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映画感想「土を喰らう十二ヶ月」


タイトル通り、山でほぼ自給自足の暮らしを営む高齢男性の1年間を描いた作品。公式サイトでは春夏秋冬のあらすじが書かれているが、その中から春のあらすじを抜粋

『作家のツトム(沢田研二)は、人里離れた信州の山荘で、犬のさんしょと13年前に亡くなった妻の八重子の遺骨と共に暮らしている。口減らしのため禅寺に奉公に出され、9歳から精進料理を身に着けた彼にとって、畑で育てた野菜や山で収穫する山菜などを使って作る料理は日々の楽しみのひとつだ。とりわけ、担当編集者で恋人の真知子(松たか子)が東京から訪ねてくるときは、楽しさが一段と増す。皮を少し残して囲炉裏であぶった子芋を、「あちち」と頬張る真知子。「おいしい。皮のところがいいわ」と喜ぶ姿に、ツトムは嬉しそうだ。』

映画「土を喰らう十二ヶ月」公式サイトより

まず料理がすごく良い。季節ごとの旬の野菜の色がきれいに映えていて、映像としてめちゃくちゃ良いのだ。フードコーディネーターは誰だろう?と調べたら、料理は土井善晴さんが担当されたとのこと。(土井さんに打診したところフードコーディネーターはできないよと言われたエピソードが出てきた。コーディネートではなく「料理 土井善晴」とクレジットされていた。)
あらすじにあるように主人公は幼少期を京都の禅寺で過ごしていて、精進料理に精通している。十二ヶ月の台所仕事の中で肉が出ることは1度もなかった。いわゆる男の料理!というものではなく素朴で丁寧。噛むと滋味が口の中に広がるだろう料理ばかりだった。

素敵な器ばかりでときめいた。

それから器。器がまたすばらしく良い!特に印象に残ったのは野菜を洗う際など洗い桶として使う淡い翡翠色の鉢。これにたっぷりと水を貯めて洗うならかなりの重さになるだろう。片手で鉢を傾けて水を流すことを想像する。重くて無理じゃないか?男性なら平気だろうか。陶製だからぶつけたり落としても割れてしまうし扱うには気を使いそうだけど、主人公にそういった素振りはない。すごく風情があって素敵だけど、やっぱり私だったら軽くて丈夫で使いやすいプラスチックの桶を選んでしまうな。彼の生活には驚くほどプラスチック製品がない。犬のご飯皿まで陶器なのだから驚く。庭には窯があり陶芸もするようなので、自作なのだろうか。

主人公がものを書くときに使う大きな机はこれまた大きな窓の前。カーテンはなく大きな窓からの借景が季節ごとに変わる様が良い。富士山が見えるとか満開の桜が見えるとかじゃなく、普通の山がただあるんだけど、その四季の変化が良いなと思った。

そんなふうに、丁寧な暮らしぶり、山で採れる旬のものをシンプルにおいしくいただくライフスタイルは美しい。友人に「あなたの好きそうな素敵な映画を見つけたよ!」と勧めたほどだけれど…
実は主人公のことがあまり好きになれない。

エッセイとして見るならいい。この人はこういう考え方なんだなと自分と切り離して見る分には。
物語として見ると、感情移入できない。
理由ははっきりしていて、年下の担当編集者に手を出すからである。
上に載せたあらすじには「恋人」と書かれていたけど、私はそうは受け取らなかった。お互いに好意も愛情もあるんだろうけど…何故だろう嫌悪感を抱いてしまう。
調べたところ主人公ツトム役の沢田研二は75歳。担当編集者役の松たか子は46歳。この歳の差が嫌なのか…作家と担当編集者という上下関係があるからなのか…妻のお骨を納めないまま2回りも下の女に手を出してるのが嫌なのか…お葬式に精進料理を手作りしてそれを手伝わせるのが嫌だったのか…
普段あらゆる方向に偏見を持ちたくない、高齢者の恋愛だっていいじゃないと思っている自分が、この二人のあり方に嫌悪感をいだいたのが驚きだった。
描かれ方が違えば…どのような愛情を持っているのか丁寧に描かれていれば、感想も変わったかもしれない。
そんなモヤモヤが少し残る作品だった。


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