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#10分で読める小説「破滅への誘い」

広瀬健斗は、石川県の小さな町で生まれ育った。家族と過ごす日々は温かく、彼の心にはいつも穏やかな日常が広がっていた。東京に進学してからも、その記憶は健斗を支えていたが、東京での生活はそれほど甘くはなかった。大学の授業についていくのは難しく、アルバイトで得られる収入も生活費には十分ではなかった。彼の心には次第に焦りが生じ、未来への不安が押し寄せていた。

そんな折、健斗は同居していた加賀見俊介と再会する。加賀見とは高校時代にゲームを通じて知り合った仲で、彼が東京で住む場所を失ったことをきっかけに、健斗のアパートに住まわせるようになった。加賀見は最初、生活費を半分出すと言っていたが、次第にその約束は守られなくなった。加賀見は健斗に対して不自然なほど冷静で、何事にも動じない態度を見せていた。それが健斗には奇妙な安心感を与えていたが、同時に彼は加賀見に対して不信感も抱いていた。

ある日、加賀見は健斗に「楽して稼げるバイトがある」と持ちかけてきた。その話に興味を引かれた健斗は、一度はその提案を断ったものの、金銭的なプレッシャーから次第に心を揺さぶられることになった。加賀見が言う「バイト」の報酬は、健斗にとっては魅力的すぎた。そして、加賀見が実際に「バイト」で大金を手にし、何事もなかったかのように生活を続けているのを見て、健斗は次第にその誘惑に勝てなくなっていった。

闇のバイトは違法な強盗計画だった。それが明確に伝えられた瞬間、健斗の心には恐怖と罪悪感が広がった。しかし、加賀見はいつも冷静で、何事もなかったかのように計画を進めていた。それが健斗にとっては救いのようでもあった。彼は、誰かに指示され、言われたことをただ実行するだけで良いという感覚に浸り、自分自身の意志を閉ざすことで、罪悪感から逃れようとしていた。

その計画が実行されたのは、1月19日だった。健斗は宅配業者に扮し、ターゲットの家のインターホンを鳴らした。出てきたのは高齢の女性だった。健斗は震える声で「お荷物です、ハンコをお願いします」と言い、女性がドアを開ける瞬間を待った。だが、女性は荷物に疑問を感じ、受け取りを拒否しようとした。健斗の心には焦りが生じたが、後ろに控えていた加賀見が素早く行動を起こし、女性を強引に家の中へ押し込んだ。

その瞬間、健斗の心は大きく揺さぶられた。彼の中に残っていた僅かな正義感が警告を発し、「これ以上はやめるべきだ」と叫んでいた。しかし、その声はかき消され、彼はただ言われるままに行動し続けた。健斗は女性を縛り、家の中を物色し始めたが、現金や貴重品は見つからなかった。時間が経つにつれ、加賀見の苛立ちが表に出てきた。

「何も見つからない。どうする?」

加賀見の言葉に答えられず、健斗はただ黙ってうなだれていた。加賀見は次第に暴力的な手段に出ることを決意し、女性を脅し始めた。「金のありかを言わなければ…」そう言いながら、加賀見はバールを手に取り、女性に向けて振り下ろした。

健斗は、その瞬間、すべてが終わったと感じた。女性の叫び声が彼の耳に刺さり、体の奥底に罪の重さがのしかかった。彼はその場で立ち尽くし、何もできなかった。加賀見がバールで何度も女性を殴り続ける光景を、ただ見ているしかなかった。

事件後、健斗は自分が犯した罪の重さに押しつぶされそうになった。彼は何度も自分の行為を後悔し、「あの時、止められたはずだ」と自分を責め続けた。しかし、現実は容赦なく、彼は警察に逮捕され、裁判にかけられることになった。

法廷で健斗は、涙ながらに「止めるべきだった」と語ったが、その言葉は被害者の遺族には届かなかった。裁判官は、健斗が加賀見と共謀して計画を実行し、結果として女性を死に至らしめたと判断し、懲役23年の判決を下した。

判決が下された後、健斗は自分がなぜこの道を選んでしまったのかを考え続けた。彼は、かつての自分がどこで道を誤ったのか、その答えを見つけられないまま、刑務所での生活を送ることになる。

数年が経ち、健斗はある日、加賀見が自分を「闇バイト」に引き込んだ本当の理由を知ることになる。加賀見は、健斗に対して個人的な復讐心を抱いていた。健斗の父親が、かつて加賀見の家族に経済的な損害を与え、その恨みを晴らすために健斗を利用していたのだ。

その事実を知ったとき、健斗は再び絶望に襲われた。自分がただの駒として使われ、人生を狂わされたことを悟った。しかし、その事実を知っても、彼が背負う罪は消えることはなく、彼の未来は暗闇の中に閉ざされ続けた。


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