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トレイルランニング:脊振全山縦走 福吉駅~原田駅 (2023/04/01-02)
【基本情報】
実施日: 2023年4月1日午前11時ごろ出発~4月2日午前9時前到着
走行エリア:福吉駅~脊振全山~原田駅
距離:Garmin実測/76.68km Yamap実測/75.4km
標高差:Garmin実測/4458m YAMAP実測:+5493m -5450m
福岡を代表するロングトレイルルート、脊振全山をトレイルランニングスタイルの0泊2日で縦走しました。今回は動画なし。
詳細情報
気候条件
当日の天候:晴れ(1日中)
最低・最高高度: 7m - 1043m
最低・最高気温: 6~10℃? - 23℃
フィードバックデータ
かかった時間:21時間57分(コースタイム170-190%)
消費カロリー:推定7615kcal
推定発汗量:9678ml
休憩時間:累計1時間半程度
平均移動ペース: 16:26
平均移動速度 : 4.6km
平均心拍:135
道具
【ウェア】
・ノーブランド / メッシュTシャツ
・ナイキ / トレイルショーツ
・モンベル / ソフトシェルジャケット
・YAMATUNE / タビソックス
・アルトラ / ローンピーク5
・ノースフェイス / キャップ
・モンベル / トレントフライヤー上下
【ザック類】
・RunwalkStyleオリジナル / YURENIKUI SETARO(15L)
・halocommondity / ridge capについてくるサコッシュ
【フラスク類】
・ウルトラスパイヤー、オスプレイ / 500mlソフトフラスク
・エバニュー / ウォーターバッグ 1.5L
・カタダイン / BeFree 1L
【その他】
・SOL / エマージェンシーヴィヴィ
・エマージェンシーキット一式
・ホイッスル
・熊鈴(夜間用)
・マイルストーン / MS-i1
・携帯トイレ(小)
・印刷した地図
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縦走開始
①福吉駅〜十坊山
準備を調え、11時少し前に福吉駅よりスタート。西側から脊振糸島側を進むのは初めて。桜を見ながら歩き始める。ロードの平地はまだ飛ばさず、これからの長い道を思いながらゆっくり進む。
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十坊山へのトレイルはけっこう多くの人たちで賑わっていた。この縦走で1番多くの人を見たのはこの区間だった。
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十坊山の山頂は標高が低いので、さすがに早く着いた。息を整えて先へ進む。ここからは少し前敢行した糸島4座縦走の帰路を途中までなぞる。
②十坊山〜女岳
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十坊山から白木峠への道は反対なら急登だが、このルートでは降りなので楽。とはいえスタートしたばかりで補給食や水が潤沢であるため背中が重い。降った後の登りは堪える。ゴルフ場に隣接する橋で食べ物を探して鼻を動かし歩くアナグマを見つけた。気取られるとトレイルの中心に沿って逃げていった。なるほどそれで道中に「落とし物」があるわけだ。
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浮嶽の長い登り、長い区間を終え女岳へ向かう。
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白竜神社なども経由したあと、流儀として側道の舗装路で無く荒谷峠を通って女岳に登頂する。その後は荒川峠へ合流する。
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③女岳〜羽金山
実はここから雷山へのルートは初めてだった。人はまるでいないが蜘蛛の巣はやたら引っかかる。仕方ないので棒を装備する。お家壊してごめんね。羽金山の前は「不明瞭」とされるゾーンで、歩くと確かに分かりづらい。道の広さに対して正解ルートが1パターンしかない、というタイプだ。ちゃんと見たらわかるけど、夜は注意深く進まないとロストしそうだ。
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羽金山への分岐で一旦河童山へ。羽金山がよく見える。羽金山自体はパスした。時間的には間に合うけど、疲れが出始めて気分が乗らなかったため。
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④羽金山~井原山
