月とアフリカ
人付き合いが苦手。
物心ついた時からそうだった。
作る気はないけれどいつの間にか心の壁が出来ている。
壊したい気持ちもあるし、守られて安心の気持ちもある。
我ながらめんどくさい。
何が言いたいかといえば1人では生きられない人生がしんどい。
「人間関係か…」
そんな事を考えてたユキにラクダの頭がアップになる
「あぁぁもう!このラクダ揺れすぎ!お尻が痛い…!」
私はなぜか今、アフリカはサハラ砂漠にいる…
今から3週間前の話だ。
彼氏と別れたチアキがウチにやってきた。
「ユキーちょっと聞いてよー」
「またか…」
あーでもない、こーでもないといつも通り愚痴を聞く
よくある事なのだ。
そうしてチアキはテーブルに出したお菓子をひと通り食べてコーヒーを飲みほした。
「話聞いてもらったらスッキリしたーありがとね」
「はいはい毎度の事だからね」
機嫌が治って良かった。
いつもより治るのが早いな…と思いながら
タバコに火をつけた
「ところでユキ…ちょっと付き合ってほしい所があるんだけど…」
「え?どこ?」
気晴らしに買い物とかかな?
「アフリカとか…」
「は?」
この子は一体何を言ってるんだ?
ちょっと付き合う場所じゃないだろ、アフリカはさ。
「さっき話した元カレと旅行に行こうと思って申し込んでたのよ。お金ももう払ってあるし…。このままじゃキャンセル料金発生しちゃう!」
「えーめんどくさい」
行きたくない
「いいじゃん、タダで海外旅行に行けるんだからさー」
「パスポートないし」
だから行きたくない
「大丈夫、10日くらいで発行出来るから」
「だとしてもやっぱめんどくさい。暑そうだし」
だから行きたくないんだってば
「ちょっとちょっとー親友がこんなに落ち込んでるのに何その感じーひどいひどいひーどいー」
「話を聞いてもらってスッキリしたって言ってたじゃん」
それとこれとは別だろ?アフリカだぞ?
でも親友って響きはいいな…
「ひどいひどいひーどーいー」
チアキは子供のように駄々をこねだす。こうなると長い。
「わかったわかった、じゃあ予定空けとく…」
結局押し切られてしまった…まぁ親友の頼みじゃ仕方ないか。
「ほんと?やったー!楽しもうねー!じゃぁアタシ約束あるから行くねー!」
チアキは風のように去っていった。
「はぁ……めんどくさ……」
「仕方ない、とりあえずアフリカについて調べてみよう…」
と呟きながらも親友というチアキの言葉が嬉しかった。
そして3週間後…しっかりとアフリカに着いてしまったのだ。
「来るんじゃなかった」
ラクダに揺られながらユキはそう思った
「おーいおーいユキ〜」
前のラクダからはしゃぎながら手を振るチアキ
「はぁ…暑い……砂がまとわりつく……揺れる……落ちそう……暑い…」
(早くタバコ吸いたい…)
ラクダに揺られて数時間
ようやく今夜の宿の砂漠のテントに到着した
私たち以外はみんな外国人
色んな言葉が飛び交っている
ベッドは思ったより綺麗で安心した。
「疲れた〜」
さっそくベッドに横たわるユキに
「砂漠と夕陽を見に行こう〜」
と声をかけるチアキ
「いや、疲れたから少し休みたい」
「嘘でしょ?せっかくのアフリカだよ?」
「逆よ逆、アフリカにまで来てあくせくしたくないんだって」
確かにアフリカはなかなか来れる場所ではない
ただ2度来れない場所でもない
同じ事は世界のほとんどの場所に言える
マチュピチュだってウユニ塩湖だって片道2日くらいあれば行ける
世界は広いようで狭い
実際、アフリカに今いるし…
そう考えるとどうしても見たくなったらまた来ればいいだけの話だ…今はただただ横になりたい…
そんな事を思いながら上着を脱ぐユキ
「え〜信じられない〜サハラ砂漠まで来て昼寝するなんて」
「まぁ、そもそも来たくて来たわけじゃないのでね」
「じゃあ私1人になっちゃうじゃんよ〜」
「誰とでも仲良くなれるチアキなら言葉の壁など越えるでしょ」
「それもそっか!しゃーない、どこかのグループに入れてもらってくるか」
そう言ってチアキはカタコトの英語で外国人グループに話しかけに行った。
(マジかよ…)
ものの数分で仲良くなったのか外国人グループと盛り上がるチアキの声が聞こえた。
(アイツやっぱスゲーな…)
感心しつつもユキはそのまま眠ってしまった。
「ユキ〜晩ごはんだよ〜」
チアキが起こしにきた。
あぁよく寝た〜。ちょうどお腹も空いてきてた
早く食べたい
「夕陽良かった?」
「もうね…最高だった!ユキも来れば良かったのに〜」
「いやいや、あたしもぐっすり眠れて最高だったよ」
チアキと和気あいあいで一緒に食事場所へ行く。
外は薄暗かった。
チアキは外国人グループに手を振っている。もうすっかり友達みたいだ。
スタッフが食事を運んできた。
パンとスープと野菜とチキンのタジン鍋、量がすごい。
ひと口食べてみると好みが分かれそうな味だけど美味しい。
「意外に美味いね……」
とチアキに話しかけようとしたのだがチアキは隣のテーブルの外国人グループと盛り上がっていた。
