト経由での採用が7割ほどに上るとのこと。

soucoの場合も「初期のメンバーは元前職のメンバー中心に入ってきてくれたと思います。特にエンジニアは『あの人が働いているなら、私も入りたい』と言ってくれて、soucoに参画してもらっていましたね」と中原さんは話します。

採用フェーズにおける「目利き」の勘所とは?

エージェントを使うにしても、リファラルにしても、採用をするにあたっては「目利き」が重要になってきます。

スキルなのか、カルチャーフィットなのか、人柄なのか……。
さまざまな観点がありますが、登壇者はどのような見解を持っているのでしょうか。

Ubieは、採用のルールとして「今いるメンバー以上のスキルを持つ人材をとる」というのを掲げているそうです。

「既存のメンバーよりもスキルが高い人と仕事をすれば切磋琢磨できるし、楽しみながら業務できるわけです。こういった観点からリファラルの候補者を洗い出したりしています。カルチャーフィットも重要視していて、0→10をつくる『ディスカバリー』の組織と、10→100をつくる『スケール』の組織ごとに文化やカラーが違うのはUbie特有なんです。前者はロジックや結果重視の傾向があり、後者は人間力や誠実さが求められる組織になっていますね」

現在、1500名ほどの規模となっているSun Asterisk。
リファラル採用は今でも社内文化として強く、またベトナムオフィスは新卒中心で、若手メンバーが組織をつくってきました。

一方、M&Aした会社の組織についてはナチュラルな状態で採用を行っています。

採用時にいくつか設けている指標のなかで、「5パーソナリティ」はSun Asteriskならではの特徴になっていると梅田は話します。

「会社って、社員一人ひとりが集って構成される法人格なわけです。その法人格全体を考えたときに、人それぞれが必ずしも5つのパーソナリティを持っている必要はない。バリューとは違い、法人格を人間として捉えたときのパーソナリティを独自に定めており、それに当てはめて採用時に参考にしているんです」

Ubie Discoveryも「Ubieness(ユビネス)」という6つの人材要件を定めているとのこと。

1.全社への当事者意識
2.ゼロベース思考
3.率直かつ建設的なコミュニケーション力
4.論理性
5.突破力
6.ラーニングアニマル

これらを今在籍している社員と見比べつつ、たとえ候補者のスキルセットがどんなに優秀でも、Ubienessを体現できる見込みがなければ採用しないというのを一貫しているそうです。

「面接時に会話のキャッチボールをしていけば、大体は掴めます。もちろん100%は無理なので、業務委託として採用したのちに、カルチャーフィットせずに辞めていかれるケースもあります。逆にそれは、社内でも『パクチー採用』と呼んでいて。要は会社に合う人は合うし、そうじゃない人は辞めていく。いざ入ってみたら全然イメージと違ったなんてことは往々にしてあるわけで、そういう意味ではUbienessを定めていることで、フィルタリングがうまくできていると思っています」

マイクロソフトは社長が変わったタイミングで、ガラッと採用に関しては変化したと、原さんは語ります。

「今のサティア・ナデラがCEOになった頃から、全社的なカルチャーは大きく変わりました。5つのカルチュラル・アティチュードを定め、CEOが事あるごとにスピーチで『One Microsoft』や『Growth Mindset』などのワードを使うんですね。こうした計らいから、社内でも浸透していっていると思っています。昔はKPI重視でやっていたのが、今では『ラーニング』と『インサイト』を大事にしており、うまくいったことはもちろん、なぜうまくいかなかったのかを、しっかりと言える環境を作ってくれているのは、私が働いていて感じますね」

原さんが在籍するスタートアップ支援チームは、メンバーが全員が新卒という組織で構成
されているとのこと。

「手前味噌ながら、新卒として入ってくるメンバーは優秀な人が多くて。でも逆にこれがブランディングになっているというか、『新卒でMicrosoft for startupsのチームへ行きたい』と思ってもらえるようなアトラクト要素を醸成できればいいのではと考えています」

非連続な成長を続けるために必要なスタートアップの組織設計

スタートアップにとって、フェーズに伴う組織設計は非常に重要な要素となっています。
Ubieは何年後のTo-Be像から逆算し、組織設計を行っているのでしょうか。

久保さんは「Ubieに関しては、採用人数の計画のスケジュールを引きつつ、ショートしてしまうことも多々あるので、そこはうまく調整を加えながらやっています。とはいえ、最終的には医療領域におけるビックテックのような存在を目指しているので、大きな目標に向かって採用活動に励んでいるような状況です」と語りました。

