トレラン道具③ STATIC / ADRIFT VEST
半年程度、様々なシチュエーションで試してみました。
StaticはOctaを使用した様々な製品をリリースしていますが、トレイルランニングに最も向いているのはこのベストであろうと思われます。
概要
スペック
素材 / Octa®CPCP®ポリエステル100%(内リサイクルポリエステル53%)
重量 / 75 g(Mサイズ)
公式サイト
※アクティブインサレーション、Octaなど基本的なことは周知の上という前提で書きますのでそのあたりをご存じでない場合は別途お調べください。
Octaの特性
StaticのAdrift シリーズはOctaを使用したミッドレイヤーという位置づけであり、特徴としてメッシュ構造があがります。これにより風抜けが良くオーバーヒートを防ぐことができるため、レイヤリング次第で調温がしやすい作りです。
Octaはその軽さと薄さに対して驚異的な保温能力があります。
メリノウールのようにじわりと暖かさが続く、というよりは体温に連動して短時間で暖かくなるというイメージです。そのため、冬場でも走ったり登ったり等強度が高い運動を行うと比較的短時間で体熱が反映されます。アクティブインサレーションの仕様上、動くと暖かくなりますが止まっているとそうでもありません。
例えばダウンジャケットの下でも「着たら暖かくなる」わけではなく、「動いて暖かくなったら熱を保持する」といった具合です。なので状況は極端ですがバイクに乗って風に吹かれる状態で着て密封しても暖かくはなりません(この場合は電熱でもないとそもそも暖かくなりませんが)
また、完全に濡れた状態では上手く機能しません。
このAdrift vestはそれらの特徴を踏まえたうえだとイメージしやすくなります。
軽く、小さくできる
夏の低山以外はオールシーズン使える
着るだけではそうでもないが、動くと暖かくなる
寒い場合は上にシェルを着ると更に保温される
暑い場合はシェルを脱ぐ、もしくはジップ開閉で通風させることでほどほどの温度になる
要点としては体温に応じて発熱し、過剰な過熱を通気により調整する、ということになります。
トレイルランニングに特化して考えた場合、ザックを外してシェルを着たり脱いだり…はなかなかの手間だしレースではロスになります。このベストは広めの温度帯をこれだけでカバーできるためその手間が省けます。保温しながら放熱も行える、全身にベンチレーションも備えたミッドレイヤーです。
フィールドレビュー
ベースレイヤーとシェル次第ではありますが、適切な温度帯としてはこれまでの経験から鑑みるに最高16℃くらいまで・下限はなしという感じでしょうか。基本的な考え方としては以下前提のもとで活躍させるものです。
①ベースレイヤーとシェルの間に着てブーストさせる
②温度変化が急激ではない状況において、ほどほどの温度で行動し続ける
参考として、昨年SEOUL50Kに出たとき(10月21日・6~16℃程度・一時雨天・最高標高700m程度)はベストの下にポリエステルTシャツを着た状態を基本とし、レインウェアを追加したり脱いだりという状態で適温を保てました。レインウェア自体も透湿性の高いトレントフライヤーだったので相性が良かったようです。
序盤にウインドシェル(マイルストーン・オニオンフーディー)を着ていた時はわりとすぐ暑くなって脱ぎました。けっこう薄手なんですけどね。
Tシャツ・ベスト姿になってからは、むしろ雨が上がった昼前からは少し暑いと感じるほどでやや汗ばみましたが、メッシュ構造のもうひとつの利点である「汗抜けが良く乾きが早い」という特性が生きました。これにより直接風の当たらない背面もベスト自体がじっとり保水することなく素早く乾燥してくれました。そのため汗冷えは避けられます。完全に保水すると調温性能は著しく低下するため、その点でもメッシュは適しています。
逆に言えば風ほぼすべてを通してしまうので、気温が低く風が常に吹く秋冬の稜線ルートなどはウインドシェルがないと保温されません。
他にも様々なレースや縦走でも試し、感想としては概ね上記と同じで「非常に使い勝手が良い」でした。
かなり広い季節とシチュエーションで使え、暑くても脱いだら小さく軽くなるので邪魔になりません。
通常使用においてはかなり暖かくなるので(厳冬期は不明。まぁ厳冬期はもっと暖かいの着るでしょうが)、トレイルランニングのような激しい運動を継続的に行うケースではベスト一択。おそらくクルーネックのロングスリーブでは保熱部位が多すぎて逆に暑すぎるほどです。体幹部分を温めるだけで体感温度は充分変わります。
ロングスリーブやロングパンツは上に何か着た状態で保温する、つまり比較的緩めかつ長い時間のハイクやテン泊時シュラフ内でのブーストに役立ちそうです。特に後者はAdrift Linerというインナーシーツが出てますので、同じような用途で使えるのではないかとみています。むしろパンツのほうが着て動けるしデッドエアが少ないのでいいかもしれません。普通に欲しいです。
ただ、いずれも藪漕ぎは絶対にNGです。アクティブインサレーションの特性を考えると熱を反射させるヴィヴィの下、もしくはシュラフのインナーにすればブーストとして活用できそうです。
ちなみに仕方ないですが、使ってしばらくすると背面下部は発汗→乾燥により多少汗臭くなります。抗菌防臭ではないので…。
この辺は洗濯でケアしてあげたらどうなるのか気になるところです。
写真
写真を掲載します。
※買ったばかりのものでなく半年ほど使用した状態です。
色はブラック、サイズはXSです。