長野峠から雷山方面にアプローチするのは初めて。この辺りで県境を迎える。峠を抜けて一度眺望の良いピークに出たとき、前方に見える雷山の高さと遠さに気を落とす。疲労感で登りが一向に進まない。普段であれば息切れすることなどない斜度でもやたらと疲れる。
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這う這うの体で雷山に登頂すると少しずつ日が落ち始めた。時刻は17:20。
そこからは稜線に沿って進むだけなのでいくぶん楽になった。富士山(ふじやま)などを越えて井原山にたどり着く。時刻は18時22分。
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日が落ち始めきたのでいいタイミングとみて大休止をとることに決めた。
風と冷え対策にシェルとロングパンツの着用、夜間装備の準備、スマートウォッチとスマートフォンへの充電、軽い食事、水分のフラスクへの補充。そんなことをやっているうちに夕日が美しいグラデーションへと移ろっていく。春の夕日はピンクだったな、と思いながら少し体を休める。
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スマートウォッチは8割まで充電し、スマートフォンは充電しながら進むことにした。30分が経過しすっかり夜になりかけていた。
三瀬峠へ足を進める。
⑤井原山~金山
井原山から降りる際にMS-i1のスイッチを入れる。が、何度やっても起動しない。嘘だろ、と思いながら予備のライトを起動する。が、こっちも起動しない。洒落にならん!と焦るも一旦は予備ライトが起動した。しかし光量が心許ないため、やはりMS-i1を再度触る。色々試した結果、「電池を逆にしてから戻す」と起動した。充電モード的なやつになってたのか?よくわからないけど安心した。サブとは比較にならない光量で道を照らしてくれる。
真っ暗の三瀬峠は車もまばらだった。ここから長い時間暗闇を進み続ける。
距離にしておよそ30km少々。チェックポイントともいえる。
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相変わらず疲れた状態で三瀬山、城ノ山を越える。そこから10分ほどでアゴ坂峠に到着。ここから少し進むと山中分岐、そうここはついに念願の水場である。
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事前調査でこの付近はほぼ確実に「ルート上に水源がある」と把握していたが、思った以上の水量だった。当初はパイプから出る壊れたシャワーみたいに勢いのない水をすくっていたが、少し進むと勢い滝のごとく流れる沢があったのでそちらで保管した。
この際に使ったのが浄水器であるカタダイン・BeFreeである。とにかく浄水スピードが速いだけでなくフラスク自体が1Lあり、水がなくても軽量コンパクトにできると非常に優れた能力を持っている。
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充分に水を補給できたことで一安心。
少し進んだ先で、実に6時間ぶりとなる登山者と遭遇。同じく脊振全山の最中で金山に進んでいたようだが、絶妙にわかりにくい道の分岐で一緒に迷うことになった。そこからはペース的に私のほうが速いので先に進ませてもらった。しかし、同じ道を目指す人がいるのは心理的に心強く、気分はすこし前向きになった。
金山付近では福岡市街が一望できた。ナイトハイクの実感がわいてくる。ずいぶん遠くに見えるきれいな風景で、もしここから降りてもあそこまでは遠いな…と考えながら補給食を摂った。この際にのちの準備として持参していたアルファ米に水を注いでおいた。
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⑥金山~脊振山
金山からは足場の悪い岩場が続く。疲労もあるので注意しながら進んでいく。開けたところに出るたび左手に福岡の夜景。少し進めば右手に佐賀の夜景。このエリアは昼にきたら眺望がすばらしいんだろうな、という箇所がいくつかあるが初めて来たのでわからない。
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そうこうしてるうちに椎原峠に到着する。時計は既に一日をまたぐ目前。脊振山まではもう少し。
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椎原峠から脊振山まではこのルートで一番気持ちよく走れる区間とも言え、フラットなシングルトラックがキロ単位で続く貴重なエリアでもある。
唐人の舞はパスした。この付近は短い区間ながら風景の移り変わりも多く好きなトレイルのひとつだ。
矢筈峠からはロードに接続。無理はせず歩いていく。
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テントサイトを越えると待ちに待った瞬間が訪れる。