また、事業の成長とともに組織をセパレートしていくことも積極的に取り組んでいくとのこと。

▼Ubie カルチャーガイドより(リンク

「今は3つの組織ですが、今後も密度の高い組織を生み出していきたいですね。既存のディスカバリーチームがどんどん新規ビジネスを見出していけば、そのぶん組織も増えてくるので、そのぶん組織設計の幅が広がってくるわけです」

しかし、事業をを成長させていく上で、ある種ビジネスサイドに頼っている場合には戦略が流動的になりがちです。

首尾一貫して戦略を立てることが難しいなか、Ubie Discoveryではホラクラシーを採用しているそうです。

「ホラクラシー型のティール組織は基本的に意思決定の正解がない。そうなったとき、上司へ承認をとるよりも、とにかくまずはやってみて再現性があるかどうか検証してみることが重要になります。役職ではなくロールで動いており、いわば流動的に動いている組織なので、次の月には全く違うことをやっていることもある。ホラクラシーを導入したのは、マネージャーを置いた組織よりも、現場で動いているメンバーが裁量持って意思決定できる方が健全だと思い、今の組織スタイルに行き着きました」

一方、ホラクラシーが合わない組織もあり、それがUbieで言えばスケールを担う組織(Ubie Customer Science)だと言います。

「医療機関向けのセールスやカスタマーサクセスなどを担うUbie Customer Scienceは追うべきメトリクスが明確に決まっています。SaaS系のビジネスにおいては、メトリクスを上げていくのが求められるわけで、評価や意思決定がしやすい組織の方がマッチすると言えるでしょう」

梅田は「0→1を生み出す組織は必ずしもROIとかメトリクスで測れないのではと思っているが、その点について意見を聞いてみたい」と久保さんに問いかけました。

対して久保さんは「0→1を作る上でもROIは意識しつつ、定量評価のようなものはあまり定めていない」と回答します。

「定性的な意味合いを持って『これはやるべきだ』と判断していますが、定量的な観点からのアプローチはしていないように思います。Ubie Discoveryも実は評価軸がないんですよ。その点ではは割と異質な部類に入ると考えています」

Sun*の場合も、クライアントと事業を伴走するビジネス構造になっているため、戦略の流動性は高くなっています。

こうしたなか、梅田は「個人的にはシーソーゲーム感が強い」と表現し、次のように話します。

「需要の変動に対して供給不足になったり、あるいは供給過多になったりするのを繰り返していると思っています。最近感じているのは、採用そのものが営業だと久保さんが仰るように、一番コントロールが効かないし、一人で100人も採用できるわけもない。そういう意味では、組織戦でじっくり臨んでいかないといけないと考えていますね。なので『どういう人がどういう風に採用できるか』をベースに戦略を立てていく方がコントーロラブルだと捉えています」

ただ、新しいスキルを持った人を採用する場合には「バリューチェーンの拡大やビジネスモデルの変容が生じるので、Ubie Discoveryのような形でトライアルで動かしてみることもある」と梅田は述べます。

「ビジネスとして確立してくれば、現場のオンボーディングやメンバーに移譲できるわけですが、KPIをしっかり立ててやる場合と、定量的な数字は追わない場合と、割と両方やっているような印象です」

こういったKPIに寄らない0→1を担う人材はCxOが多いわけですが、最近のスタートアップではCxO以外のレイヤーでも、ディスカバリーチームのようなマネジメントやアウトカムを求めるところが増えてきています。

新しくビジネスの種を発見したり、企業バリューを高めるためのアクションを起こしたりするのは、BizDevの役目だと言えるでしょう。

Ubieでは「Ubie DiscoveryはBizDevも含んでいる」とのこと。

「ビジネス系で採用するのはBizDev職が多いんですが、Ubie Discoveryに求めているのは『何でも屋』のような動き方です。というのも、まさしく戦略の流動性に絡んでいまして、その時期によって重要なテーマは異なってくるから。つまり、その時々で営業もやるし、サクセスフェーズでのプロダクトのメトリクス管理にも挑戦するし、スクラム組んでアジャイルにプロジェクトを回していくなど、多様に動ける人材が求められるわけです」(久保さん)

soucoの場合、「自分自身がBizDevをやり続けていることもあり、ディスカバリーにおいてはBizDevよりもPdMの方がありがたい」と中原さんは語ります。

モデレーターの野本さんは「PdMという職種は希少価値が高く、なかなか市場に存在しない」という持論を展開しました。

その点、久保さんもその意見に賛同し、こう見解を示します。

「プロダクトを見る際、事業ドメインのナレッジを持っていれば、アジャイル開発やプロダクトの特性を学んでいくことで、対応できるので、採用で言えばBizDev経験のある人材を採用し、PdM的な振る舞いもできるようにしてもらうのが、現実的だと思います」

