「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」BPO審理入りから一ヶ月 木村花さんの名誉は回復されるのか?
ここには木村花さんに対して人権侵害があったことを訴える木村響子さん側の申立書の内容と、フジテレビ側の反論が明記されている。
フジテレビの姿勢は今年7/31に公表された「TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020」検証報告と全く同じ主張である。
フジテレビの主張は次の三点
①「予め創作した台本は存在せず、番組内のすべての言動は、基本的に出演者の意思に任せることを前提として制作されていた」ことを踏まえ、「制作者が出演者に対して、言動、感情表現、人間関係等について指示、強要したことは確認されなかった」
②「同意書兼誓約書」に関しては、出演契約であり労働契約のように「指揮命令関係に置くものではない」として、「自己決定権を奪われたとの主張には理由がない」
③インターネット配信から放送後に至るまで、番組スタッフが本人と連絡を取り、ケア等により、「精神状況が比較的安定していることを確認している」ことなどを挙げて、「番組内で狂暴な女性のように描かれ、視聴者がSNS上で誹謗中傷し、精神的苦痛を受け、人格権を侵害されたとの申立人の主張は認められない」
実際問題として、上記の「ない」「ない」「ない」が事実であれば、あのような悲劇は起こるわけがない。
①はヤラセ演出に関する問題である。だが、ここで語られなければならない問題は番組内の演出ではなく、撮影現場の外で何が起きていたかである。
番組共演者による週刊文春への現場スタッフのヤラセを匂わせた告白は、実はあまり核心を突いているとは言えない。番組の全体の姿勢というより、単なる一スタッフの暴走だと受け取られかねないからである。
これはテラスハウスのスタジオトークの裏話が記事になっている番組宣伝コンテンツである。この内容を見たらわかるが、番組視聴者に対して出演者のSNSへ誘導しているのが明らかなのがわかる。
つまり番組内での演出は無くても、外部から視聴者を煽ること自体が番組全体の方向性を決める演出となっているのではないか?目の前で行われた演出ならば出演者は何らかの抵抗はできるが、知らないところで施された演出に対して出演者は防御の姿勢も取ることができない状態だったと言える。
フジテレビの検証報告では、スタッフによるSNSの炎上させる意図は否定しているが、炎上で注目を集め視聴率につなげるという論理は、業界関係者なら誰でも考えることであろう。そこをいくら否定しようとも説得力は皆無である。
②これは木村花さんがフジテレビと交わしていた「同意書兼誓約書」に関する問題である。検証報告にもあるとおり、フジテレビの主張はアクマで「出演者による犯罪に対する抑止力」ということになっているが、フジテレビ側に立って考えてみると、3/31の木村花さんの自傷行為が、フジテレビ側にとっては番組放送中止も想定される重大な事件であったことは間違いない。
当然、フジテレビがこの件を公表されるとまずいわけで、そこで例の賠償責任を盛り込んだ誓約書の存在意義が出てくることになる。自傷行為=出演者の不祥事と印象付ければ、木村花さんの自己決定権はここで消滅するという算段である。そして事実、自傷行為があったという件は隠蔽されて、番組はそのまま何もなかったように放送されていく。
③―番組スタッフが本人と連絡を取り、ケア等により、「精神状況が比較的安定していることを確認している」―
これが本当であれば、あの悲劇は起きていないのは誰の目にも明確なことである。
スタッフが木村花さんと連絡をとり続けたのは、アクマで番組の放送が最優先事項であるからだ。そうでなければ木村花さんのSNSに向けられたコメントを見て(特に3/31以降のもの)、「精神状況が比較的安定している」などと言えるはずがない。
5/1には、木村花さんがあれだけ嫌がっていたSNSを所属していたプロレス団体の意向で再開した(花さんからフジテレビに再開の連絡があったのは5/3)。非常に責任感の強い花さんは、フジテレビ・プロレス団体双方からの圧力に押しつぶされる形となってしまい、それに輪をかけて追い打ちしたのがSNSによる誹謗中傷だったのである。
一人の若い女性をここまで追い詰め、明るい未来を摘み取ってしまったフジテレビに人格権を侵害した意識が全く無いのであれば、再び同じ悲劇が繰り返されるであろう。誰も責任を取ろうとしない組織に未来を与えてはいけない。