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スティックシュガー

息子が4歳のころ、喫茶店で開催されたイラストの展示を一緒に見に行った。喫茶店での展示は、当たり前のことだけど、席について飲食をする。絵だけを見て帰るというのはマナー違反だ。

息子とはいろんな店で外食してきたけれど、カフェに入ったとしてもコーヒースタンド…フードコートに近いものやファミレスに近いものばかりだったのかもしれない。常連のおじさんが静かに珈琲を飲むような喫茶店は初めてだった。
椅子に座り、オムライスとサンドイッチを注文した。いかにもよくある喫茶店らしく、机の上には砂糖や爪楊枝、紙ナプキンが置かれている。

スティックシュガーを指さして息子が言った。
「ストローが入ってるの?」
「これ?これはお砂糖だよ」
不思議そうに首を傾げる。
ママは何を言っているんだろう、という顔だ。
「…ストローの中にお砂糖が入ってるの?」
「ストローは入ってなくて、紙の包みの中にお砂糖が入ってるんだよ。開けてみる?」

私は包みを千切って開け「お手々船して」と息子の片手を舟形にし、手のひらに中身を少し出した。
息子の瞳が輝いて「舐めてみたい!」と笑った。

シュレディンガーの猫ならぬシュレディンガーの砂糖だ。彼の意識の中には、飲食店に置いてある棒状の紙包みとはストローでしかなく、けれどこれは何だかストローにしては短くて変だなぁと思ったんだろう。

今後は当たり前のようにこれは砂糖、これはストローと認識して何の疑問も持たずに目の端に入るんだ。
ひとが何かを当たり前と認識する瞬間。
貴重な瞬間に立ち会えて良かった。
「甘い!」と舌を出して笑った顔を忘れないでいたい。

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イラストレーター
吉本七菜(よしもとなな)
■HP https://www.nanayoshimoto.com/

■X https://x.com/sunao1231

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