梅田はSun*のヘッドハンティングについて説明を加えました。

「うちの場合、ヘッドハンター自体を今は内製化しているような状況です。なので、レイヤーが上の人材は、そこから引っ張ってきていることが多いですね。それも20年くらいヘッドハンターをやっていて、何回か転職するサイクルを追い続けたりしているので、採用市場に出る前にまずプールしている人に声をかけることができるからなんです。要は、関係性の深い優秀な人材のデータベースというか繋がりがあり、市場に顕在化しない人材に当たれることは強みだと思っています」

マイクロソフトの原さんは「Sun*はリファラルに強い印象を持っているが、現状は一本釣りの採用なのかヘッドハンターを活用しているのか、で言うとどちらの割合が高くなっているのかお聞きしたい」と梅田へ質問を寄せました。

「去年まででいうと、ほとんどお金を使わないで採用をしていましたが、成長フェーズによって採用の戦略は変化している」

そう語る梅田は、現在の採用における現況を述べました。

「2020年に社員が60人から120人になり、2021年には200人の規模になっています。ただ、倍々に組織を成長させようとすれば、リファラルで母集団を形成していくのは難しく、さらにはプロパーにお願いしても、もう声をかけ尽くしてしまっていて、新しいメンバーに頼らないといけない。この点が悩ましいところですね。なので、採用目標に対しての再現性を高めるために、採用コストをかけてでも、優秀な人材を取りにいくスタンスを持っています」

カルチャーづくりは「らしさ」を体現できるかが肝になる

議論はスタートアップの組織設計で欠かせない「カルチャーづくり」や「チームビルディング」へと論点が移りました。

Ubie Discoveryではカルチャーガイドを策定し、バリューや行動指針などを明文化することで、チームビルディングに役立てているそうです。

「戦略やミッションといった大きな外観のほか、各組織ならではの行動特性のような細かな粒度のものも記しています。あとはオンボーディングのときも、カルチャーガイドの内容をインプットしていますね。特徴的なのは2種類のメンターがいるということ。一つは業務にまつわるメンターですが、もう一つはカルチャーのみに対して語るメンターも用意しています。組織の行動特性に合っているか、こういったケースはどのように動けばいいのかをアドバイスするのがカルチャーメンターの役割となっています。

さらにカルチャーを浸透させるためにテストを実施し、理解していないところをフィードバックしたり、Ubie Discoveryらしさを体現できていないメンバーに対して、はっきりと『どこがダメ』というのを言える社内環境を作っています」

メンターが付き続けることで、Ubie Discoveryのカルチャーを浸透させ、実際の業務においてもUbie Discoveryらしさを体現できるようになる仕組みを構築していることこそ、強い組織の原動力になっていると言えるでしょう。

他方、カルチャーフィットせず、業務委託の段階で離職してしまうケースも経験してきたUbie Discoveryは、「適宜、チューニングしながらUbie Discoveryにマッチするような人材を採用できるよう、尽力してきた」と久保さんは語ります。

「前出のUbienessにある『率直かつ建設的なコミュニケーション力』を見る際、“自信”と“発信”の2つを意識しています。自信は言われたことを素直に聞くこと、発信は自分の気持ちを他人にきちんと伝えられるか。というのを人材要件として備えているかは判断するようにしています。自分のWillを周囲に伝えられないと、例えば流動性の高いUbie Discoveryだとパフォーマンスを発揮しづらい。なので、裁量持って自ら動けるかどうかを採用段階で見極めできるようにしていますね」

カルチャーガイドの運用は、Ubie創業から3年半くらい経った時期で、会社規模が60〜70人の段階で始めたそうです。

背景として「今までソフトウェア開発寄りのメンバーが多くかったのが、途中から外資系出身のコンサルなど、人材の多様性が進んできたことがある」と久保さんは説明します。

「Ubie Discoveryはクライアントに対するソリューション提供を行ってきた人材が多くいたことから、これからは広く汎用性のあるプロダクトをリリースしていく必要性を感じていたので、組織全体の指針となるようなカルチャーガイドを策定しました」

Sun*は上場前のタイミングで、創業時に決めた社名やビジョン、ミッションにズレが生じているのを鑑み、リニューアルを図ったことで今に至っています。

「社名変更した際に、ビジョンやミッションをアップデートしました。大幅な変更は加えていませんが、思いを厚めに入れて誰もがSunらしさを理解できるようにしたんです。そこからは、Sun自体が何をやっている会社かわかりにくかったのが、『こういうビジョンを持って、掲げる世界観を実現するために事業をしている会社』というのが対外的に伝わるようになりました」

