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【北アルプス縦走 5Days】Day.3 槍ヶ岳山荘テント場~黒部五郎小屋テント場
稜線を歩き続ける日 その1
ある意味では最大の目的だった日。
それらは達成されました。
行程
①福岡空港→上高地→徳沢キャンプ場
②徳沢キャンプ場→槍ヶ岳山荘テント場
→③槍ヶ岳山荘テント場→黒部五郎小屋テント場
④黒部五郎小屋テント場→薬師岳山荘(小屋泊)
⑤薬師岳山荘→五色ヶ原テント場
⑥五色ヶ原テント場→雷鳥沢キャンプ場(立山経由)
⑦雷鳥沢キャンプ場→立山駅、下山
前回(2日目)
TJAR選手の応援と稜線歩き
槍ヶ岳テン場〜双六小屋
空気の冷たさで目を覚ますと時刻は3時を過ぎていた。起き抜けにお湯を沸かし、昨日と同じパンを食べる。ドライフルーツ(いちご)を挟むとジャム代わりとして美味くなることに気づく。摂取カロリーも上がるし良いことづくめだ。
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インスタントコーヒーを飲み、改めて準備を整えて静かな外に出る。空はまだ黒く、前日に続き満点の星空。さらに流れ星も見えた。
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岩肌が影のままの槍ヶ岳穂先には徐々にライトの点が増える。ご来光を臨むためであろうか、山頂をみると10名ほどいて、既に道中は星座が出来そうだった。
やはり昨日同様に4時を過ぎてからは時間の流れが早くなる。星たちは姿を隠し、濃い青だったはずの空は朝焼けに変わる。日の出の時間には遠く中央アルプス、南アルプス、富士山までも見渡せた。
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再び槍ヶ岳山頂方面に目をうつす。こちらの星座は数が増えていた。岩肌が目視できるほど明るい穂先の裏側に登る太陽を見た。ご来光を3000m級の山で見るのは当然ながら初めてで相応に感じ入るものがある。
このためにここに来る人がいるのも道理で、昨日深夜から動いて本当に良かったと改めておもった。
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朝を迎えて荷物を片付ける。1日の始まり。
撤収が完了した5時半に出発すると、山荘にはTJARの旗とスタッフ。今日の目的の一つ。
2日目は逆走応援も兼ねていた。選手たちを迎えるたびに一声かけさせていただく。すれ違いは22名。参考に逐一場所と時間をメモらせていただいた。先頭の竹村選手・土井選手は私が寝ている時間、既に前夜槍ヶ岳山荘を通過していた。速すぎやろ。特にわりと謎の多かった竹村選手のスピードに槍ヶ岳山荘付近はざわついていた。
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西鎌尾根を降る。
単純にルートとしても楽しみだった。すっかり明るくなっているので歩きやすい。日差しが厳しく既にメリノウールのアームスリーブすら暑くなっていた。取り外して日焼け止めを急いで塗ってひたすらにガレている降りを進む。
前日と違って降り基調となり、標高差の+は1000mを切るので気分的にも楽だった。
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ここからちょうどコースタイム的にTJAR選手とすれ違っていく時間帯に突入。合計で22名お声がけさせていただいた。山頂ではまるでダメだった通信も稜線まできたら回復したのでGPSでだいたいの位置を確認しながら進む。
個別に写真は撮らせていただいたが、noteでの掲載は控えておこう。長くなりすぎるし。
北アルプス後半に差し掛かり、寝不足と疲労でしんどいはずなのに笑顔で余裕(人によってはサービスポーズも)を見せてくれる選手たちに改めて驚く。実際にお話しさせていただくと、ロングレースで並走する人と話す時の「あの感じ」に近い雰囲気だった。距離と難易度は段違いだけど。
先述の通り6時時点で雲ひとつないカンカン照りで、やはり暑さが厳しくて調子が出ない、と言う方が多かった。逆にガスってきた区間ではだいぶ復調していたようだ。黒部五郎小屋まで断続的に選手たちとすれ違うことになった。
正直なところ「応援した」というよりは「応援してもらった」気分だった。厳しい状況でも進み続ける姿を見て何も感じないはずがない。
見守る多くの人が透明な火を灯されたとおもうが、自分もその感覚がこれを書いている今でも残っている。実際にここ数年でウルトラトレイルレースなどに出たことで、進むペースや休息の具合を見てリアリティがわいた感じもする。
さておき、話を西鎌尾根の位置まで戻す。まずシンプルに歩いてとても楽しかった。確かにうっかり滑落したらお終い感はあるけど普通に歩けば何も問題はない。ガレ場を降ってからは長い稜線歩きが始まる。
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この辺からアルプス歩いているなぁ、という実感が強くなる。なんせ稜線がひたすらに続く。イメージしてた北アルプスがまさにこれだった。
