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meet CTOs vol.10 - なぜ、あのスタートアップはグローバルな開発体制を構築したのか

meet CTOsは第一線で活躍する先輩CTOを招き、さまざまなフェーズを経験してきたからこそ語れるリアルな「実体験」や「知見」をもとにセッションを行うイベントです。

登壇者がぶつかってきたテック目線での壁や直面する課題などを共有・追体験することで、同じ轍を踏まずに最短速度でグロースしていける、そんなコミュニティづくりを目指しています。

2022年6月20日には「meet CTOs vol.10 - なぜ、あのスタートアップはグローバルな開発体制を構築したのか」をテーマに、株式会社マネーフォワード 中出氏、キャディ株式会社 小橋氏、株式会社Voicy 山元氏を招き、海外開発拠点の立ち上げに際しての苦労話やマネジメントで意識していることについてディスカッションが行われました。

登壇者
中出 匠哉(株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 D&I担当 CTO)
小橋 昭文(キャディ株式会社 CTO)
山元亮典(株式会社Voicy エンジニアリングマネージャー)
モデレーター
斎藤 幸士(株式会社Sun Asterisk CTOs)

海外で開発チームを作る上でのリスクは何か

多くの企業がIT人材の不足に伴う採用難に直面するなか、事業成長に歯止めをかけないためにもグローバルに目を向け、開発人材を確保していく流れが顕著になっています。

とりわけ、スタートアップは変化の激しい時代においてもプロダクト開発のスピードを上げ、ユーザーの求めるサービスを提供し続けることが求められます。

開発リソースを確保することは、常に意識すべきことである一方、抜本的な解決策を見出せていない企業も少なくありません。

そこで今回は、一つの解決策である「外部グローバル開発チームの活用」にフォーカスし、スタートアップにおける非連続な成長を支えるグローバルな開発組織の構築やさまざまな局面での意思決定について、実際にベトナムの開発人材を生かしながら事業成長を重ねてきたスタートアップのCTOたちに語ってもらいました。

まず、最初のテーマは「海外で開発チームを作る上でのリスクについて」。

日本のIT人材不足の深刻さゆえ、思うような採用ができない場合、海外で開発チームを構築するのも有効な手段と言えます。しかし、言語の壁や質の面など、リスクがつきまとうのは想像に難くありません。

キャディでCTOを務める小橋氏は「言語が異なる問題でコミュニケーションが成立するか。また、時差の関係で同期的なMTGがやりづらいなどが不安に思っていた」と話します。

CADDi CTO 小橋氏

「雇用形態に関しても正社員なのか業務委託なのか。あるいは事業との親和性を鑑みて純粋なアウトソーシングではなく、その国にマッチした形での事業やプロダクトの開発を任せた方がモチベーションが向上するのでは。など、さまざまな角度から検証していきました。品質面についても全く心配無用ではなかったわけですが、海外のエンジニアを信頼し、ある種楽観的に考えていました」

マネーフォワードのCTOを務める中出氏は「それほどリスクは気にしていなかった」としつつ、立ち上げ前は次のような不安を抱えていたそうです。

「海外のエンジニアが果たして、日本のプロダクト開発に対してコミットしてくれるのか。モチベーションを感じてくれるのかが不透明だったので、離職率含めてしっかりと運用できるかが不安でした。品質面についてはSun*に相談したときにQAエンジニアを入れて質を担保することが前提だということがわかったので、その点については特段、気にはなりませんでした」

Voicyのエンジニアリングマネージャーを務める山元氏は「シリーズAで7億円くらいの資金調達後にグロースさせるための開発力が欲しかった」と語ります。

「日本では優秀な人材が確保しづらいことはわかっていたので、リスクはあまり考えていませんでした。言ってしまえば『えいや!』で立ち上げたのが本音ですね(笑)。ただ、最初勢い余っていきなりベトナムで30人のチームを立ち上げてしまい……。コミュニケーションやマネジメントでうまく回らなかったのが失敗でした」

Voicy エンジニアリングマネージャー山元氏

グローバルで開発体制を持つ“意義”を見出せるかが大切

こういったリスクや不安を抱えながらも、なぜ登壇する各社はグローバルでの開発体制を整える意思決定をし、開発力を強化していったのでしょうか。

中出氏は「Sun*のオフィスにグローバル開発について話を聞きにいったのがきっかけになっている」と述べます。

マネーフォワードCTO 中出氏

「その当時は日本でも採用はうまくいっていたので、海外での開発を絶対にやるとはそこまで思っていませんでした。それでも、とりあえずSun*のオフィスに話を聞きにいき、そこから実際に現地にも行ってみたんです。ベトナム現地のエンジニアと話していくうちに『これは海外に拠点を作った方がいい』と考えるようになりました。実際にエンジニアと会って話せたことはもちろん、ベトナムは日本の高度成長期みたいに街にすごく活気があって。これはベトナムの上昇気流に乗った方が事業にもプラスになると確信し、視察から帰る頃には『どうやって海外拠点を作っていけばいいか』という視点に変わっていました」

