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音楽系雑記④:ポリリリリズムの和音選択とその意図について

初めましての方は初めまして、こんにちは。すなじろと申します。
ミライ探救以来のゲーム関連の記事になります。奇しくも(?)またなまりさんとご一緒させていただいたゲームなのが面白いですね。

今回この記事を読みに来てくれる方がポリリリリズムのことを知らないとはあまり思えないのですが、一応ゲームの紹介もしておきましょうか。

ポリリリリズムはその名が表す通り、ポリリズムをテーマにしたなまりさん作のゲームです。
同時に進行する複数のリズムを押していく、ということで一種のリズムゲームに分類されるでしょう。

ゲームの製作に至った経緯、そして私がこのゲームに関わらせていただくことになった経緯は作者のなまりさんが書いてくださった記事が詳しいです。
そちらも合わせてお読みいただけると一層この記事を楽しめるかも? 多分……


この記事の執筆に至ったきっかけ

実はポリリリリズムのリリースされた直後くらいに、少しだけ和音選択についてツイートを残しているんですね。

はっきり言ってこれがすべてなんですが、改めて記事を書こうと思ったきっかけは、桜だもん。さんがYoutubeにアップロードされていたこの動画です。

音楽的な部分について解説して頂きながら、初見プレイをされるという動画です。ぶっちゃけ自分より詳しいです空虚5度の禁則とか知らなかったし……。
この動画に触発されて、もうちょっと詳しく自分の意図した音の選択を書き残しておくことにしました。

なお、音楽(これを音楽と言ってよいかはわかりませんが……)の受け取り方や感じ方は人それぞれです。決して楽しみ方を限定するものではないし、読む人によっては蛇足となり得ることをご理解の上お読みください。

また、一応音楽に詳しくない人でも読めるように書いたつもりではありますが、少々専門的な内容が混じるかもしれません。
意味が分からない場合は適宜読み飛ばす、もしくは私のTwitterまでDMでも送ってください。可能な限り説明したいと思います。


ポリリリリズムの仕様

ポリリリリズムは複数のリズムが同時進行するゲームです。
ゲームとしてのわかりやすさを取るために、1つのリズムに対して1つの音を割り当てる、そしてリズムの数が多いほど高い音にする、というのを念頭に置きました。
また、ゲームの世界観に合わせるため、安定した美しい響きがどのような組み合わせでも鳴る、というのを大事にしたいところです。

誰でも知っている音列といえばドレミファソラシドの白鍵列(= C major key、ハ長調)ですよね。これをよくアルファベットでCDEFGABCと表記するので、以下ではこちらの表記を用います。
また、音の絶対的な高さを表すため、C3やC4という表記を用います。数字が1多ければちょうど1オクターブ高い音になります。
低いドと高いドって奴ですね。

さて、白鍵列CDEFG……が順番に並んでいるとはいえ、これをそれぞれの拍子に順番に並べても、あまりきれいな響きにはなりません。
例えばCDE(ドレミ)を同時に鳴らした時を考えると、音が近すぎて濁って聞こえる※1んですよね。
音楽をやっている人ならこれをどうすればよいかはなんとなく想像がつくでしょう、CEG(ドミソ)にして、一個飛ばしにしちゃうんです。こうするとCMという和音※2になり、きれいに響きます。

こうして一個飛ばしにした音列、C3 E3 G3 B3 D4 F4 A4 C5……を得ました。あとはこれを実装してもらって完成ですね!

※1 半分本当だが半分は嘘。ドレミが近すぎてドミソにしたというよりは、元々音楽の世界でキレイに響く音列がドミソである、という方が実際には正しい。ドレミじゃダメなの? という問いをを否定して話を始めたいためにこういう形をとっている。
※2 ここではCMと表記した和音だが、これはC Majorの略記として用いた。通常Cと表記される。
この記事では音階のドをCと表記しているので、混同を避けるためにこういった表現を行っている。通常、CMと言っても通じない(どころか別の和音Cmと誤解される)ため注意。


歯抜けでの破綻

そう簡単にはいきません。響きの美しさを意識した時にこのままでは問題が生じます。
一番下から順番に鳴らしている限りはあまり問題は起きないのですが、歯抜けになった時が大問題です。ゲームの仕様上、C3 E3 G3 B3 = 2, 3, 4, 5 と拍子を割り当てたとして、2 : 3 : 5 のポリリズムでは C3 E3 B3 となりこれはあまりきれいに響かない。
ギリギリこのくらいなら許容できるとして、5 : 8 のような二種類のポリリズムが厄介です。これはそれぞれ B3 A4 に当たるわけですが、お世辞にもきれいな響きとは言えません※3。 