そんななか、Sun*は大所帯でクライアントの案件やプロダクト開発に参画するのではなく、少数精鋭で新規ビジネスの立ち上げやスタートアップのグロースにコミットするような事業の特徴を持っています。

いわば、小さなクラスターが複数存在している状況で、ケースごとに常に自走力とアウトプットが求められていることから、構造的な組織のルールやカルチャーガイドのようなものをかっちりと策定する必然性はないのが特徴です。

マイクロソフトは「冒頭で話した5つのカルチュラル・アティチュードは、社員に根深く浸透している」と原さんは話します。

「社内で一番聞くのは『グロース・マインドセット』ですが、社員とマネージャーの1on1を四半期に一度必ず行う制度があります。そのなかで、グロース・マインドセットの視点から『他者をどう受け入れ、他者にどのように貢献できたか』というのをキャリアのマイルストーンを考える上で非常に大切にされているんです。評価の軸でも、『他人の成功に自分がどれだけ貢献したか』というのが重要視されています。社長がグロース・マインドセットを事あるごとに使うフレーズですが、それがきちんと現場レベルまで落とし込みされ、人事評価に反映されているなと。そう久保さんと梅田さんの話を聞いて思ったところです」

エントリーマネジメントの取り組みがUbieの離職率を下げている

議論の終盤は、採用フェーズにおける条件の設計について、各登壇者が意見を交わす場となりました。

「条件面を決めるのは非常に難しいこと」だと語る久保さんは、Ubie Discoveryでの条件設計について説明します。

「求職者の方が満足いく報酬を用意することと、市場価値との整合性を取るのが肝になってきます。ただ、スタートアップにとって現年収が高い方へ同水準のキャッシュを払うのが困難なので、SOを付与するなどの工夫を行っています」

Sun*の採用条件について、梅田は「昔は給与ギャップがあまりに強すぎ、ほとんどのメンバーが年収を落として入ってきてくれたような状態でした。それが最近では人にもよりますが、現年収+SOという条件を設計し、運用している形ですね」と述べます。

人材を採用した後、企業によっては役職者前提のオンボーディングを進め、現場の経験を何ヶ月か積んだ後に役職レイヤーの業務を担う形式をとっているところもあるでしょう。

Ubieの場合は「Ubie Discoveryは昇進がないが、Ubie Customer Scienceは昇進がある」とのこと。

「Ubie Customer Scienceの場合は役職候補として採用し、成果を見て判断するようにしています。チーム全体の目標に対し、掲げるスパンの中で達成できなければグレードを下げたりしていますね。カルチャー浸透の下りでも話しましたが、いわゆるエントリーマネジメントは徹底して行うようにしています。その方が会社にとっても、働く人材にとっても良い影響を与えるからです」

こうしたエントリーマネジメントの取り組みは、Ubieの離職率の低さにも直結しています。

肌感として、100人いたら数人しか離職していないという、組織の定着度はスタートアップの目指すべき姿なのかもしれません。

いかに社内で共通認識を持たせるかが重要になる

独自のカルチャーガイドや組織設計によって、順調に成長を遂げているUbieですが、現時点ではどのような課題感を持っているのでしょうか。

「ドメインの知識やナレッジなどを引き継いでいくのが、乗り越えていくべき課題だと認識しています」

こう話す久保さんは「カルチャーを策定すると、社内での共通言語を定めるのが難しい」と胸の内を話します。

「過去のコンテキストがわかっていないと意思決定がしにくい。その施策がなぜ失敗したかを理解していれば、最適解を見出し、仕事を回していくスピード感が全然違うわけです。過去にやってきた施策の成功/失敗をどう共有し、社内で共通認識を持たせるかが、今後取り組んでいくべきことだと思っています」

予期せぬ課題に対して、Sun*は「知識の受け渡しに関してはOJTを厚めに行っている」と梅田は説明し、セッションの最後を締めくくりました。

「さまざまな業界から中途で入社するパターンが多い会社なので、Sun*の仕事スタイルや持つべきコモンセンスを定義した上で、ビジネスサイドやテックサイド、クリエイティブサイドが双方理解し合えるように心がけています。ジェネラリストしてお互いやっていることを理解し、スペシャリストとして自分の領域でバリューを出していく。相互理解をしていけば、例えばエンジニアとビジネスサイドとのコンフリクトを抑止することにもつながります。そのため、社内では職種を越えてもわかり合えるような共通言語化を定めることについて、よくディスカッションしています」


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