CxO night~スタートアップとBizDevをアップデートする~
大企業やスタートアップにとって、Bizdev(事業開発)は欠かせない存在です。外部パートナーとのアライアンスやリソースの調達、人材育成など、事業成長の中核を担う職種であり、同時にさまざまなことに対してうまく立ち回っていく必要性があります。
そんななか、「スタートアップとBizdevをアップデートする」と題したCxOnightの2回目を10月25日に開催しました。
今回の登壇者には、Facebook Japanにて新規事業開発やパートナーシップ事業の執行役員を勤めたほか、Google Japanでエンタープライズ事業の立ち上げ、モバイル検索・/広告のパートナーシップを牽引してきた経験を持つ株式会社フライウィールCEOの横山 直人さん、『アフターデジタル』の著書であり、IT批評家の尾原 和啓さん、物流テック企業を運営する株式会社souco代表取締役の中原 久根人さん、日本マイクロソフトでスタートアップ領域のビジネス立ち上げに従事する原浩二さん、Sun* から取締役の梅田琢也の4名が集結。
モデレーターはグロービス・キャピタル・パートナーズの野本 遼平さんが担当し、Bizdevにまつわる知見の共有や現場での体験談について語り合うセッションとなりました。
いいBizdevがいれば、いくらでもユニコーンになれる
前半は、尾原さんがBizdevのあり方や果たすべき役割、海外のトレンドについて話すセッションが行われました。
マッキンゼーやGoogle、楽天、リクルートなどの一流企業を渡り歩き、数多くのプラットフォームビジネスに携わってきている尾原さんが開口一番、話したのは「いいBizdevがいれば、いくらでもユニコーンになれる」ということでした。
「世界のユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える未上場のスタートアップ)は毎年100社程度の規模でしたが、今年に関しては9月時点ですでに380社を超える数のユニコーン企業が誕生しています。このうちの半分近くが、SaaSやフィンテック領域のスタートアップになっていて、しっかりとユニットエコノミクスを確立させ、事業拡大に寄与するマーケティング戦力を実行し、Bizdevがスケーラビリティを担保することができれば、いくらでも資金が集まる状況になっています」
海外のトレンドとしては、シリアルアントレプレナーならぬ“シリアルBizdev”の存在が、スタートアップの成長に大きな影響を与えていると尾原さんは言います。
「イスラエルやインド、シリコンバレーなどのスタートアップ界隈では、シードステージやシリーズAくらいのフェーズで5~10社ほど兼業し、ステージが上がってくると絞り、後任のBizdevをハイアリングして投資家に回るという人材が活躍しています」
また、BizdevはPMF(プロダクトマーケットフィット)の延長線上にあり、プロダクトに足りないものを外部からパーツを調達し、マーケットにフィットさせにいくポジションだと尾原さんは述べます。
「自社内のプロダクトにおいて、何のリソースをどう調達していくかというマップをもとに、プロダクトマネージャーとニコイチとなって行動することも重要になると言います。プロダクトのグランドデザインにおけるマイルストーンの中で、足りていないリソースをどう外部から調達してくるのか。あるいは穴埋めするための創意工夫は何かを考え、行動に移して結果を出すことがBizdevの役割です。
そういう意味では、SalesForceが仕組みとしてしっかりと整えられている企業の好例です。PMとBizdevが業界ごとにニコイチで存在し、かつBizdevが買収するのかアライアンスするのかということを、PMと一緒にグランドマップを描いていくのが非常にエレガントだと感じています」
加えて「昨今のビジネスモデルの潮流としてSaaSやフィンテックが伸びてきていることも、Bizdevが重要視される所以となっている。APIエコノミーが一般的になったことで、狩猟型から農耕型へとシフトしたのは大きな変化でしょう」と尾原さんは語りました。
Bizdevは会社の事業成長における“何でも屋”的存在
後半はモデレーターの野本さんがファシリテーションを行い、いくつかのテーマをもとにBizdevについて議論を深めました。
まず掲げたテーマは「思い描くBizdevの具体例とは?」です。ビジネスモデルも会社フェーズも違うなか、Bizdevの根幹は会社の成長を支える屋台骨であり、「0→1」や「10→100」にコミットすることです。