大きく躓いてしまいました。
もういっそ別の手を考えた方がよさそうです。

※3 短7度の関係にあたる。和音の中においては同時に使用されることも多いが、今回はこの二つのつなぎとなる音が存在しないため綺麗な響きとは言い難い。
これに対して、C3とG3は2音のみでも非常にきれいに響く(周波数比が 2 : 3 であるため)。これを完全5度の関係といい、C3に対してG3がP5(Perfect 5th)であるという。
基準音に何を加えるか? というのが和音のカラーを決定する。音数が少ない際の響きをより美しくするために、後述する基準音にはP5を加え、常に最低限の調和が取れるようにしている(厳密にはC3のみが基準)。


ベースラインを用意する

先ほどのアプローチが問題になる大きな理由の一つとして、最も下の音がコロコロ変わる(≒和音の基準点が定まっていない)ことがあります。
つまりは、いっそのこと基準点を用意して、それに音を加える形で作っていけばよいわけです。

今回は、この基準音をC3+G3に置くこととしましょう。
これのC3+G3に音を重ねていくことで、和音の響きを作っていきます。

第一候補はEです。CEGがCMでキレイって話をしたばっかりですからね。
CMを形成するにあたってE3でもE4でも構わないのですが、

1つのリズムに対して1つの音を割り当てる、そしてリズムの数が多いほど高い音にする

最初の方で定義した要件

このように定めていました。基準点は1拍子だと見なせることを考えると、G3を基準に採用している以上、E4からスタートするのがうまくいくでしょう。

さらにここから音を一個飛ばしで重ねていきます。
候補となっていくのは、E4 G4 B4 D5 F5 A5……となるのですが、ここでまた問題が生じます。
E4とF5の二つが同時に鳴った時、前述のB3 A4 の組み合わせとは比にならないぐらい厳しい音が鳴り響きます。

理由は簡単です。F音がE音の半音上に当たるからです。

アヴォイドと呼ばれる音が存在します。
アヴォイドはざっくり言うと「響きが強烈になっちゃうよ音」のことで、そのほとんどは「ある和音を構成する音に対して半音上の音」です※4
このF5はE4を含む和音においてアヴォイドに当たり、響きがとても厳つくなってしまいます。これでは安定した美しい響きからは程遠い。

そのため、アヴォイドであるF5を避けて、F#5を代わりに使っちゃいましょう。
F#を置くと今度はGがアヴォイドになってしまうのですが、F#5の上(G5、G6等)で使用しなければよいです。
同様の理由でもともとCはBに対するアヴォイドたり得るため、基準音以外では用いません。

※4 多様な解釈がある。コードの機能としてTDSDを学んでいる人なら「コード機能を阻害するものがアヴォイド」というのも耳にしたことがあるだろう。今回はずっと同じ種類の和音を鳴らしており明確な機能が定まっていないため、前述の解釈を用いることにした。
なお、ドミナントセブンスなどでは半音上をアヴォイドとして扱わないが、重要なのは安定した美しい響きをキープすることであり、ドミナントであると解釈し半音上をアヴェイラブルテンションとして扱うのは、ゲームにそぐわないと考えた(そもそも、C3+G3を保続させており解決先が存在しない時点でドミナント機能を持たないことは明白である)。


リズムの普遍性と和音のカラー

これでほとんど目的の音列は完成しました。
基準の音:C3+G3
乗せる音:E4 G4 B4 D5 F#5 A5……

これに拍子を割り当てて、それぞれの和音の響きを確認していきます。
2:E4 → CM(E4 = 3rd)
3:G4 → CP5(G4 = P5)※5
4:B4 → CM7omit3(B4 = M7)
5:D5 → Csus2 (D5 = 9th)
6:F#5 → C(#11)omit3(F#5 = #11th)
7:A5 → C6omit3(A5 = 13th)

コードの表記を見慣れていない人だとチンプンカンプンかもしれませんが、そこは少し目をつぶってください。等号でつないである右側の数字とアルファベットは、音の機能を表しています。
ここで言いたかったのは、このままではリズムの普遍性と和音の美しさに乖離があることです。

人の感性によっても大きく違うとは思いますが、響きの美しさは和音がどれだけシンプルかに比例しています。この発言めっちゃ燃えそうで怖い。
そしてリズムが普遍的であればあるほどシンプルで美しい響きにしたい、と考えた時にこの対応ではしっくりこないのです。

例えば四拍子。このままではCM7omit3という和音ですが、これはCM7というC E G Bの和音からEを抜いた音で、Bがちょっと宙ぶらりんな感じがする和音※6になっています。
四拍子はごくごく普通の拍子でありふれたものですから、四拍子にはCP5かCMを割り当ててあげたいところです。
逆にこの音の組み合わせの中で一番不安定感のある音は、C(#11)omit3、つまりはF#5でしょう。下からとはいえ、G3とぶつかってはいますからね。
これはこの中でも最も不安定感のある拍子である七拍子に割り当てたいところです。