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この瞬間を4時間近く考えていた。時刻は0時30分を過ぎている。
まさにオアシス。炭酸が体に染みわたる。
水場が発見できなかったので他に水分も調達しつつ、体を温めるためにコーヒーも買った。山頂についてからは小屋で二度目の大休止。同じく充電をしつつ装備を整えルートを確認する。風が冷たく小屋の存在は非常にありがたかった。
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そして金山で水を注ぎ、加食状態に戻っていたアルファ米で食事を摂る。信じられないくらいうまい。
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エネルギー重視で選んだ補給食はボソボソだったり味が濃すぎたり逆に淡白だったりで途中から全然食欲がわかなかったが、このご飯は止まらない。本当に持ってきて良かった。食べ合わせは悪いがその後の缶コーヒーも最高だった。体を少し休めつつ、充電が残りの推定時間まで持つ程度に復旧するのを待った。かれこれ30分程度休み、腰を上げる。
⑦脊振山~九千部山
脊振から蛤岳の方面は看板では迂回、と書いてあるが実際は進める。崩落した橋はきれいな新品となっている。ただ赤テープで封鎖された場所や、まだ崩落したままの道もあるため注意は必要となっている。
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この辺りである自身の体の変化に気づく。走れる。登れる。どうやら背振山頂の補給と休息が効いたらしく、信じられないくらい調子が戻ってきた。スタート時点よりいいくらいだ。走れるとはなんて気持ちいいんだろう!登りも楽しい!とそれまで苦しかった記憶がすべて飛んでしまうくらい快調な縦走が45kmを過ぎてから始まる。
中盤疲弊しきっていた原因を結果的に言えば、ハンガーノックに陥っていた。ロングトレイルということで脂質の多い補給食ばかり摂っていたが、糖質が単純に足りなかったらしい。このロングトレイルだけでなく先月の大会でも感じたことなので非常に良い経験値となった。
蛤岳へと進むうち、いつの間にか先月の五ヶ山・脊振クロストレイルのコースに合流したことに気づく。あの時は昼間だった。非常に思い出深い区間なので、しみじみと走り抜けた。蛤岳につくと蛤岩の存在に気づき、一枚撮る。それくらい余裕が出ていた。MS-i1は煌々と闇夜を照らしてくれている。
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蛤水道では念のため補給した。ここを超えるとおそらく水の補給は難しい。結果的には使うことなく他の水で事足りた。
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坂本峠、七曲峠は思った以上に長く地味にきつい区間だ。ここもレースのコースだったはずなのにほとんどの道を覚えてなかった。三国峠についてからは登りが続く。しかし復調した自分には特に苦はなかった。
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九千部山頂に行く手前で10分くらいさ迷った後、九千部山に到着した。
時刻は5時30分。空は青みがかっている。ゴールまで残すは10km。
マンハッタンを食べながらあと少しだけ、の夜景を眺めた。
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⑧九千部山~基山
九千部山から降るとすぐに明るくなり、トレイルに合流した時点でライトなしでも眼前のトレイルを目視できるくらいになっていた。人のいない道を黙々と駆けていく。やがて大峠に着き権現山から降るころ、とうとう朝日が昇った。
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トレイルを照らす朝日はとても美しく、長い暗闇から解放されたことの安堵感があった。ナイトトレイル自体は楽しいがやはり明るいトレイルの解放感には及ばない。一日の始まりを知らせる朝であるがまだ自分の長い一日は終わっていない。降りのトレイルを快調に走り抜けていく。
柿ノ原峠についてから九州自然歩道に向かうも、道が崩落しており進めないので迂回路を進む。道の崩落に加え、トレイル自体が荒れ果てている。
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ここから約4km長いロードが続く。しかも峠道なので基本登りである。道中に自販機などはない。黙々と進む。しかし桜はある。一本桜は見事だった。
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1時間以上かけてようやく基山にたどり着く。最後の登りはまるで壁のようだ、と感じた。
