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さよならキング、空は輝いた。

その名の通り、様々な模様に変わる大空のような音楽を生み出す人だった。
箱に詰められ蠢く客と、舞台上の眩い彼らは、ライブハウスという同じ空間にいるのに別世界の人間のようだ。
少し手を伸ばせば触れられるはずなのに、絶対に手は届かないのだろうという、このステージに対する神聖さ、距離感。もどかしく、心が沸き上がる。


また、この場所に来てしまったなあ。
1年振りにまたここで凍え、絶望している。この先わたしはどこへゆけばいいのだろうと、過ぎゆく人や、鳥、向こう岸の人々を唖然と眺める。
昨年と違うことは、そこにキングはいないことだ。
枯れ始めた紅葉の向こうに、四角い建物の輪郭が空を切り取るのが美しい。ここの風景が好きだ。
ただ彼はこの群像を乱すくらい主張が激しかったのであまり好きではなかったけど、いざなくなると寂しくなる。そういう人間の失ってから惜しみだす憐れな気持ちは、次の別れのときに少しでも上手く別れられるようになるための感情だと思う。そう活用していかなければならないと思う。

彼がいなくなってもこの景色は変わらず美しい。そこに何かが足りないが、この喪失感もやがて人々の間から消えて、忘れ去られていくのだろう。


グレーと青を混ぜた雲の淵はうっすらと光を反射し、桃色に輝く。その隙間から青空が流れてゆく。雲間から沈む夕陽の光筋が見える。管楽器の音が響く。自転車を漕ぐ。襟を立てる。鳶が羽ばたく。水は常に流れ、輝く。

待ち人は来ない。そもそも待ち人などいない。

色付いた葉が落ちることを、寂しいと思ってばかりいては、季節は巡らないのだ。

いつだって空は美しい。
また空を見上げよう。

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