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ここからの行程はいわゆるダイヤモンドコースと呼ばれるルートをなぞる。コースの高低差は基本的に緩やかな波形であり、一部にややきついアップダウンもある(特に樅沢岳。偽ピークもあるし)
TJARのコースをトレースしたかったというのもあるけど、それ以上に「ひたすら稜線を歩く」このルートはとても魅力的だった。こんなに長い稜線がほぼない九州の方々にはよーくお分かりになることでしょう。普段の低山ではこんなルートはまずない。目的地までずっと2000mを超えた稜線。九州、というか西日本には存在しない高度でして…
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山頂からは槍ヶ岳の穂先が見えて、わりと進んだ安堵と前日ピークに登って本当に良かった、というふたつの気持ちが湧き上がる。槍ヶ岳が多くの人にとって特別な山である気持ちがわかった気がした。
少し進むと遂に双六小屋が見えた。やっとの小屋!水がほしいタイミングだった。
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裏のお水とお手洗いを!トイレはとても綺麗。
難易度の高くない人気ルートであるし、下山もしやすいため西鎌尾根を歩いてこちらの方面に進む人は多く、基本的に一本道が続く。
そのため歩行ペース次第では道中抜いたり抜かれたりする人が出てきて、そうなると自然に話が弾んで同行することだってある。双六小屋に着く頃には一緒に選手を応援したり、補給食の情報交換をしたり、目的地の分かれ際に握手をする、山ならではの一期一会もありうるということ。
双六小屋〜黒部五郎小屋
小休止と共に補給を済ませ、目の前にある長い坂を進む。分岐から3種類のルートを選べるけど、もちろん双六岳へ。
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縦走路は常に景色が変わって飽きない。ここからは特に最高の区間だった。いわゆる双六台地、晴天で遮るものなく開けた稜線を進む。振り返ると槍ヶ岳にいい塩梅で雲がかかっていたり、姿を表したりしていた。
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ロングトレイル感
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ここは日本です
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三股蓮華岳に向かって進む。この辺りは黒部源流方面も多く見渡せるし、どことなく花も増えていた気がする。というか実際お花畑も多い。残念ながらチングルマはほとんど花が終わっていた。
じっくり景色を楽しみながら、のどかに歩き続けた。
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そして丸山ピークに差し掛かる手前。ついに待ち遠しかった瞬間が訪れる。
そう、日本アルプスの象徴とも言える雷鳥である。しかも6羽のファミリー…!
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砂遊びしてるーー!!!キャーーー!!!
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雷鳥が人気の理由が心から理解できました。
手ぬぐい買います。
さておき三股蓮華岳に向かうまでにガスが濃くなってくる。雨は降らなさそうだったので、涼しいしいっか、くらいの気分で進む。
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当初は副案として黒部源流経由する?とも考えていたけど、最初のアルプスで奥地に行くのもなんか違うと思ってダイヤモンドコースにしていた。
実際にきてみると黒部源流はイメージ以上に奥まったところにあり、副案に留めておいたことに安心した。
次行くかはわからないけど、行く時は荷物を軽くしてから行こう…と強く思ったのでした。
ここまできたら黒部五郎小屋まではあと少し。
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そして13時半頃、黒部五郎小屋に到着。
テン泊の受付をして少し離れたテン場へ。
既に手前のスペースは良いところが抑えられていたので、奥の方へ。1番乗りだったのでいいポイントを抑えることができた。
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テントを張ってからまた少しガスが濃くなってきた。とりあえず昼ごはんをさっと食べ、休憩がてらダラダラ過ごす。なんだかんだ8時間以上動いてたので眠い。
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濃いめのガスのおかげで多少マシではあったけど、さすがに盆時期の平地なので太陽熱がなかなかこもり、仮眠してもすぐに起こされる。
位置的にどこか寄れるところもないのでゆっくりして過ごした。