勢いで海外のチームを作ったVoicyですが、「一時期、日本の開発チームの中でエンジニアが一気に離職してしまったときも、海外の開発リソースがあったことで助けられた」と山元氏は実体験を語ります。

「実は資金調達から1年後くらいに組織崩壊を経験しているんです。会社の方向性と合わないと感じてしまったエンジニアが何人も離れてしまって。そのとき25人いた社員が翌月に16人まで減ってしまったんです。それでも、Sun*を通じて組成していた海外のチームがあったからこそ、柔軟にリソースを確保し続けることができ、Voicyの機能開発における良いアウトプットを出せてこれたのは、今振り返るとレバレッジを効かせられたなと思っています」

小橋氏は「キャディの事業領域である製造業は、ベトナムも同様にものづくりに関しては強いと気づいたのがきっかけになっている」と述べます。

「事業とソフトウェアの開発が、同じところにあることでシナジー効果を生み出せる。そう思えたことで現地法人を立ち上げる決め手になりました」

言語や文化が違うなかでチームビルディングをしていくには?

続いてのテーマは「チームビルディングはどう意識したのか」

今回イベントに招いた各社は、ベトナムに開発チームを有しています。
ただ、日本とベトナムは同じアジア圏とは言え、当然のことながら国のバックグラウンドが異なり、意思疎通したり関係性を築いたりするのはそう容易いことではありません。

各登壇者の方はどのような創意工夫のもと、チームビルディングをしていったのでしょうか。

Sun* CTOs 斎藤

小橋氏は「Sun* は日本語対応できるので、そこに甘えるかどうか。もっと言えば、日本語ベースのエンジニアリングをするのか、現地の風土に合わせるのかなど、社内の認識合わせを綿密に行ってきた」と言います。

「キャディでは現在、BrSEを入れない意思決定をし、英語をベースにした開発体制を敷いています。ただ、ここに至るまでは社内の認識合わせや共通言語化を図って、しっかりと明文化させてきた背景があります。自分たちがこうだと思う行動と本当に海外の開発チームが合うのかは、働きながらでないとわからない部分もあるし、実際に英語で仕事しようにも、いきなり明日から全てを英語にするわけにもいきません。

キャディでまずやったのは、コードの中のコメントから英語で記載するようにしたんです。また、エンジニアの心理的安全性を担保し、英語での業務環境に徐々に慣れるような施策を打っていき、『英語でも十分にプロダクト開発ができる』と判断するようになって、はじめてアクセルを踏んでいきました。そして最終的にはGitHubでプルリクエストする際も英語で行えるような組織へと変化させることができたんです」

山元氏は「日本から現地に英語を話せる人員を常駐させ、チームビルディングしていった」と語ります。

「日本のPMが要件を作り、現地のベトナムチームへパスするんですが、現地に英語を話せる人を配置することで、プロダクトの作られ方や実装の背景などのコミュニケーションをスムーズにする施策を行いました。また、業務以外の飲み会などを開いたりすることで、日本とベトナムのチーム同士の関係性を作るきっかけづくりもやりましたね」

中出氏も「盃を交わすのは大事」と山元氏の意見に同調しつつ、チームビルディングで意識したことをこう話します。

「マネーフォワードの場合、最初から英語で開発体制を作ると決めていたので、日本からはPMとエンジニア1名ずつ英語が話せる人員をベトナムに送り込みました。ただ、日本向けのプロダクトゆえに、要所で日本語の理解が必要になるので、ブリッジSEが間に入って、取り持つように意識していたんです」

思った通りにいかずに直面した失敗と苦労

次いでトピックに挙がったのは「グローバルの開発体制だからこそ、経験した失敗談」。

勝手が思うようにいかず、海外のエンジニアと意思疎通がうまく取れないことで生じる失敗も、各登壇者は乗り越えてきました。実際、失敗と向き合うにはどのようなマインドセットを持つべきなのでしょうか。

「最初からチームを大きくしすぎて苦労した」と前述する山元氏は「勢いでやろうとすると失敗するので、適正サイズを見定めること」と説きます。

「初めはネイティブアプリとバックエンド、Webのチームを作り、バックエンド側が安定してきたので、ネイティブだけに縮小しようと試みたんですが、これが意外にもうまく回らなくて。英語でのコミュニケーションも初だったので、その部分で苦労しましたね」

一方、2022年3月にキャディはベトナムに現地法人を立ち上げ、本格的なグローバル展開を図っているわけですが、小橋氏は「チームとして受け入れるために、社内文化を浸透させていくのが難しく感じている」と吐露します。

「年内には、ベトナムの海外法人で40名体制の構築を目指しているわけですが、言葉の壁を絶賛感じているところです。日本語から英語に変換する資料の数が膨大で、キャッチアップに多くの時間を要するほか、全社会議で共有する内容を全て私が英語に訳し、チャットで流すこともしていますが、どうも頭の中に入る情報量も限られてしまう。この課題をどうするか、まさに挑んでいる最中です」

