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#10分で読める小説「男でタピオカ屋に並ぶのが恥ずかしいと感じる人読むべし!タピオカ好きが導いた36歳男人生の転機」

健太が初めてタピオカに出会ったのは、中学生の頃だった。地元の駅構内に突如現れた、本場台湾のタピオカ屋。当時の日本ではまだタピオカが珍しく、まるで未来の飲み物のようだった。透明なカップに入った黒い粒々が、甘いミルクティーの中に浮かぶその光景は、友達には不思議に映ったようだが、健太だけはその見た目に魅了された。

「ちょっと飲んでみようか」――そう思ったのが始まりだった。カップを手にし、一口飲んだ瞬間、ミルクティーの優しい甘さが口いっぱいに広がり、続いてもちもちとしたタピオカが口の中で踊るような感覚を覚えた。今までにない新しい体験に、彼はすぐに夢中になった。

しかし、その店はわずか数か月で閉店してしまった。地元の人々にはまだ早すぎたのかもしれない。だが健太の口は、あの時のタピオカの味を鮮明に覚えていた。

「あの味をもう一度味わいたい」。その思いはいつまでも心の片隅に残っていたが、時が経ち、健太も社会人になり、タピオカのことは次第に記憶の中に薄れていった。それから22年。健太は36歳になり、背の高い体格と共に、少しずつ生活に疲れを感じていた。

ところが、再びタピオカブームがやってきた。街の至る所にタピオカドリンクの看板が現れ、若者たちが楽しそうに飲む姿が溢れていた。彼もあの懐かしい味が恋しくなり、再びタピオカを飲みたいという思いが胸に湧き上がってきた。しかし、タピオカ店は女子高生や女子大生が大勢集まる場所。健太は、そこで飲むことに強い抵抗を感じていた。

それでも、どうしても飲みたかった。勇気を振り絞って店に入ったものの、笑われた経験や周囲の目線が気になり、注文したタピオカをベンチで飲むことさえ躊躇した。結局、公園の端っこで一人、ひっそりとカップを手にして飲んでいた。

そんなある日、健太は店員の様子をじっと観察していた。店内で堂々とタピオカを作り、忙しくも笑顔で接客する男性店員。その姿を見たとき、健太の中に一つの考えが浮かんだ。「働けば、堂々とタピオカを飲めるのではないか」と。

そして、彼はそのままその店で働くことを決意した。36歳にして初めて、タピオカ屋のアルバイトを始めたのだ。最初は少し戸惑ったが、次第に仕事に慣れ、店の一員として自然にタピオカを手にすることができるようになった。周囲の目を気にすることなく、自分が提供するタピオカを楽しんで飲む時間が、彼にとって新たな喜びとなった。

ある日、健太がいつものようにカウンターに立っていると、台湾出身の男性店員が何気なく彼に話しかけた。「台湾では、男もタピオカ飲むよ。普通だよ。」その言葉が、健太の心に深く響いた。自分が日本で感じていた違和感は、文化の違いからくるものだったのかもしれないと気づかされた。

「台湾に行けば、もっと自分らしく生きられるかもしれない」――その思いが日々大きくなり、ついに健太は台湾への移住を決意した。

台湾に降り立った健太は、すぐにその国の魅力に取り込まれた。街の至る所でタピオカが売られ、老若男女問わず、みんなが普通にタピオカを楽しんでいた。健太は自然とその風景の中に溶け込み、自分がこの国で新たな人生を歩む決意を固めた。

そして、台湾でもタピオカ屋で働き始めた。最初は戸惑いもあったが、次第に店の雰囲気にも慣れ、台湾の文化に馴染んでいった。かつて感じていた恥ずかしさや孤独感は、もうどこにもなかった。

ある日、店に日本からの観光客が訪れた。彼が手渡したカップを見た瞬間、ふと日本での自分を思い出した。公園の端で一人、こっそりタピオカを飲んでいた自分。その姿が、今では懐かしく感じられた。

その夜、健太は静かに涙を流した。タピオカに対する愛情は、単なる飲み物への興味ではなく、彼自身を解放するための象徴だったのだと、ようやく気づいたのだ。


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