まぁいいか。
1人は慣れてる。
日本だけじゃなくアフリカでも、というか世界中どこに行っても人付き合いは苦手だ。
愛想笑いするくらいなら1人の方が楽だ。
「ユキもこっちにおいで〜みんなに紹介するから」
「いいいい、今食べてるから」
ほっといてくれ。今は食事を楽しみたいんだ。
そうして1人で黙々と食べていると、白人の女性が声をかけてきた
「コニチワ!ゲンキ?」
「え?あー、イエスイエス…」
さらに何か話しかけてたので
「ソーリー、ノーセンキュー」
と言って食事会場をあとにした。
夜の砂漠は風は無かったが少し寒かった
テントから少し離れた所でタバコに火を点ける
煙をため息と共に吐き出した。
「いつもこうなるんだよな」
話しかけてきてくれる人は今までもいた。
でもうまく答えられなくて、自分から距離をとる。
そうしていつの間にかいなくなる。
これの繰り返し。
自業自得からの自己嫌悪。
この先の人生もこのままかと考えると生きていくのがしんどい。
誰かの1番になれない人生は辛い
チアキはいまだに声をかけてくれるけど、チアキの周りには沢山の人がいる。
自分はその中の1人にすぎないのだ。
そう考えてしまうのは自分にはチアキしかいないからかも知れない。
たかが人見知り
されど人見知り
「私にとっては深刻なのよね」
タバコの煙を眺めるユキの目に夜空に浮かぶ月が目に入る。
砂漠の月は思ってるより大きく強く輝いていた。
(綺麗な月だな…)
そう思ったと同時に
「月が綺麗ですね」
後ろにチアキが立っていた。
手にはあったかいコーヒーが湯気を立てている。
「砂漠の夜ってひんやりしてるね、はい」
とコーヒーを手渡す
「あぁ、ありがと」
タバコを消しコーヒーを受け取るユキ
「あったかいな」
ズズッとひと口コーヒーをすすると同時に涙がポロポロと出た。
「え?どした?なになに?」
「私もさぁ、チアキみたいに人と関わってみたいんだ…」
思わず本音が出てしまった。
「え?人と関わる?どゆことどゆこと?」
泣きながら言葉に詰まりながら心の中の悩みを打ち明けた。
チアキは頷きながら黙って全部聞いてくれた。
「落ち着いた?もうひと口コーヒー飲みな?」
グスグス言いながらコーヒーを飲むユキ。
涙を拭きながら、ふぅっと一息吐いた。
「みっともない所を見せたね。ごめんごめん。結局はさ、私が悪いだけなのよね」
「そんな事ない、アンタは最高」
「え?」
「だって私の為にアフリカまで来てくれたんだから。普通は来ないでしょ。私なら行かないし」
(来ねーのかよ…)
「それにアンタが私を羨ましいように私もアンタが羨ましかったのよ?」
「え?どこが?」
「私は人の顔色を伺うのが上手いのよ。気なんか使いたくないんだけど自動的に使うようプログラムされてるの。そうゆう育ちなの」
「でも何故かさ…アンタだけは気を使わないでこれたのよね」
思いがけない言葉に驚くユキ。
「アンタのその一匹狼みたいなとこが羨ましかった。アンタがそれを望んでないとしてもね。だって媚び媚び人生の私には絶対出来ない事だもの」
そう言ってユキのコーヒーを勝手にひと口飲むチアキ
「生きていくのって辛いよねぇ」
チアキはフッと笑いながら
「私たち、アフリカまで来て何の話をしてるんだか」
「たしかに」
笑い合う2人。
「でもさ…」
「ん?」
「この月はいいよね」
「うん…いい…」
月を見上げる2人。
早朝、寝ているチアキを横目に1人砂漠に向かうユキ。
目は腫れてるが、清々しい顔。
タバコに火を点けようとしたがポケットにしまう
ひとつ深呼吸。
テントに戻ってチアキを起こしに行こう…と思った時
朝日を見に来た外国人グループが来た
昨日話しかけてくれた女性と目が合う
「グ…グッモーニン!」
勇気を出して声をかけてみた
すると女性は笑顔で
「オハヨゴサイマス!」
と返してくれた。
(私、世界デビューした!)
新しい人生が始まった気がした。
「もーどうして起こしてくれなかたのよー」
帰りの準備をしながらチアキが文句を言ってきた。
「起こしたけど全然起きなかった」
「起きるまで起こしてよ〜砂漠の朝日をみれなかったじゃない」
「また来ればいいじゃん」
「いやいや、アフリカだし」
「来ようと思えば2日あれば来れるよ、アフリカなんてさ」
「じゃあまた一緒に来てくれる?」
「それは無理」
「えーーー」
ラクダに乗って街へ戻る。
昨日より風が強い。
砂が風で形を変える。
砂漠を眺めるユキ
「チアキー」
「えー?なーにー?」
前のラクダに乗ってるチアキが振り向く。
「来て良かったよ、アフリカ」
「えー?なんてー?」
ニヤニヤするチアキ
「聞こえてるくせに」
ピースで答えるチアキ
微笑むユキ
ラクダも来る時より揺れが穏やかで乗りやすい
心の持ちようで人間だけじゃなくラクダとも仲良くなった気がしたユキだった。
●おわり●
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