※5 例によってCP5などという表記は普通しない。強いて言えばC5やC5thなどという表記が散見される程度か。注釈3でP5の話をしたので、わかりやすくしようとしてこういった表記にした。
※6 B音はEに対してP5であり、その強い和音的文脈を失っていることをこう表現した。CM7自体は和音も表記も普遍的なものだが、やはりE音を抜いた際の安定感は薄い。
なお、ある和音から音を抜くことをomitと表現し、今回は3rdであるE音を抜いているのでomit3となる。


ずらす、ぶつける

対応関係を一つずつずらすことでなんか行けそうです(!?)。
そう考えたので、基音であるG3と現在の一番下E4の間に音を一つ用意して、それを2拍子に割り当てることで対応させてしまいましょう。

実はあまり候補が無く。というのも二拍子も比較的よく見る拍子ですから、響きとしてはきれいなものを選びたいのですが、そもそもG3とE4の間に A3 B3 D4 ぐらいしか使えるものが残っていません。
今回採用したのはD4です。理由は、9thが最も無味だからです※7
こうすることで、ひとまず七拍子まではリズムと音の対応をうまくとることができました。

二拍子導入のあおりを受け、C6omit3になってしまった八拍子ですが、八拍子も超がつくほど普遍的な拍子です。ここはシンプルな和音にしたい。
そこで四拍子G4のちょうど一オクターブ上であるG5を使ってしまいましょう。
七拍子のF#5と強くぶつかっていますが、ここは七拍子の異質さを強調するためにあえてぶつけたものを許容しています。このぶつかりは基音にG3があることから、G5の方が強く文脈的に支えられたものになるため、F#5の方が異質な音だということをはっきりと認識できるでしょう。

そして九拍子にC6omit3となるA5を据え、十拍子以降は音が濁らないよう細心の注意を払いつつ、使った音のオクターブ上などを重ねていきます。
そうして完成した音列が後述の通りとなります。

※7 9thはコードの機能を阻害しにくい。基音のP5とさらにP5の関係にあるのが9thだからである。ほぼすべての場合においてアヴォイドにならないのも気軽に使える一因となる。
実はCMの和音を前提にしてこの記事を書いているのだが、そもそもC E♭ GというCm(C minor)を用いる場合も考えられ、その場合E音もしくはE♭音の存在によってメジャーなのかマイナーなのかが決定する。
これがコードの響きに強力な影響を与えるのだが、この役割を三拍子(普遍的だが特徴的なリズム)に担って欲しいが故に、二拍子はコードの長短を決定させない9thの選択となった。四拍子をP5にしたのもほぼ同様の理由。


五度圏を利用して世界のカラーを変える

1:C3 + G3
2:D4 → Csus2(D4 = 9th)
3:E4 → CM(E4 = 3rd)
4:G4 → CP5(G4 = P5)
5:B4 → CM7omit3(B4 = M7)
6:D5 → Csus2 (D5 = 9th)
7:F#5 → C(#11)omit3(F#5 = #11th)
8:G5 → CP5(G5 = P5)
9:A5 → C6omit3(A5 = 13th)

重複なしで音を拾っていくと、CGDEBF#Aが出てきますね。これはCM7(9, ♯11, 13)と呼ばれる和音になります。
そしてこれをメジャーキーだと考えると、G majorと呼ばれる世界の和音になります。ト長調ってやつです。
だからなんだという話なのですが、ゲームの見た目的にはもう少しだけ明るくてもよさそうです。それを弄る際に五度圏と呼ばれる考え方を用いました。

五度圏は、音楽の中にある12(短調含め24)の調を、その近さに応じて円形に並べ直したものになります。どれだけシャープを付けたら何キーで、どれだけフラットを付けたら何キーかわかりやすく教えてくれるんですね。

今回はもうちょっと朗らかに明るくしたい、それならシャープをもう一個足そう!※8 ということでシャープを足すと、CGDEBF#AはそれぞれGDABF#C#Eへと変化し、D major(ニ長調)へと変化します。
そうしてできた和音が、まさにポリリリリズムの世界となります。最終的に使用した音階は、以下の通りです(一拍子から順番に記載)。

G3+D4|A4|B4|D5|F#5|A5|C#6|D6
E6|F#6|A6|B6|C#7|E7|F#7|A7

ちなみに一応申し添えておくのですが、ニ長調になったのは完全に手癖です。グダグダ書いた理由は全部適当だしなんならA major(イ長調)でもいいし。

※8 音楽の感じ方には個人差があります。


あとがき

いつも理由を後付けしがちな自分にしては、割と理論立てて理詰めで音を決めていった感じがします。
こうやって思考を文として書き出すのもいいですね。意外と楽しかったです。時間はかかりましたが。
なぜ時間がかかったかというとTキーが絶賛チャタリング中でめちゃくちゃイライラしながらこの記事書いてたからです。

Tキーが絶賛チャタリング中でめちゃくちゃイライラしながらこの記事書いてました。他に語ることが無いのでこの辺で終わります

音楽系雑記③:過去曲のMIDIとプロジェクトファイルを配布する より

直せよ。


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