各登壇社はどのようなBizdevとの関わり方や、あるいはBizdev経験をしてきたのでしょうか。
フライウィールの横山さんはBizdevの捉え方について、次のような意見を寄せました。
「フェーズに合わせて自社がやりたいことを、自分たちの持っている武器を使って事業の幅を広げていくこと。また、アライアンスやパートナーシップを通じて、自社とクライアントが共創してビジネスを回していくことだと考えています。事業が作られる過程において、プロダクトができた時は他社のAPIと組んでバリューアップを図ることや、SaaSモデルの事業なら販売パートナーを開拓したり、事業ポートフォリオの異なるSaaS企業と提携し、シナジー効果を生み出すなど、自社に新たな付加価値をもたらすのがBizdevのなすべき仕事だと思います」
soucoの中原さんは、前半のセッションで尾原さんが話した「Bizdevは会社の事業成長における“何でも屋”的存在」ということに共感しつつ、自身の経験を踏まえてこう語りました。
「Bizdevが、プロダクトの足りていないパーツを外から持ってくるというのは、まさに弊社が昨年2月に商工組合中央金庫(商工中金)と提携したことだなと思いました。当時抱えていた提供者や利用者のエキスパンションの課題について、全国の物流事業者のネットワークを有する商工中金と手を組むことで、弊社はサービスの拡大に繋がった一方、商工中金側も融資先に新しいものを提供できるという補完関係が成り立った。この提携によって、ビジネスを開拓できたので、Bizdevのいい成功事例だと考えています」
三方良しの座組みを組み、ボトルネックを解消できるかが鍵
日本マイクロソフトの原さんは、スタートアップの支援プログラム「Microsoft for Startups」を運営するなか、「Bizdevがどうやってスタートアップの価値を上げていくか」ということを推進していると言います。
「『Microsoft Azure』などのマイクロソフト製品を提供したり、リレーションのある企業とスタートアップのマッチング、営業支援といったマイクロソフトの持つアセットを使って、スタートアップのバリューを高めることに従事しているわけですが、グローバルで見るとここ1、2年でスタートアップとの連携が増えている。米国本社を中心にスタートアップへの投資熱が高まっており、活発に動いていますが、まだ国内では投資の事例はない状況にはなっています。とはいえ、今後もスタートアップに足りないものをマイクロソフトが支援し、エコシステムの醸成に貢献できればと思っています」
Sun*の梅田は、上場前後でのBizdev経験談について語りました。
「上場前はグランドデザインの設計やそれに紐づくKPIの設定、外部とのネットワーク周りやエグゼキューションなど、すべてやっていました。売上にヒットしそうなKPIを見出すことや、バリューチェーンが拡張するなかのひとつの手段としてファンドレイジングを実施するなど、事業のレバレッジが効きそうなところを意識して取り組んできました。
また、IPOしたことで変わったのは大手企業と本質的な対話ができるようになったこと。大企業と膝を突き合わせてリアルな話をする際、意識しているのは『三方良しの座組みを組めるか』ということです。双方のKPIや経済合理性を担保しつつも、ボトルネックが解消されるかが非常に大事になると考えているからです」
むやみやたらにパートナーシップを結んでも成果は出ない
また、単にアライアンスやパートナーシップを結んでも、ビジネスチャンス拡大やスケールに寄与しなければ、絵に描いた餅にしかなりません。
結局のところ、事業提携を図る上でお互いの強みやナレッジのシェアひいては事業インパクトに紐づくイシューの解決まで落とし込めていないと、シナジーを生み出せないわけです。
横山さんは「リソースの問題も鑑みるが、『先方にメリットがあるか、ベネフィットをもたらせることができるか』ということが、提携を結ぶか否かの判断軸になっている」と見解を示しました。
「うちの場合、パートナーと足並みを揃えて、一緒に営業活動や開発の部分も携わることまでをBD(ビジネスディベロップメント)と定義しています。うちと先方とのメリットの割合は『4 対 6』くらいが理想形だと考えています。しかるに、ビジネス拡大のシナジー効果が見い出せなければ、パートナーシップは結ばないようにしていますね」