モデルチェンジ前のものなので現行品とは胸ポケットの仕様が異なります。
収納に関しては明らかにジッパー付きの現行品のほうが使い勝手はいいですね。
ただ、そもそもこのベストを着用するときはトレイルランニングザックなどを上に重ねてストレージとして使わないので不便は感じません。
前面
首元はVネックっぽいですが、着たときはラウンドネックっぽい見た目でV感はあまりありません。肩はパイピングで補強されています。アームホールの広さを見ての通りルーズフィットなので着やすい。
ただ、デッドエアを減らすことを考えるとジャストサイズがよさそうです。
かなり薄いことがわかります。こんな薄くて本当に暖かいのか?と当初は訝しんでいましたが、テストしてすぐにOctaのすごさを知ることとなりました。
背面
私がこのベストを着るときは前述の通りザックを背負った上からなので、こう見ると意外と背面にスレが出ることもなく頑丈さについても問題はありません。色落ちについてもほとんどなし。
横
折り畳み時
めちゃくちゃ小さくなります。
こんな具合に収まりが良いのでとりあえずザックに入れておけば良いお守りになります。
摩耗箇所
推奨される洗濯方法は「ネットに入れておしゃれ着洗いや手洗いモード」だそうですが、私は「ネットに入れて普通モード」で行ってきました。
首回りはOctaフリース面が露出しているためどうしてもスレてきますが、毛羽立ってる程度なのでこの洗い方でも大きな問題はなさそうです。
逆に言えば首元以外はメッシュが表面にあるため、スレには案外強いようです。この生地なので試す以前に藪漕ぎがNGであることは明白なので必要がある場合は上にシェルを着ましょう。実際、小枝程度でも引っかかりはそれなりに気をつかいます。
総括
非常に使い勝手が良く、コストパフォーマンスはかなり良いです。
トレイルランニングは体温が基本的に高い状態が常でありながら、休憩時は一気に低下する…などミッドレイヤーに相当するウェアの選択が難しいですが、Adlift Vestはそこをうまいこと調整する役割を担ってくれます。夜間帯含むウルトラトレイルレースでも「とりあえず着ておく」くらいの感覚で活躍してくれることでしょう。
わりと頑丈だし、軽くて小さいのでナイトハイクや長時間縦走を行う際にも携帯しておくと何かと役立ってくれます。
Octaを使用した製品自体は増えていますが表面メッシュでベスト型は他にはなく、この仕様がトレイルランニングにおいて完璧な具合でマッチしてくれます。温度に合わせて調整するという前提であればメッシュのほうが表面ソフトシェル素材より勝手が良いんですよね。
私個人の考え方としては、トレイルランニングや長距離縦走では「いかにすぐ着脱できるか」を重要視しています。そのためロングスリーブよりは半袖+アームスリーブ、みたいな構成にしています。最小の手間で温度調整できる状態がベストですね。その点でもAdrift Vestは完璧です。シェル付きのOctaも便利そうですが、個人的には状況に応じ小分けに使い分けられるほうが好みなので機能は分割したい。
余談
ウェブサイトを見ているとアップサイクル品にOctaマフラーなるものもあり(SOLD OUT)、これは再入荷したらほしいですね。使い勝手がかなりよさそう。
Staticはいい製品を作る印象があり、このAdriftシリーズも気に入ってるので今後もごひいきにさせていただくことは多いだろうなと思ってます。まだ若いブランドながらコンセプトの徹底っぷりと品質、ちょうどそれが欲しかった!という製品企画、そして価格のバランスが非常に良いです。ミニマルなデザインで彩度が低めの落ち着いた感じもすごく趣味に合います。
…と言ってるそばから先日ALL ELEVATION S/Sを購入しました。なんと半額!でしたので即決です。うれしいね。これはメリノウール60%・ポリプロピレン40%のTシャツです。現行品はメリノウール50%, ポリエステル50%、生地生産国もタイ→日本となってます。ただ現行品より10gほどこちらのほうが軽いですね。
素材配分が変わっているので使用感も違うとは思いますが、細かいところ以外は大差ないかなと思ってます。これが私にとってベースレイヤートップスとしては初のメリノウール仕様製品です。
以前、ベースレイヤーは「ポリエステルだけでよくない?軽く破れにくいしすぐ乾くし」と考えていましたが実際にメリノウール製品(シャツ、ソックス)を使って考え方が変わりました。その調温機能もさることながら、なんと言っても「数日使っても臭わない」というポリエステルの防臭機能では無理なありがたい性能を有していることが非常に大きいです。なにせ今年は長期縦走を何度も行う予定なので、そこんところがけっこう気になりまして…
レースだけならポリエステルです。しかし例えば同じ距離でも途中で装備を更新できない長期縦走では話が変わります。今までなんでわざわざメリノ?と思ってたけど実際計画立てると確かにこれしかないな、と気付かされました。
メリノ100%が性能的にはベストではあるけれど実際の運用に当たりザック接触面によるピリング、夏季は速乾・保熱の面でも厳しそうなのでベースレイヤーはある程度頑丈な混紡を探してました。60/40だとどうなのか?というところから、徐々に比率を変えたものも買いつつ色々試していきたいですね。メリノウール100%のトップスもそのうち試したいところ。
これが良ければメリノウール混紡ベースレイヤーの性能が確かになるので下着も確証を持って買えそうです。Bringのやつですね。最低3日は臭くならなければOK。