中出氏は「現地のマネージャー人材を採用するのが遅れてしまったのが失敗だった」と振り返ります。

マネーフォワード CTO 中出氏

「初めはベトナムならではの評価基準を策定し、日本とは異なる等級(グレード)でエンジニア採用をしていました。
それが両者で等級(グレード)が違うことによって、採用する側も混乱を招いたのと、日本よりも安く設定したサラリー(給与)では人材が取れなかったんです。こうした失敗をもとに、最終的には日本と同程度のサラリーを設定したことでマネージャー人材を採用することができましたが、もっと早くテコ入れしておけばよかったなと思っています」

海外開発は一定のマネジメントコストと向き合うことが重要

セッションの終盤に取り上げたのは「海外開発のマネジメントコストはどのくらいかかるのか」。というテーマです。

グローバルでの開発体制を整えることができれば、プロダクト開発のスピードを早められますが、軌道に乗せるまでのマネジメントコストは視野に入れておくべきことでしょう。

「海外開発には事業価値があると思って投資している」

そう語る小橋氏は「海外開発拠点を立ち上げようとする意思が肝になってくる」と説明します。

「やはり日本とは文化的背景や仕事への姿勢などが異なってくるので、ピープルマネジメントやテクニカルマネジメント、コミュニケーションマネジメントなど全面的にやっていく必要性が生じます。そのため、年に数回ほど現地に赴いて一緒に働くことはもちろん、海外拠点に日本からエンジニアを送り込むことも大事になってくるでしょう。日本の開発組織とはまた違うマネジメントコストが一定かかることは認識しておくべきです。今現在、キャディの取り組みとしては本社を置かないようにし、『日本支社』『ベトナム支社』と呼ぶようにしています。こうすることで対等の立場でマネジメントでき、組織強化につなげられるからです」

一方、中出氏は次のように話します。

「最初は日本からマネジメント人材をベトナムに送り込み、現地でマネージャー人材を採用したら、そこから徐々に権限移譲していったんです。これが最初のフェーズだと思っていて、次にやるべきなのは日本とベトナムそれぞれのマネージャー人材の意思疎通です。ベトナムの拠点で行われるマネージャー合宿に日本から参加したり、あるいはその逆も行ったりと、双方で定期的にリアルで会って目線合わせや思想の共有を行っています。また、開発組織を英語で統一しようと考えているので、今後はコミュニケーションにおけるマネジメントコストが高くなっていると予想しています」

山元氏も「ある程度生じるマネジメントコストと向き合うことが重要になる」とし、このように意見を示します。

「Voicyのプロダクトの特性で考えると、まだまだ価値創造のフェーズなので、現地に海外拠点を置くのは早い。その代わりにSun*に海外の開発チームをいわば貸してもらっている状態なわけですが、一緒に働く以上はチームだと捉えています。コミュニケーションしていく上でコストはかかりますが、文化の違いを理解し、ミッションを決め、タスクフォースを推進してアウトカムを最大化していく。日本の開発組織と同様に考えながらマネジメントしていくのが大事だと考えています」

海外開発の立ち上げ時にアサインすべき人材の素養

最後のトピックは「海外開発チーム立ち上げの際、どんな日本人をアサインしたか?」。

英語が話せる、海外の常駐に慣れている、ピープルマネジメントに優れているなど、いろんな要素が考えられますが、各社はどんな日本人をアサインし、立ち上げを行ってきたのでしょうか。

山元氏は「コミュニケーションとプロダクトを深く理解してくれるCTOが適任だったので、立ち上げ段階からCTOが関わっていた」と話します。

中出氏は「現地に行かずとも、コードレビューなどテクニカル面のサポートはできるが、コミュニケーションはそうもいかない。
なので、初めは英語が話せる人員を送った」と述べ、小橋氏は「海外でのエンジニアが経験あり、かつ採用からエンジニアマネジメント、経営指標まですべて見れる人を現地に送り込んだ。国をまたいでもいかにコミュニケーションを担保できるかが鍵になってくる」と説明しました。

また、海外開発チームを設けることで、日本のエンジニアにどんな影響を与えているのかについても議論が深まりました。

中出氏は「マネーフォワードは新規プロダクトが多くある会社なので、ベトナムの拠点が一からプロダクト開発を担当することも多い。
そういう意味では、日本とベトナムのチーム同士が切磋琢磨できると考えている」と語ります。

小橋氏は「製造業はグローバルな業界なので、特に日本のエンジニアが海外拠点に対して抵抗感は抱いていないと思う。逆に一度は行ってみたいという声も聞かれるほど、関心は高いのでは」と見解を示し、山元氏は「特にネガティブなことは1つもなく、『海外経験を積みたい、やってみたい』という人に良い機会を提供できたので、プラスになっている」と話し、セッションを締めくくりました。

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