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ゆっくり、確実に進むと登頂した先には開けて眺望が待っていた。右手に少し進むと山頂に着く。これが最後のピーク。あとは、降るだけ。
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⑨基山~原田駅
麓から基山に至るまでのトレイルは大変整備されており、また水源豊かな山域ということもあってハイキングルートとして完成されていた。この前がロードだけだったので、最後に気持ちの良いトレイルを朝の一番いい時間に走れてよかった。
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トレイルから降りると林道に入り、その後ロードに接続する。ひたすら降るため公道に出るころには標高は50mを切っている。
この長い距離なのでタイムなどほとんど意味はないのだが、急げば行けそうだ…と判断しロードを残り体力で走っていく。
だいたい3kmくらい走り、ついにゴールである原田駅にたどり着く。
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時刻は8時42分。記録は21時間57分。行けた。22時間切り。こんなときでも気にしてしまう、トレイルランナーの性。
これまでのどのトレイルレースより長く、最大の標高差であり、なにより最長の活動時間となった背振全山縦走はここで完了した。
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【水場について】
今回最も重視したのは水源の確保だった。脊振山付近は非常に潤沢な水源であるが、その前後は逆で水場の乏しい区間が長く続く。
色々調べてみると一応複数の場所に沢が存在するようだけど、情報が曖昧だったり数年以上前のものが多かった。そのため、確度の高い水場での補給を前提としたプランを立てた。
今回要件として想定したのは
1.コースから外れないで手に入る
2.水場として確実に存在している
3.一定水量、水質が担保されている
地図上で推測した予想通り、上記を満たすのは以下だけだった。
①山中分岐
②脊振山周辺エリア(脊振山自販機、椎原峠、蛤岳付近/水路)
つまり三瀬エリアに行くまでの30km以上、蛤水道以降の20km弱は水の確保が不確定な状態となっている(一応九千部山頂の700m前くらいに「水場」の看板はある)
前半は道中で確保はできないと読んで水を普段より多い3.5L携行した。これは正解だった。また基本的に沢の水のため、直は少しリスキーだなと判断し携帯浄水器のbefreeを携行。ウォーターキャリーとしても優秀で、今後ロングトレイルには必携品となりそう。これがあるだけで行動可能範囲と時間が驚くほど拡張できる。
【所感】
初めての背振全山縦走は苦しい区間も長かったけど、補給やペース配分、夜間の長時間移動、気温の変化、疲労時の自身の状況、様々なトレイルでの体の使い分け…など非常に多くの経験を得ることができた。
スピード的にはコースタイム170-190%と悪くないけど、中盤20-45km地点は撃沈してコースタイム100%がやっとなレベルだったので対策をすれば20時間を切れる可能性はある。ポイントは補給。
しかしまたやるにせよ、そこまで飛ばすかはわからない。
今回はけっこう下調べをしっかりしたため、事前にシミュレートした範囲で予測通り進行出来てよかった。ケガしなかったのも良い。
昨年だったら多分できてなかったのでこの辺はロングレースのフィードバックが生きているということだろう。
また心拍ゾーンを見たところ、ゾーン5は0だった。翌日の主観疲労は想像してた動けない、というレベルより全然余裕がだった。
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7割くらい歩いたので全体的には余力があり、帰宅後も4時間の仮眠後普通に出歩けたし翌日も普段通り8時間睡眠で済んだ。その後は体の重さ、キレの悪さ、やたら食欲が出るなどの変化はあり、持久筋が疲れているという実感はある。しかし筋や関節が痛むなどはなく健康そのものである。あとはどれくらいで回復するのか?も重要なので記録していきたい。
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これらの経験は目下目標である100マイルを走るための第一歩になりそうだ。というか100マイルの長さがどういうものかやっとイメージできた。背振全山は距離に対しての標高差はあるうえ険しいほうなので、100kmくらいで同じ程度の標高差のロングレースなら普通に行けると思う。
来月、阿蘇ボルケーノトレイルが控えているがそれがまさにそんな感じなので、そういう意味でも自信となってよかった。
ロングトレイルはそれ自体が長く短い旅であり、すべてが完全に自己判断となることがとても面白い。今後も様々なルートをトレイルランニングスタイルで駆けていきたい。