墓持ちプレゼンテーション1

【第二章 物語を伝える場所】/そこは約束の場所

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物語はまさに人類の歴史とともに始まるのだ。物語をもたない民族はどこにも存在せず、また決して存在しなかった。
物語は人生と同じように、民族を越え、歴史を越え、文化を越えて存在する。❞
<ロラン・バルト 「物語の構造分析」>


妻のお墓を建てて、はじめてのお彼岸。お盆休みに帰省した息子が、今回も子どもを連れて帰ってきた。

「長い連休をもらったから、息子の遊びがてら墓参りに来たよ」

9月の連休に息子が帰省したのは、何年ぶりだろうか。
毎年、お盆と正月休みには帰ってくるが、帰省ラッシュもあり、慌ただしくやって来て、慌ただしく去っていくのが通例だった。
しかし、先のお盆から、どうも様子が違うようだ。

息子も多少、お墓づくりに関わったからだろうか、帰ってくれば墓そうじをしてくれ、満足そうに手を合わせていく。
息子は、妻の住処が気になるのか、お墓に入った妻が気になるのかはわからないが、墓の前で手を合わせている時間も長く、何やらいろいろ報告事があるのかもしれない。

墓参りの帰り道、息子がこんな話しをしてくれた。

「こないだのお盆の墓参りのとき、つい墓前で母さんに『半期に一度の営業成績でナンバーワンになれるように応援してくれよ』って言っちゃったんだよ。そしたら、そのせいかどうかは分からないけど、お盆前にかけていた営業の反応が休み明けに一気に出てさ。こないだの会議では、営業成績がトップになったんだ」

「おー、すごいじゃないか!」

「だから、お礼参りじゃないけど、母さんに報告しないとと思ってさ(笑)」

「そうか。母さんの墓は、まるで神社みたいだな(笑)」


ある日、墓ありじいさんは地区の慰労会の旅行に出かけた。墓なしじいさんも、その旅行メンバーの一人だった。

いくつか名所を周り、最後にその地で有名な神社へみなで参拝に訪れた。

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ちょうど祭礼をしていたこともあり、人で賑わう境内。墓ありじいさんと墓なしじいさんも、せっかくなのでその祭事を見学することにした。

その神社に鎮座している神々のうちのひとつが、その地に伝わる銅器の神ということで、この祭礼はこの町の職人たちの発展を願うものであると宮司が話しはじめた。

「もの余りの現代ですが、その昔にものが誕生した背景には、神話を含め、長い年月によって紡がれた数々の物語が存在しています。
神々が紡いできた物語を、このような祭事を行うことで、伝えていく場所がこの社(やしろ)です。
社という「カタチ」、そして「場」、そこに集う「人々」、そして祭礼を司る「人」、この要素がすべて揃うことで、物語にひそむたましいは未来永劫、存続していくのです」

墓ありじいさんは、宮司の話を聞きながら、ふと先日息子と交わした言葉を思い出した。

『母さんの墓は、まるで神社みたいだな(笑)』

お墓と神社は全然別物だけど、根底にある精神性は共通する部分があるのかもしれない。

お墓は亡き人(妻)が眠る場所というだけでなく、亡き人と生きている者との関係性が息づいている場所であって、その人の紡いだ物語=「たましい」が、たとえその人のことを知っている人がこの世にいなくなったとしても、そこに集い、そこを守る人がいる限り存続していく、神社のような、そんなカタチある場なのではないか。


祭礼が終わると、墓なしじいさんは墓ありじいさんに少し興奮気味にこう話した。

「わしはあまり神社には詳しくないが、由緒ある神社っていうのはこうした物語があるものなんだなぁ。今度、妻と一緒に神社めぐりをして、そこにまつわる神について勉強するのも楽しいかもしれんな」

墓ありじいさんは、墓なしじいさんに笑顔でうなづいた。心のなかでこう思いながら。

「わしには一緒に参拝する妻はもういないが、物語を伝えていく場所と人とモノがあるのだ」

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