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森は森、夜は夜

森は森、夜は夜、男は男、女は女であったころのお話。表は表、裏は裏、お金持ちはお金持ち、旅人は旅人だったころのお話。

ある秋の夜、おおきなお屋敷の扉の前に、大きな犬を連れた若者がやってきた。長旅だったのか疲れきってしまい、大きな声も出ないようだった。犬もうなだれていた。しばらくすると扉の上に光が灯った。若者を押しのけるように大きな扉が開き、中から優しそうなおばあさんが顔を出して、若者と犬を見つけるとすこし驚いて、二こと三こと言葉を交わし、中に招き入れた。

おばあさんは若者に熱いお茶を、犬にはドッグフードを山盛り振るまった。二人と一匹は大きなソファーに埋もれるようにして、長いこと話し込んでいた。いったい何を話しているのか、犬にはわからなかったが、大きな居心地のいい部屋だった。

夜が更けて、おばあさんは若者と犬を寝室に案内した。若者は靴下を脱いで足をほぐして横になるとすぐに寝息になった。それを見守っていた犬も、丸くなって目を閉じた。

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