梅田も次のような考えを述べました。
「例えば、現場の営業組織で見ると、提携先のセールスパーソンにおける商談の武器となりうるのか。あるいは成績のつけ方としてインセンティブを設けるかなども視野に入れないといけない。SaaSの場合だと、サービス同士の補完やシームレスな連携を打ち出しやすいですが、一番重要なのは『現場で動く人にどう紐付けられるか』ということでしょう。形式的にアライアンスを結んでも、現場が変わらなければ何も起きません。そういう意味では、Bizdevの素養として組織マネジメントの知識も必要になってくると思います」
環境変化に適応する力や目標へ愚直に取り組む姿勢が問われる
そして議題は「Bizdevの人間に求められる能力が何か?」に移っていきました。
とかく、事業成長に関連するあらゆることをこなす立ち回り能力や柔軟にアジャストしていく能力が問われるのがBizdevだと思いますが、各スピーカーはどのように考えているのでしょうか。
原さんは「その時々で欲しい人材像は変わるゆえ、Bizdevに求めるファンクションも細分化されるが、『ピースに足りない部分を埋めにいく』ようなイメージを持っている」と話します。
「スタートアップという変化の激しいビジネス環境では、EQが高く頭の回転が早い人を採用するのが理想だと思います。幸いにもマイクロソフトの新卒はスペックが高めなので、自らキャッチアップしながら動き、Bizdevとしての動きを体現できているとは感じていますね。ただ、対パートナーとのリレーション構築や事業価値の創造に伴走する農耕型は、採用や育成で何とかなるものの、資金調達や大型のアライアンスなどの狩猟型は、ある種の先天的な能力が必要だと考えています。
全く無いところから交渉し、場合に応じて折衝を繰り返しながら形にしていくのは並大抵のことではないので、Bizdev経験の豊富さや類い稀な能力が求められるのではないでしょうか」
横山さんは採用の視点と育成の観点から次のようにコメントしました。
「『Bizdevがどの範囲までできるのか』というのを社内メンバーと認識合わせしています。開拓する側とパートナーと伴走する側に大別できるわけですが、採用時には同じ目的に対して周囲とコミュニケーションできるか、決めた目標に対してやり切った経験があるかどうかを見ていますね。概してBizdevには『会社のミッションやビジョンへの共感』、『スタートアップ特有の変化に順応する対応力』、『苦しい時でも乗り越えられるメンタルの強さ』が求められると思っています。
他方で育成に関しては、人によって向き不向きはあるものの、例えば開拓や交渉の席には同席してもらい、シャドーイングを行なっています。こうした経験を積んでもらい、裁量を持たせながら育てていくことを意識しています」
未知への好奇心や会社を横断的に見れる素養も重要
中原さんはBizdevに必要な能力として「好奇心の重要性」を挙げました。
「知らない業界でも色々と調べ、自分で掘り下げて腹落ちできるかが大切だと思っています。パートナー先と考える座組でも、一見価値を出せそうにないと思っても、さまざまなキャッチアップや情報収集を行い、企画を入念に練ることで『よく考えたら、こういうバリューも出せるかも』という方向性を示すことができる。新たな道を開拓するという好奇心がモチベーションに繋がり、良い結果を生むのではと考えています」
梅田は「戦略思考を持ち、キャッチアップ能力や地頭力に長けている」ことがBizdevに求められる能力だと言います。
「クライアントと自社のビジネスをスケールさせるという枠組みでは、主体的に事業や業界のメカニズムを知ろうとする気構えやロジカルに考える力が必要になってきます。また、経営企画や法務などコーポレートもある程度理解し、横断的に見れる人がBizdevとして活躍する素地として重要になってくるのではないでしょうか」
最後にラップタイムとして、各登壇者が考える「Bizdevとは何か?」を発表し、会を締めくくりました。
横山さんは「Bizdevは会社の事業成長を牽引する何でも屋的存在」とし、梅田は「好奇心が強く、クリエイティブなトップセールス」と端的にまとめました。
また、原さんは「ミッシングピースを探してくる存在」、そして中原さんは「プロダクトの足りないパーツを外部から調達してくる人材」とそれぞれBizdevの役目についてまとめました。
今後も、CxOnightではスタートアップの事業成長をエンパワメントすることを目指し、イベントを企画していきますので、乞うご期待ください。