17時を過ぎ、早い夕食を食べる。昼飯から3時間も経っておらず全然腹が減ってないので無理やり流し込む形になったけど、摂取分が想定カロリーに全く足りておらず回復のためにも食べねばならない。他には肩・首・お尻にラウンのCBDスポーツパーツを塗りこみマッサージした。既に3日風呂に入ってないのでベタつきが更に加速する。
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黒部五郎小屋付近はずっと圏外で、小屋のニュースでも精度の高い情報が得られなかった。そのため翌日の天気は不透明。祈るしかないので日没前にシュラフに入る。
前日と比べ標高およそ1000m低い場所では寒さをまるで感じず、ヴィヴィやオクタは不要だった。
20時を過ぎるとすっかり静かになったテン場は快眠するのにうってつけとなった。
一日の活動量:
槍ヶ岳•山荘テント場→黒部五郎小屋テント場
合計時間:8時間 12分
休憩時間:45分
距離:12.7 km
のぼり / くだり:899 / 1626 m
余談:TJARを知ったきっかけ等
長くなるが必要と思うので書いておくと、私がTJARを知ったのは2017年。
当時はまだトレイルランニングをしておらず(というより山を走るという概念自体持ってなかった)、山登りを始めて近場の低山や九重程度なら登れるようになりロードランニングも「やっと休まず10km走れるようになった(キロ5:30が「速い」と感じる)」レベルだった。
確かそのときにウルトラマラソンの存在を知ったからだったと思う。100km走るマラソンがあるということ自体が衝撃だった。そんなに走ったら人は死んでしまいます。
ならば国内で最も距離が長いレースは?みたいな軽いノリで調べたら結果、TJARに行き着いた…と記憶している。もう曖昧なのでわからないけど。確実なのは旧UTMFやUTMBより先に知ったということ。
そこでの最初の印象は「イカれてる!」という率直な完走であった。今考えてもめっちゃ普通の反応だと思う。そして別に賞品・賞金がでるわけでないし、出てるのはわりと一般寄りの人(一般人とは?)、サポートなしですべてが自己責任。
衝撃である。まるで意味がわからなかった。それでも何か気になって、NHKが出している2012年大会の書籍を買って読んだ。そこで細かいルールや選手の背景を知ることになる(テレビがなかったので映像ではなく書籍が先だった)
ちなみに賞品・賞金が出ないのは意味がわからないと書いたけど、そこが特に素晴らしいと思った。
当時、私はそれなりに日々を楽しんでいたけど、何かをしてもどこか本心と乖離してる感覚があって、はっきり言えば社会的にも個人的にも色々な意味でギリギリな状況だった。
日々のことがあまりに断片的でただ過ぎているだけだった。なんというかまるで前に進まない回廊をぐるぐる回り続けている」ような、一定の時空間に閉じ込められて何をしてもないものを無理やり捻り出している…焦燥とも少し違う、そんな感覚が常にあった。新しいことをしてもすぐに気持ちが溶けていき、すべてが借り物のような感覚。
ランニングを始めたのもそこが起点になっている。走るのは刹那的でも、走っているとそのうちもっと走れるようになる。そんな時に書籍を読んだ。何も感じないはずがない。
特に印象深かったのは、書籍最終章の「制限時間後」に黙々とゼッケンなしで誰もいないゴールに向かう岩崎選手の章だった。読み終えて自分でもわけがわからないくらい涙が流れていた。
私自身はスポーツに置いて第三者がナラティブを強調することが好きではない。感動は他者が押し売り出るものではない。しかしこれは全く異なる文脈、ただ競争するスポーツともまるで違う、それぞれのスタートとゴールが異なる415km以上のとてもとても長い旅に他ならないと胸を打った。
そこからだったと思う。まずはマラソン目指してまじめに計画立てて走ろう、とか自分が置かれた状況を少しずつでも変えて良くしよう、とか色々なことへの意識が変わった。私はまだスタートにすら立っていなかった。
その後、ロードをある程度走れるようになってからフルマラソンで当時の目標だったサブ3.5を達成したときは心底震えた。ある意味で生まれて初めて誰かに言われるでなく目標に対して努力量を設定し、それが成果になった瞬間だった。
その後にトレイルランニングを始めた。最初は10kmでもつらかった。次第に難しいレースも走れるようになり、現在はロードなら173kmまで走れるようになった。次は100マイルトレイルだ。少しずつでも目に見える形で積み重なるし、心持ちもそれに合わせて変化してきた。
九州においてTJARはあくまでメディア内でしか知ることができない遠い話で、「空気感」のようなものは感じることができない。ローカルな喩えになるけど、東京の人に「山笠の空気」を伝えられないのと同じ。
よほどの山好きを除けば、そもそも北アルプスの一部くらいしか知らず(上高地や黒部あたりとか…)、全体はわからないし、それら異なる広大な山域3つを繋ぐことのイメージができない。リアリティを感じられるのはせいぜい415kmをGoogle mapで調べて距離やばっ、福岡から鹿児島より遠いやん…となるくらいだ。
それが実際に槍ヶ岳に来るまでの過程、周囲の山の展望、その後の縦走路を通し、TJAR選手やそれを応援する多くの人を見たことでようやくリアルなものとして自分の中に顕在化した。
この3日目から、初めて書籍を読んだときのように何かがまた灯った感覚が今も残っている。